夢と現実の境界線のようなモノ

みつ光男

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Ⅱ. 夕焼けのブランコ

【悪夢の再来】

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 僕は数年前「ある事件」で家族を失った…

そんな衝撃的なエピソードから
サヤカの話は始まった。

その事件とはある人体実験のために計画された
大量殺人の被害者とも言われ

郊外のショッピングモールで立てこもり犯に
人質全員が惨殺された事件だった。

 僕は家族でそこへ買い物に来ていたのだが
当時、そこで働いていた母親が
僕だけを裏口から逃がして助け出し

妻と子供を見殺しにしてしまったため
その罪の重さに耐えかねて

借金苦で一人、人知れず家を飛び出していた上に
この一件で更に罪悪感を増すことになり

自分を追い込んで
細々と余生を送っているらしい。

先ほど僕が母親に告げた「」とは
この事件のこと…だったのか?

と、なると母親の存在は僕が記憶を取り戻す
ひとつのきっかけになるのかも知れない。

 そして一瞬にして家族を失った僕は
悲しみのあまり全ての記憶を失い

時折断片的に思い出すものの、
肝心な所になると激しい頭痛に襲われて
それ以上は思い出す事が出来ず

自分に家族がいた事すら
はっきりとは覚えていないのだと言う。

おそらく僕が病院で受けていた治療は
失われた記憶を呼び起こすための

「何か」だったのかも知れない。

 しかし僕の記憶回復とこの大量虐殺事件が
どこで結び付くのかは皆目見当もつかない。

「何でサヤカちゃん、そんな事を知って…」

「私が駆け付けた時には…遅かってん」 

「何の事?」

「いずれわかる日が来ます…それより悲しい記憶を思い出させてしまって…」

「じゃ、あのカナコって人は?」

「そう…兄さんの知ってる人や」

「やっぱり…何故か名前だけ記憶にあったんで」

ー 兄さんあの頃のことほんまに…全部忘れたん?
せめてそれを思い出してくれたら…

「さ!そろそろ行きましょ」

 ここで僕たちは話を切り上げて会場へ入り
二人の亡骸を探すことにした。

とにかく時間がない、カナコたちは何のために?
その疑問を拭えないまま
何も知らずにイベントを楽しむ観衆を尻目に

僕たちは薄暗い会場の隅っこを移動しながら
くまなく不審な人物を探し始めた。
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