夢と現実の境界線のようなモノ

みつ光男

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Ⅰ. ゾンビ大会

【人影】

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 謎の注射器が気になって仕方がない
まさか本当に注射をしているのだろうか?

行列を後ろから追いかけ追い越す際に
細かく確認しようとすると

「お注射、いかがです?」

ナースの一人と目が合った。

先ほど黒板消しの女の子と話した時にも感じたが
この場にいる出演者らしき人たちから

感情がかけらほども感じられない。

台詞もまるで棒読みで
それはロボットか…それこそゾンビのようにも思えた。

僕は一人階段を下りて廊下の端にいるであろう
シオンからの合図を待つ。

 すると廊下の一番端の踊り場付近で
僕を見つけたシオンが
ショットガンを差し上げて合図している。

その階の端と端ではあるが
お互いの姿とその安全が確認ができた。

 行列は2階の廊下も巡回していたが
当然ながら注射を受ける人はいないようで
安心しながらも

僕はまるで映画のワンシーンのように
角を曲がる度に銃を構えて警戒する、

もはや完全にホラー映画の主人公気取り。

 周囲に慌ただしい雰囲気は、まだない。
ゾンビはまだ出てきていない様子だ。

僕が1階へ降り、下駄箱を通過して
正面玄関の曇りガラス越しに外を覗いた時

すぐ近くから
わらわらと人の群がる気配を感じた。

はっきりとは見えないが
一人、ニ人ではなくかなりの人数。

えっ、ゾンビが出てくるなら施設内だろ?
なぜ外から"大勢の人の気配"が?

それともゾンビを演じる"役者"が
人知れず施設内に入るところを見てしまった?

せっかくのゲームなのにそんなネタバレは
興醒めだな…

と、きびすを返して
"大勢の何者か"に気づかれないよう

僕は下駄箱付近へと戻り
安全な逃げ場所を確保しようとチェックする。

そう、もうひとつ考えられる最悪の事態
あの人影が本物のゾンビだとしたならば…!
そのための対処策だ。

 万が一にもそんなことはあり得ないとは言え
先ほどまで合図を送っていた
シオンの姿が全く見えなくなったことに
僕の心配が少しずつリアリティを帯びてきた。

シオンのいる場所は異常ないのだろうか?

再び、対面の廊下の端から様子をうかがうが
その姿はどこにもない

 一体、どこに行ったのだろう?
もしかしたら合流するつもりで別ルートから
こちらを目指しているのかも知れない

 僕はしばらく下駄箱の周辺で
どこから現れるかも知れぬゾンビに警戒しつつ
シオンを待つことにした。

その間も例の人影は一向に施設に入る様子もなく
正面玄関の周辺をうろうろと闊歩していた。

 これが演出であるなら
なかなか手の込んだスタッフだ、と
後から誉めてあげたいところだが

雰囲気で察するところ、残念ながら
思い切り不測の事態としか思えない。

しかし…ゾンビ?

それはないとしても
脱獄囚?サイコパス集団?カルト宗教の教徒?

明らかに良からぬ有象無象どもが
この施設に入り込もうとしている。

もうゲームのゾンビがいつ現れるかなど
どうでもよくなっていた。
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