夢と現実の境界線のようなモノ

みつ光男

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Ⅱ. 夕焼けのブランコ

【again】

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 そして戦闘服に身を包み銃を連射するその姿
ただのアイドルだと思っていた

サヤカの正体は…

そして"カナコに例の薬"を投与された僕は…

事件の喧騒と人の波に飲まれながら
サヤカと共に会場の外に出た僕は

「サヤカちゃん、もうひとつ仕事が残ってるで」

自嘲気味に笑いながら自分の頭を指さす。

「え?」

「俺のことも…バンっ!て撃たなきゃ」

「兄さん…」

「俺もウィルスを投与されてる…やからもうすぐ同じように」

「兄さん、ワタシにはできひん…」

そう言って駆け寄ったサヤカは
僕を強く抱きしめた。

 その瞬間、僕の頭の中で
色んな記憶が一斉に交錯し始めた。

 「あの時と同じ…髪の…」

サヤカの微かな髪の香りが
僕の頭の中で凍っていた記憶、
止まっていた時間を少しだけ呼び戻した。

脳裏にふと浮かんだ
甦る記憶の断片…


ー 夕陽に照らされた電車の中で
うとうとしながら僕の肩にもたれかかるサヤカ
あの日、僕と彼女に何が…?


「そうだ、あの時…あれは…いつだった?」

でもそこから先はまだ思い出せない。

サヤカは僕を抱きしめたまま微動だにしない。

「サヤカちゃん…?どした?俺がゾンビになったら…食べてしまうで」

「ええねん、私、このまま死んでも…私も…」

ウィルス投与から既に6時間が経過していた
僕は間もなくゾンビになるはず…

なのだが変わらない。

いまだに"人間"のままだ。

 おそらくウィルスに勝る
何かしらの免疫によって体内に抗体が出来て
ゾンビ化しない強靭な肉体を手に入れたのでは?

サヤカはそう言った。

 そう言えばある有名なホラー映画の中でも
そのような設定を聞いたことがある。

サヤカは僕の体とウィルスとの事について
何かを知っているのだろうか?

「兄さん、もう一回あの病院に戻れる?」

僕の腕の中でサヤカが言う。

「もうちょっとこのままでいいなら、ね。何か記憶が戻りそうやねん、サヤカちゃん、おも・・・い」

「重い?また、それ言う…!!!??」 

「だから…違うって!」

「じゃ、今迎えの連絡入れたからで、ならね」

「最後、オヤジギャグかい!」

そして僕は再び
あの暗く冷たい病室へと戻る事になった。
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