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Ⅲ. 邪魅の棲む街
【名ばかりの新天地】
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数週間にわたる検査を受けた後
入院施設の事務長の計らいで
ようやく新しい就職先が決まった。
勤務先は以前、勤務経験のある
医薬品や医療機器を扱う会社。
つまりは新天地、とは名ばかりで
同じ職場に復職させてもらったというわけだ。
会社にスーツがあるので
出社してから着替えたのでいいと上司から連絡があり
僕は私服で病院から直接会社へと向かった。
職場に着き更衣室で着替えていると
久しぶりだからか、シャツがうまく着れなかったり
ネクタイが変な方向を向いたりして
着替えられないもどかしさを感じた。
これもゾンビウィルスの副作用
なのかも知れない。
それでも僕は何とか着替えを済ませて
用意された自分のデスクに向かったのだが
この会社も「何か」がおかしい。
気圧が違うと言うか
まるで高い山に登っているような息苦しさと
建物全体に漂う消毒薬のような匂い。
それはつい先日まで入院していた病院と
「同じ匂い」と言うか
雰囲気が漂っているようだった。
会社は以前勤務していた頃と違い
2階が事務所になっていて
早めに出勤してきた上司がデスクを囲んで
朝礼を始めていた。
「あ、由良野くん、出社してきたんだね」
「常務、お久しぶりです、よろしくお願いします」
そう言いながらも記憶を失くしている僕は
彼の顔に見覚えがないはずなのだが…
この事務所に入った途端
脳内に映像のようなものが早送りで再生された。
入社したての頃、右も左もわからない僕を
懇意に指導してくれた
常務…?常務…!
柴田常務じゃないか!
そして隣にいるのは当時同じ課だった坂本先輩、
何故ここで、この場所だけで
僕の記憶がはっきりと甦るんだ?
「由良野!元気そうだな、心配したぞ」
「坂本さん…」
そして変化していたのは
会社の内装だけではなかった。
会社は常務と坂本先輩一人を除いては
誰も知らない人たちで
記憶の糸を辿れないと言うことは
おそらく初見の人たちなのだろう。
「それじゃ外回り行ってきます」
「1人で大丈夫か?」
「はい、ここの記憶は何故か残ってるみたいで」
明るく出迎えられたものの「出戻り」という事で
何だか居心地の悪さを感じたせいか
僕はなるべくこの場を離れたかった。
そしてそそくさと営業に出かけようとドアを開けた
その時だった。
外に出るドアを間違えて
事務所の奥にある扉を開けてしまった僕が
そのドアの向こうで見たもの…
それはあまりにも不気味な光景だった。
入院施設の事務長の計らいで
ようやく新しい就職先が決まった。
勤務先は以前、勤務経験のある
医薬品や医療機器を扱う会社。
つまりは新天地、とは名ばかりで
同じ職場に復職させてもらったというわけだ。
会社にスーツがあるので
出社してから着替えたのでいいと上司から連絡があり
僕は私服で病院から直接会社へと向かった。
職場に着き更衣室で着替えていると
久しぶりだからか、シャツがうまく着れなかったり
ネクタイが変な方向を向いたりして
着替えられないもどかしさを感じた。
これもゾンビウィルスの副作用
なのかも知れない。
それでも僕は何とか着替えを済ませて
用意された自分のデスクに向かったのだが
この会社も「何か」がおかしい。
気圧が違うと言うか
まるで高い山に登っているような息苦しさと
建物全体に漂う消毒薬のような匂い。
それはつい先日まで入院していた病院と
「同じ匂い」と言うか
雰囲気が漂っているようだった。
会社は以前勤務していた頃と違い
2階が事務所になっていて
早めに出勤してきた上司がデスクを囲んで
朝礼を始めていた。
「あ、由良野くん、出社してきたんだね」
「常務、お久しぶりです、よろしくお願いします」
そう言いながらも記憶を失くしている僕は
彼の顔に見覚えがないはずなのだが…
この事務所に入った途端
脳内に映像のようなものが早送りで再生された。
入社したての頃、右も左もわからない僕を
懇意に指導してくれた
常務…?常務…!
柴田常務じゃないか!
そして隣にいるのは当時同じ課だった坂本先輩、
何故ここで、この場所だけで
僕の記憶がはっきりと甦るんだ?
「由良野!元気そうだな、心配したぞ」
「坂本さん…」
そして変化していたのは
会社の内装だけではなかった。
会社は常務と坂本先輩一人を除いては
誰も知らない人たちで
記憶の糸を辿れないと言うことは
おそらく初見の人たちなのだろう。
「それじゃ外回り行ってきます」
「1人で大丈夫か?」
「はい、ここの記憶は何故か残ってるみたいで」
明るく出迎えられたものの「出戻り」という事で
何だか居心地の悪さを感じたせいか
僕はなるべくこの場を離れたかった。
そしてそそくさと営業に出かけようとドアを開けた
その時だった。
外に出るドアを間違えて
事務所の奥にある扉を開けてしまった僕が
そのドアの向こうで見たもの…
それはあまりにも不気味な光景だった。
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