夢と現実の境界線のようなモノ

みつ光男

文字の大きさ
上 下
37 / 71
Ⅲ. 邪魅の棲む街

【名ばかりの新天地】

しおりを挟む
 数週間にわたる検査を受けた後
入院施設の事務長の計らいで
ようやく新しい就職先が決まった。

勤務先は以前、勤務経験のある
医薬品や医療機器を扱う会社。

つまりは新天地、とは名ばかりで
同じ職場に復職させてもらったというわけだ。

 会社にスーツがあるので
出社してから着替えたのでいいと上司から連絡があり

僕は私服で病院から直接会社へと向かった。

 職場に着き更衣室で着替えていると
久しぶりだからか、シャツがうまく着れなかったり

ネクタイが変な方向を向いたりして
着替えられないもどかしさを感じた。

これもゾンビウィルスの副作用
なのかも知れない。

 それでも僕は何とか着替えを済ませて
用意された自分のデスクに向かったのだが
この会社も「何か」がおかしい。

気圧が違うと言うか
まるで高い山に登っているような息苦しさと
建物全体に漂う消毒薬のような匂い。 

それはつい先日まで入院していた病院と
「同じ匂い」と言うか
雰囲気が漂っているようだった。

会社は以前勤務していた頃と違い
2階が事務所になっていて
早めに出勤してきた上司がデスクを囲んで
朝礼を始めていた。

「あ、由良野くん、出社してきたんだね」

「常務、お久しぶりです、よろしくお願いします」

そう言いながらも記憶を失くしている僕は
彼の顔に見覚えがないはずなのだが…

この事務所に入った途端
脳内に映像のようなものが早送りで再生された。

入社したての頃、右も左もわからない僕を
懇意に指導してくれた

常務…?常務…!
柴田常務じゃないか!

そして隣にいるのは当時同じ課だった坂本先輩、

何故ここで、この場所だけで
僕の記憶がはっきりと甦るんだ?

「由良野!元気そうだな、心配したぞ」

「坂本さん…」

 そして変化していたのは
会社の内装だけではなかった。

会社は常務と坂本先輩一人を除いては
誰も知らない人たちで

記憶の糸を辿れないと言うことは
おそらく初見の人たちなのだろう。

「それじゃ外回り行ってきます」

「1人で大丈夫か?」

「はい、ここの記憶は何故か残ってるみたいで」

明るく出迎えられたものの「出戻り」という事で
何だか居心地の悪さを感じたせいか
僕はなるべくこの場を離れたかった。

そしてそそくさと営業に出かけようとドアを開けた
その時だった。

外に出るドアを間違えて
事務所の奥にある扉を開けてしまった僕が

そのドアの向こうで見たもの…
それはあまりにも不気味な光景だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

ちょっとハッとする話

狼少年
ホラー
人の心理をくすぐるちょっとだけハッとする話です。色々な所でちょこちょこ繋がってる所もありますが。基本何処から読んでも大丈夫です。2.3分で読める話ばかりです。ネタが浮かぶ限り更新したす。一話完結です。百話を目指し書いていきます。

都市伝説 短編集

春秋花壇
ホラー
都市伝説 深夜零時の路地裏で 誰かの影が囁いた 「聞こえるか、この街の秘密 夜にだけ開く扉の話を」 ネオンの海に沈む言葉 見えない手が地図を描く その先にある、無名の場所 地平線から漏れる青い光 ガードレールに佇む少女 彼女の笑顔は過去の夢 「帰れないよ」と唇が動き 風が答えをさらっていく 都市伝説、それは鏡 真実と嘘の境界線 求める者には近づき 信じる者を遠ざける ある者は言う、地下鉄の果て 終点に続く、無限の闇 ある者は聞く、廃墟の教会 鐘が鳴れば帰れぬ運命 けれども誰も確かめない 恐怖と興奮が交わる場所 都市が隠す、その深奥 謎こそが人を動かす鍵 そして今宵もまた一人 都市の声に耳を澄ませ 伝説を追い、影を探す 明日という希望を忘れながら 都市は眠らない、決して その心臓が鼓動を刻む 伝説は生き続ける 新たな話者を待ちながら

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

まばたき怪談

坂本 光陽
ホラー
まばたきをしないうちに読み終えられるかも。そんな短すぎるホラー小説をまとめました。ラスト一行の恐怖。ラスト一行の地獄。ラスト一行で明かされる凄惨な事実。一話140字なので、別名「X(旧ツイッター)・ホラー」。ショートショートよりも短い「まばたき怪談」を公開します。

【全64話完結済】彼女ノ怪異談ハ不気味ナ野薔薇ヲ鳴カセルPrologue

野花マリオ
ホラー
石山県野薔薇市に住む彼女達は新たなホラーを広めようと仲間を増やしてそこで怪異談を語る。 前作から20年前の200X年の舞台となってます。 ※この作品はフィクションです。実在する人物、事件、団体、企業、名称などは一切関係ありません。 完結しました。 表紙イラストは生成AI

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

処理中です...