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Ⅳ. Memories Of Desperation

【キャプテン】

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 サヤカはことあるごとに僕にこう言った。

「いずれわかるようになるから、今はがんばって訓練を受けてほしいねん」

記憶が完全に戻らない状態で
あれこれ疑念を抱いても仕方がない。

これらの訓練が今後
何のためになるかなどと考えるのはやめにして

"いずれわかるようになる"

サヤカのその言葉を信じることにした。

 そんなある日、僕は巨大な冷蔵庫の中で
「極限下での実地訓練」なる作業をしている。

マイナス23度に設定された貯蔵庫らしき
巨大な冷凍庫を思わせる、限りなく寒い部屋、

そこで僕はひたすら箱を紐で縛る作業を続けていた。

 途中、何人かの同僚らが室内に行き来する中
ようやく終わらせて外に出ようとした矢先

「おつかれさまー」

入ってきた一人の女子の声、それは…

「あ、、おつかれさま!」

「そんなにかしこまらんでも今まで通り、"サヤカちゃん"でええんやで。しかしこの前は大変やったね」

「あ、『アレ』ね、ほんまキツかったわ」

 ここに来て早や3ヶ月以上過ぎていた、
「夕焼けのブランコ」事件の頃から
それなりに良好な関係ではあったものの

僕はサヤカとはすっかり旧知の友人のように親しくなり
会話もいつしかお互いから"敬語"が取り払われていた。

 もちろんサヤカだけでなく職員の誰もが
まるで僕を前から知っていたかのように接してくれる。

「しかし、あの状況からよく生きて帰って来れたもんやで」

「ほんまやね、フツーは死んでる。もう兄さん死ぬんか思たわ」

夕焼けのブランコ…

あの凄惨な事件を思い出すだけで
身の毛もよだつ思いではあるし

実際ミルカやアカリと言った犠牲になった人もいる。

 今思い出しても現実だったのだろうか?
そう疑うこともあるくらいあまりにも非日常的な出来事。

その後、自分が何一つ変わらない生活を送れている事を
まずはよかれと思うべきだろう。

 息子シオンの安否は未だわからないものの
彼は我が息子ながら非常に明晰で判断力のある男だ。

生き別れになって早や1年近くになるが
僕は彼の無事を信じて疑う余地はない。

まかり間違ってももうこの世にいない、なんてことは
あり得ないと思いながらも

何の情報もないことに対して
不安がないと言えば嘘になる…


そこまで考えて僕はふと我に返った、

シオンの安否…?

シオンの安否ってどう言うことだ?


僕が聞かされていた話は
家族全員が犠牲になり今は一人だけ

なのに、何故シオンとの記憶だけが
僕の頭の中で不自然に再生されているんだ?


そしてまた…いつかのように
頭の中で映像が早送りで流れて行く…

あの日…父と息子で入った真っ白な建物、
シオンと二人で歩く建物の中…
迷い混んだ真っ暗な部屋

そこで出会った1人の女性、彼女の名は…

記憶が錯乱して意識が朦朧となる。


「うわぁぁぁ!」


「兄さん、どないしたん!具合でも悪くなった?」


「あ!あ…頭が割れそうに痛い…!」


 このように僕は時折、何かを思い出そうと
潜在的に残されている記憶の断片を
垣間見る機会が増えていった。

そしてその度に嘔吐を催すような激しい頭痛と
脳内で再生される禍々しい映像によって
心身ともに蝕まれる日々が続くのだった。
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