夢と現実の境界線のようなモノ

みつ光男

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Ⅳ. Memories Of Desperation

【不慮不測】

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 もどかしい思いを抱きつつ僕は外に出た。

サヤカの部屋に着いた時はやんでいた雨が
しばらく歩いているとまた突然激しく降り始めた。

行き交う車にに水しぶきをかけられて

「これはたまらんな」

「ま、帰ってお風呂に入れば…」


 ??? 
その言葉を口にした瞬間、ある光景が脳裏に浮かんだ。

いつのことだろう?

そこは夏の屋外プール、イベントが開催されていて
僕は家族で遊びに来ている。

服を着たままプールサイドを歩いていると
大きな水しぶきが上がり

僕はずぶ濡れになってしまった。

「あ!申し訳ありません!大丈夫ですか?」

その時、謝罪に来た水着姿のアイドル。

「大丈夫、大丈夫、帰ってお風呂に入れば」

「ありがとうございます、本当に申し訳ありませんでした」

「パパは若い女子には優しいね」

 一緒に歩いていた娘のモモネが笑っていた。
あれはいつの出来事だっただろう?

今、車に水しぶきをかけられた事で
少しずつ僕の記憶が甦る。

そして鮮明な風景が僕の中で浮かび上がった。

「あ!シーサイドフェスや、あの『例の事故』があった日の!」


鮮明に脳裏に甦るあの日の光景、

確か途中でプールから一斉に出るように、と
緊急館内放送が流れ

ウォータースライダーの周辺に大きな人だかりが…

何事か?と僕とシオンが近づこうとしたが
人の波に押し戻されて近づくことすら難しい。


その向こう側から大きな声が聞こえる、

「誰か!早く!救急車呼んでください!早く!」

 すると人混みから弾き出されるように
1人の女性の怒りに満ちた声が聞こえた。

「何でメンバー変えたんですか!ハヅキが泳げへんの知ってますよね?」

あまりにも切迫した状況に
僕とシオンは居心地の悪さに耐えきれず

その場を後にした。

 翌日のニュースで知ったのだが
この日あるアイドルグループのメンバーの一人が

プールでの番組撮影中に水難事故で命を落とした、と
報道されていた事件。


それは誰だった?
誰だったんだ?


ハヅキ…ハヅキ…
確か、誰かがそう呼んでいた。

「黒澤…黒澤葉月…だ!」

ここから糸を引くように僕の消えていた記憶が
紐解かれてゆく。

その時テレビでインタビューを受けていたのが…

「酒本…酒本さかもと彩香さやか!」

「彩香…さやか…サヤカだって?も、もしかしてサヤカって…キャプテン?」

サヤカはLBKに所属する以前に
ある有名なアイドルグループに所属していた、
そう聞いたことがある。

彼女を知るきっかけになったのが
この日、屋外プールで開催されていたイベント

この日、今後の出来事に大きく関わる
"事件"が起きたのだ… 

ようやく僕はここまで記憶の糸を
手繰り寄せることが出来た。


こうしてこの日を境に僕はSpicy Redなる
アイドルグループの存在を知ることになった。


「こりゃ長い帰り道になりそうやな」

そしてあの時、サヤカ…
もとい彩香を責めていた一人のメンバー…


「う、うぅ、うわぁー!」

 そこでいつもの頭痛に襲われ
記憶の回復はここで止まってしまったのだった。

しかし、ただひとつ解明されたことがある

今日に繋がるあらゆる事例は
全てこの日から始まったのだ、と言うこと。
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