夢と現実の境界線のようなモノ

みつ光男

文字の大きさ
上 下
33 / 71
Ⅱ. 夕焼けのブランコ

【Mission2 ゾンビから観客を死守せよ!】

しおりを挟む
 何かを目にして逃げ惑う人の渦の中に一人…
いや1体、この世の物とは思えない生き物の姿が

髪を振り乱し両手を宙ぶらりんに広げ
世にもおぞましい形相で場内を徘徊する
人の形をした化け物・・・

その動きはまるで夢遊病者のようにおぼつかない
そして全身から周辺に漂う腐敗臭

これがゾンビか…

それは少し前まで人懐っこい笑顔を浮かべていた
ミルカの変わり果てた姿だった。

カナコは一体、何者で何故こんな生き物の開発に
関わっているのだろう?

それはあの日夢で見た
ある製薬メーカーで生み出された
不死身の生き物そのものだ。

会場がどよめく

まだこれが真実なのかイベントの演出なのか
理解しかねているようだ。

「ミル、ごめんな…」

 ゾンビ化してサヤカに襲いかかろうとした
ミルカの頭を

アイドルの衣装から戦闘服に装いを変えた
サヤカがショットガンで撃ち抜く。

頭部を半分えぐり取られ
それでも血まみれで唸り声を上げながら
近づくミルカの脳髄に

サヤカが取り出したサバイバルナイフで
躊躇なく突き刺した時

声もなく頭頂部からほとばしる鮮血と共に
ミルカのゾンビは絶命した。

「ミル…何で私があんたに…こんなこと」

 横たわる無惨なゾンビの亡骸と
返り血を浴びたサヤカの切迫した表情、

そして床に広がる血溜まりを見て
一瞬の静寂の後、怒号と悲鳴が会場を蹂躙する。

 その光景が演出ではないことを知った観客が
一斉に逃げ始めたのだ。

その少し向こう側からも聞こえる悲鳴。

サヤカが飛ぶように走って駆け付ける。

「兄さん、逃げて!」

「でも、サヤカちゃんが!」

「私はいいから、早く!」

「わ、わかった!」

 僕の視界の向こうで徘徊しているもう一体のゾンビ
それがどうやらアカリなのだとサヤカは気づいたらしい。

僕が踊り場へ逃げたのを見計らって
サヤカはアカリを追随した。

「こんな姿のあんたを見たせいで、兄さんが『あの頃』を思い出してしもたら…」

 サヤカが立ちはだかった視線の先に立つのは
ミルカ同様、

変わり果てた姿のアカリだった・・・

「アカリ、苦しかったやろ…今楽にしたるからな…」

ウガァァァ!

もはやサヤカを認識できないアカリのゾンビは
サヤカを"補食対象"と認識して

少しずつ歩みを進めていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【全64話完結済】彼女ノ怪異談ハ不気味ナ野薔薇ヲ鳴カセルPrologue

野花マリオ
ホラー
石山県野薔薇市に住む彼女達は新たなホラーを広めようと仲間を増やしてそこで怪異談を語る。 前作から20年前の200X年の舞台となってます。 ※この作品はフィクションです。実在する人物、事件、団体、企業、名称などは一切関係ありません。 完結しました。 表紙イラストは生成AI

MARENOL(公式&考察から出来た空想の小説)

ルーンテトラ
ホラー
どうも皆さんこんにちは! 初投稿になります、ルーンテトラは。 今回は私の好きな曲、メアノールを参考に、小説を書かせていただきました(๑¯ㅁ¯๑) メアノール、なんだろうと思って本家見ようと思ったそこの貴方! メアノールは年齢制限が運営から付けられていませんが(今は2019/11/11) 公式さんからはRー18Gと描かれておりましたので見る際は十分御気をつけてください( ˘ω˘ ) それでは、ご自由に閲覧くださいませ。 需要があればその後のリザちゃんの行動小説描きますよ(* 'ᵕ' )

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。 現在 100話 越え。 エブリスタ・カクヨム・小説家になろうに同時掲載中 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 【総文字数 700,000字 超え 文庫本 約7冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

視える私と視えない君と

赤羽こうじ
ホラー
前作の海の家の事件から数週間後、叶は自室で引越しの準備を進めていた。 「そろそろ連絡ぐらいしないとな」 そう思い、仕事の依頼を受けていた陸奥方志保に連絡を入れる。 「少しは落ち着いたんで」 そう言って叶は斗弥陀《とみだ》グループが買ったいわく付きの廃病院の調査を引き受ける事となった。 しかし「俺達も同行させてもらうから」そう言って叶の調査に斗弥陀の御曹司達も加わり、廃病院の調査は肝試しのような様相を呈してくる。 廃病院の怪異を軽く考える御曹司達に頭を抱える叶だったが、廃病院の怪異は容赦なくその牙を剥く。 一方、恋人である叶から連絡が途絶えた幸太はいても立ってもいられなくなり廃病院のある京都へと向かった。 そこで幸太は陸奥方志穂と出会い、共に叶の捜索に向かう事となる。 やがて叶や幸太達は斗弥陀家で渦巻く不可解な事件へと巻き込まれていく。 前作、『夏の日の出会いと別れ』より今回は美しき霊能者、鬼龍叶を主人公に迎えた作品です。 もちろん前作未読でもお楽しみ頂けます。 ※この作品は他にエブリスタ、小説家になろう、でも公開しています。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

子籠もり

柚木崎 史乃
ホラー
長い間疎遠になっていた田舎の祖母から、突然連絡があった。 なんでも、祖父が亡くなったらしい。 私は、自分の故郷が嫌いだった。というのも、そこでは未だに「身籠った村の女を出産が終わるまでの間、神社に軟禁しておく」という奇妙な風習が残っているからだ。 おじいちゃん子だった私は、葬儀に参列するために仕方なく帰省した。 けれど、久々に会った祖母や従兄はどうも様子がおかしい。 奇妙な風習に囚われた村で、私が見たものは──。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ハプスブルク家の姉妹

Ruhuna
ファンタジー
ハプスブルク家には美しい姉妹がいる 夜空に浮かぶ月のように凛とした銀髪黒眼の健康な姉 太陽のように朗らかな銀髪緑眼の病弱な妹 真逆な姉妹だがその容姿は社交界でも折り紙付きの美しさだった ハプスブルク家は王族の分家筋の準王族である 王族、身内と近親婚を繰り返していた 積み重なったその濃い血は体質だけではなく精神も蝕むほどの弊害を生み出してきているなど その当時の人間は知る由もない

処理中です...