22 / 71
Ⅱ. 夕焼けのブランコ
【兄さん】
しおりを挟む
そんなひと悶着があった中で
メンバーとの作曲活動が始まって数日が経過
番組の収録と並行して行われている
新曲のプロモーションビデオを
近くの川原で撮影中に
サヤカの体調が悪くなったと連絡が入り
人手が足りないので一番近くの病院まで
連れて行ってほしいと言われる。
「楽曲アドバイザーと言うより、お世話係みたいやね」
そんな冗談を言いつつ川原に向かいながらも
"病院"と言う言葉に
僕は何とも言えない不吉な響きを感じたが
サヤカの体調も気になるので大急ぎで向かった。
ここから歩いて5分くらいの場所にあるその川原は
鬱蒼とした背の高い草が生え少し先も見えない
水辺の近くまで寄ってみると
流れは穏やかではあるが
清流と言うよりはどこか深淵のような
底の深さを感じた。
「かなり深いな、ここは」
「水が緑色やと深いって聞いたことありますね」
笑顔でそう答えるのはエミカ。
肩より少し伸びた髪は
毛先が茶色く染められていて
笑うと無くなる錯覚すら覚える二重の瞳に
ふと吸い込まれそうになる。
ハキハキした喋り方には好感が持てるが
メンバーの中で
一番大人っぽいビジュアルに反した
どこか舌ったらずな口調に
いい意味でのギャップを感じる。
「こんな川には河童がいるって聞いたことある」
「か…河童?ふふ、兄さん、何真顔で冗談言うてますのん?」
「あ、いや、昔よく言うてなかった?近所のおばあちゃんとかが」
「私らの時代には…ねぇ、あんまり、ふふっ」
「ジェネレーションギャップ…ってやつかなぁ?」
「でも私、そう言う話好きですよ」
「お!同世代やん!」
「ね!おとうさんっ!」
「ガクッ、兄さんからお父さんに格下げやん」
「ふふふ」
エミカの言動を見るに連れ
彼女にもサヤカ同様
人を惹き付けるような何かを感じた。
「あ、兄さん来てくれた、サヤカさん、やっと来たでー、兄さんやで」
と、ミルカも笑顔で迎えてくれる
外での撮影で気持ちも晴れたのか
その表情はこれまでになく明るい。
かなりメンタルを病んでいるのでは?と
心配していたのでホッと胸を撫で下ろす。
ところで僕はこの企画が始まってすぐに
メンバーと打ち解けた事もあり
いつからか "兄さん" と呼ばれ
メンバーからもすぐ慕われるようになった。
ただ、その "兄さん" と言う呼ばれ方が
あまりにも違和感がなく
過去にもそう呼ばれていたかのような
錯覚に陥った。
「あ…兄さん」
これだ、この呼ばれ方!
中でもサヤカにそう呼ばれた時の
違和感のなさと言ったら…
彼女たちと関わることがもしかしたら
僕の記憶を取り戻す手がかりになるのかも知れない
作曲のために設けられた見覚えのある一軒家
まるで以前の僕のことを知るかのような人たち、
誰かが何かの意図で僕を試しているように思えた。
メンバーとの作曲活動が始まって数日が経過
番組の収録と並行して行われている
新曲のプロモーションビデオを
近くの川原で撮影中に
サヤカの体調が悪くなったと連絡が入り
人手が足りないので一番近くの病院まで
連れて行ってほしいと言われる。
「楽曲アドバイザーと言うより、お世話係みたいやね」
そんな冗談を言いつつ川原に向かいながらも
"病院"と言う言葉に
僕は何とも言えない不吉な響きを感じたが
サヤカの体調も気になるので大急ぎで向かった。
ここから歩いて5分くらいの場所にあるその川原は
鬱蒼とした背の高い草が生え少し先も見えない
水辺の近くまで寄ってみると
流れは穏やかではあるが
清流と言うよりはどこか深淵のような
底の深さを感じた。
「かなり深いな、ここは」
「水が緑色やと深いって聞いたことありますね」
笑顔でそう答えるのはエミカ。
肩より少し伸びた髪は
毛先が茶色く染められていて
笑うと無くなる錯覚すら覚える二重の瞳に
ふと吸い込まれそうになる。
ハキハキした喋り方には好感が持てるが
メンバーの中で
一番大人っぽいビジュアルに反した
どこか舌ったらずな口調に
いい意味でのギャップを感じる。
「こんな川には河童がいるって聞いたことある」
「か…河童?ふふ、兄さん、何真顔で冗談言うてますのん?」
「あ、いや、昔よく言うてなかった?近所のおばあちゃんとかが」
「私らの時代には…ねぇ、あんまり、ふふっ」
「ジェネレーションギャップ…ってやつかなぁ?」
「でも私、そう言う話好きですよ」
「お!同世代やん!」
「ね!おとうさんっ!」
「ガクッ、兄さんからお父さんに格下げやん」
「ふふふ」
エミカの言動を見るに連れ
彼女にもサヤカ同様
人を惹き付けるような何かを感じた。
「あ、兄さん来てくれた、サヤカさん、やっと来たでー、兄さんやで」
と、ミルカも笑顔で迎えてくれる
外での撮影で気持ちも晴れたのか
その表情はこれまでになく明るい。
かなりメンタルを病んでいるのでは?と
心配していたのでホッと胸を撫で下ろす。
ところで僕はこの企画が始まってすぐに
メンバーと打ち解けた事もあり
いつからか "兄さん" と呼ばれ
メンバーからもすぐ慕われるようになった。
ただ、その "兄さん" と言う呼ばれ方が
あまりにも違和感がなく
過去にもそう呼ばれていたかのような
錯覚に陥った。
「あ…兄さん」
これだ、この呼ばれ方!
中でもサヤカにそう呼ばれた時の
違和感のなさと言ったら…
彼女たちと関わることがもしかしたら
僕の記憶を取り戻す手がかりになるのかも知れない
作曲のために設けられた見覚えのある一軒家
まるで以前の僕のことを知るかのような人たち、
誰かが何かの意図で僕を試しているように思えた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
彷徨う屍
半道海豚
ホラー
春休みは、まもなく終わり。関東の桜は散ったが、東北はいまが盛り。気候変動の中で、いろいろな疫病が人々を苦しめている。それでも、日々の生活はいつもと同じだった。その瞬間までは。4人の高校生は旅先で、ゾンビと遭遇してしまう。周囲の人々が逃げ惑う。4人の高校生はホテルから逃げ出し、人気のない山中に向かうことにしたのだが……。
S県児童連続欠損事件と歪人形についての記録
幾霜六月母
ホラー
198×年、女子児童の全身がばらばらの肉塊になって亡くなるという傷ましい事故が発生。
その後、連続して児童の身体の一部が欠損するという事件が相次ぐ。
刑事五十嵐は、事件を追ううちに森の奥の祠で、組み立てられた歪な肉人形を目撃する。
「ーーあの子は、人形をばらばらにして遊ぶのが好きでした……」
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる