夢と現実の境界線のようなモノ

みつ光男

文字の大きさ
上 下
44 / 71
Ⅳ. Memories Of Desperation

【キャプテン】

しおりを挟む
 サヤカはことあるごとに僕にこう言った。

「いずれわかるようになるから、今はがんばって訓練を受けてほしいねん」

記憶が完全に戻らない状態で
あれこれ疑念を抱いても仕方がない。

これらの訓練が今後
何のためになるかなどと考えるのはやめにして

"いずれわかるようになる"

サヤカのその言葉を信じることにした。

 そんなある日、僕は巨大な冷蔵庫の中で
「極限下での実地訓練」なる作業をしている。

マイナス23度に設定された貯蔵庫らしき
巨大な冷凍庫を思わせる、限りなく寒い部屋、

そこで僕はひたすら箱を紐で縛る作業を続けていた。

 途中、何人かの同僚らが室内に行き来する中
ようやく終わらせて外に出ようとした矢先

「おつかれさまー」

入ってきた一人の女子の声、それは…

「あ、、おつかれさま!」

「そんなにかしこまらんでも今まで通り、"サヤカちゃん"でええんやで。しかしこの前は大変やったね」

「あ、『アレ』ね、ほんまキツかったわ」

 ここに来て早や3ヶ月以上過ぎていた、
「夕焼けのブランコ」事件の頃から
それなりに良好な関係ではあったものの

僕はサヤカとはすっかり旧知の友人のように親しくなり
会話もいつしかお互いから"敬語"が取り払われていた。

 もちろんサヤカだけでなく職員の誰もが
まるで僕を前から知っていたかのように接してくれる。

「しかし、あの状況からよく生きて帰って来れたもんやで」

「ほんまやね、フツーは死んでる。もう兄さん死ぬんか思たわ」

夕焼けのブランコ…

あの凄惨な事件を思い出すだけで
身の毛もよだつ思いではあるし

実際ミルカやアカリと言った犠牲になった人もいる。

 今思い出しても現実だったのだろうか?
そう疑うこともあるくらいあまりにも非日常的な出来事。

その後、自分が何一つ変わらない生活を送れている事を
まずはよかれと思うべきだろう。

 息子シオンの安否は未だわからないものの
彼は我が息子ながら非常に明晰で判断力のある男だ。

生き別れになって早や1年近くになるが
僕は彼の無事を信じて疑う余地はない。

まかり間違ってももうこの世にいない、なんてことは
あり得ないと思いながらも

何の情報もないことに対して
不安がないと言えば嘘になる…


そこまで考えて僕はふと我に返った、

シオンの安否…?

シオンの安否ってどう言うことだ?


僕が聞かされていた話は
家族全員が犠牲になり今は一人だけ

なのに、何故シオンとの記憶だけが
僕の頭の中で不自然に再生されているんだ?


そしてまた…いつかのように
頭の中で映像が早送りで流れて行く…

あの日…父と息子で入った真っ白な建物、
シオンと二人で歩く建物の中…
迷い混んだ真っ暗な部屋

そこで出会った1人の女性、彼女の名は…

記憶が錯乱して意識が朦朧となる。


「うわぁぁぁ!」


「兄さん、どないしたん!具合でも悪くなった?」


「あ!あ…頭が割れそうに痛い…!」


 このように僕は時折、何かを思い出そうと
潜在的に残されている記憶の断片を
垣間見る機会が増えていった。

そしてその度に嘔吐を催すような激しい頭痛と
脳内で再生される禍々しい映像によって
心身ともに蝕まれる日々が続くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

leon
ホラー
元特殊作戦群の隊員が親友の娘「詩織」を連れてゾンビが蔓延する世界でどのように生き、どのように死んでいくかを語る

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

【完結済】ダークサイドストーリー〜4つの物語〜

野花マリオ
ホラー
この4つの物語は4つの連なる視点があるホラーストーリーです。 内容は不条理モノですがオムニバス形式でありどの物語から読んでも大丈夫です。この物語が読むと読者が取り憑かれて繰り返し読んでいる恐怖を導かれるように……

処理中です...