夢と現実の境界線のようなモノ

みつ光男

文字の大きさ
上 下
6 / 71
Ⅰ. ゾンビ大会

【人影】

しおりを挟む
 謎の注射器が気になって仕方がない
まさか本当に注射をしているのだろうか?

行列を後ろから追いかけ追い越す際に
細かく確認しようとすると

「お注射、いかがです?」

ナースの一人と目が合った。

先ほど黒板消しの女の子と話した時にも感じたが
この場にいる出演者らしき人たちから

感情がかけらほども感じられない。

台詞もまるで棒読みで
それはロボットか…それこそゾンビのようにも思えた。

僕は一人階段を下りて廊下の端にいるであろう
シオンからの合図を待つ。

 すると廊下の一番端の踊り場付近で
僕を見つけたシオンが
ショットガンを差し上げて合図している。

その階の端と端ではあるが
お互いの姿とその安全が確認ができた。

 行列は2階の廊下も巡回していたが
当然ながら注射を受ける人はいないようで
安心しながらも

僕はまるで映画のワンシーンのように
角を曲がる度に銃を構えて警戒する、

もはや完全にホラー映画の主人公気取り。

 周囲に慌ただしい雰囲気は、まだない。
ゾンビはまだ出てきていない様子だ。

僕が1階へ降り、下駄箱を通過して
正面玄関の曇りガラス越しに外を覗いた時

すぐ近くから
わらわらと人の群がる気配を感じた。

はっきりとは見えないが
一人、ニ人ではなくかなりの人数。

えっ、ゾンビが出てくるなら施設内だろ?
なぜ外から"大勢の人の気配"が?

それともゾンビを演じる"役者"が
人知れず施設内に入るところを見てしまった?

せっかくのゲームなのにそんなネタバレは
興醒めだな…

と、きびすを返して
"大勢の何者か"に気づかれないよう

僕は下駄箱付近へと戻り
安全な逃げ場所を確保しようとチェックする。

そう、もうひとつ考えられる最悪の事態
あの人影が本物のゾンビだとしたならば…!
そのための対処策だ。

 万が一にもそんなことはあり得ないとは言え
先ほどまで合図を送っていた
シオンの姿が全く見えなくなったことに
僕の心配が少しずつリアリティを帯びてきた。

シオンのいる場所は異常ないのだろうか?

再び、対面の廊下の端から様子をうかがうが
その姿はどこにもない

 一体、どこに行ったのだろう?
もしかしたら合流するつもりで別ルートから
こちらを目指しているのかも知れない

 僕はしばらく下駄箱の周辺で
どこから現れるかも知れぬゾンビに警戒しつつ
シオンを待つことにした。

その間も例の人影は一向に施設に入る様子もなく
正面玄関の周辺をうろうろと闊歩していた。

 これが演出であるなら
なかなか手の込んだスタッフだ、と
後から誉めてあげたいところだが

雰囲気で察するところ、残念ながら
思い切り不測の事態としか思えない。

しかし…ゾンビ?

それはないとしても
脱獄囚?サイコパス集団?カルト宗教の教徒?

明らかに良からぬ有象無象どもが
この施設に入り込もうとしている。

もうゲームのゾンビがいつ現れるかなど
どうでもよくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっとハッとする話

狼少年
ホラー
人の心理をくすぐるちょっとだけハッとする話です。色々な所でちょこちょこ繋がってる所もありますが。基本何処から読んでも大丈夫です。2.3分で読める話ばかりです。ネタが浮かぶ限り更新したす。一話完結です。百話を目指し書いていきます。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

まばたき怪談

坂本 光陽
ホラー
まばたきをしないうちに読み終えられるかも。そんな短すぎるホラー小説をまとめました。ラスト一行の恐怖。ラスト一行の地獄。ラスト一行で明かされる凄惨な事実。一話140字なので、別名「X(旧ツイッター)・ホラー」。ショートショートよりも短い「まばたき怪談」を公開します。

妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子
恋愛
  お母様が亡くなってからの私、《セルフィ=ローズリカ》の人生は、最低なものだった。 お父様も、後妻としてやってきたお義母様も義妹も、私を家族として扱わず、家族の邪魔者だと邪険に扱った。 本邸から離れた場所に建てられた陳腐な小さな小屋、一日一食だけ運ばれる質素な食事、使用人すらも着ないようなつぎはぎだらけのボロボロの服。 ローズリカ子爵家の娘とは思えない扱い。 「お義姉様って、誰からも愛されないのね、可哀想」 義妹である《リシャル》の言葉は、正しかった。   「冷酷非情、血の公爵様――――お義姉様にピッタリの婚約者様ね」 家同士が決めた、愛のない結婚。 貴族令嬢として産まれた以上、愛のない結婚をすることも覚悟はしていた。どんな相手が婚約者でも構わない、どうせ、ここにいても、嫁いでも、酷い扱いをされるのは変わらない。 だけど、私はもう、貴女達を家族とは思えなくなった。 「お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」 お父様の娘はリシャルだけなの? 私は? 私も、お父様の娘では無いの? 私はただリシャルの身代わりの花嫁として、お父様の娘でいたの? そんなの嫌、それなら私ももう、貴方達を家族と思わない、家族をやめる! リシャルの身代わりの花嫁になるなんて、嫌! 死んでも嫌! 私はこのまま、お父様達の望み通り義妹の身代わりの花嫁になって、不幸になるしかない。そう思うと、絶望だった。 「――俺の婚約者に随分、酷い扱いをしているようだな、ローズリカ子爵」 でも何故か、冷酷非情、血の公爵と呼ばれる《アクト=インテレクト》様、今まで一度も顔も見に来たことがない婚約者様は、私を救いに来てくれた。 「どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」 この日から、私の立場は全く違うものになった。 私は、アクト様の婚約者――――妹の身代わりの花嫁は、婚約者様に溺愛される。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔法あり。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【コレって】ストーカーする幽霊っているの?【心霊現象??】

一樹
ホラー
学生時代からの友人にストーカー被害にあってるからと助けを求められた男性。 どうやら怪奇現象のようなものが起こってるらしいが、霊感がないためわからない彼は、昔読み物として親しんでいた掲示板で情報収集を始めた。

処理中です...