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第7話 ピリ辛肉野菜炒め 後編
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「ん~!美味し~い~!!」
口いっぱいに野菜炒めを頬張った水国さんが頬に手を当てながら咀嚼する。
すでに酒を飲んでいるため、すっかり彼女は出来上がっていた。
「シャキシャキのお野菜はもちろん、お肉の脂も甘くて美味しいです!でもピリ辛の味付けなのでパクパク食べれますね!」
彼女は次々と野菜炒めを口に運ぶ。食べている最中、思い出したかのように米にも箸を伸ばす。
「うーん甘辛くてご飯進みますね~!後味のレモンの香りも濃い野菜炒めを食べやすくしてくれます!」
そんな笑顔で食べてもらえると俺としても素直に嬉しい。
俺はハグハグと食べ続ける彼女を微笑ましげに見る。
「プハ~!ハイボールも美味し~い!!」
彼女はグラスを上にあげながら叫ぶ。その有様はまるで仕事終えた後のサラリーマンだ。
そんな彼女を見つつ、俺はずっと気になっていたあのインスタント食品ばっかのレジ袋について聞くことにした。
「なぁ、一つ聞きたいことあるんだが…」
「なんですか?」
「お前、俺と食べるとき以外…ちゃんと食べてるか?」
「…っ!?」
俺の質問に驚いたのか彼女は目を見開き、カチンと固まってしまった。
彼女はしばらく固まっていると、口に入っているものを飲み込み、なんとか声を絞り出す。
「…ちゃ…ちゃんととは…?」
「いや、さっきレジ袋の中見た時インスタントばっかだったからな。それ以外のものは食べているのかなってな…」
余計なお世話なお世話なのはわかっているのだが、流石にあの袋の中を見てしまったら心配になってくる。
俺がそんなことを考えていると当の本人は目を泳がせていた。
「た…食べてますよもちろん!!」
いや、そんなオロオロしながら言われてもな…。
「本当のところは?」
俺が彼女の目を見ながら聞くと観念したのか目を逸らす。
「…はい。弁当とかばっかです…。」
「そうか…」
俺は思わず額に手を当てる。
別に弁当やカップ麺がダメなわけではないが、流石にほぼ毎日とかになると話は別だろう。
そんな俺の様子に彼女は思いつめたような顔になる。
「…すみません。」
「いや、別に攻めてるわけじゃない…。お前、確か料理始めたんじゃなかったか?」
俺が聞くと彼女は再び目を逸らした。
「いや…あの…レンジが爆発した後…私には料理は無理だと思いまして…。」
「そうか…」
あれに関してはレンジに金属を入れたことによる事故だし、料理の技術以前の問題だしな…。彼女自身、自分が何をやらかしてしまうのかがわからないってところか。
「でも、高橋さんがご迷惑なら…」
「いや別に迷惑なんかじゃない。これは俺が頼んだことなんだからな…」
だが、このままにしておくのもな。毎日、俺が作るわけにはいかないし…。
俺がしばらく悩んでいると、一つ案が思い浮かんだ。
「なぁ、水国さん…。お前が良ければなんだが…」
「なんですか?」
「今度、俺が料理教えようと思うんだが…どうだ?」
誰かが彼女が料理するところをそばで見ていれば、そう簡単にあんな事故を起こすようなことはないだろう。
お節介だとは思うが、多少料理ができるようになればインスタント生活からは少しくらい脱却できそうだしな。
俺がそんなこと考えていると彼女は目を見開きながら口を開く。
「え…そんな良いんですか?」
「あぁ。お前さえ良ければだけど。料理教室とか沢山あるしな。」
別に俺が教える必要もないしな。俺より料理上手い人なんていくらでもいるし…センパイとか…。
俺の言葉に彼女は悩みだす。
しばらくすると答えが出たのか俺の顔を見るて、頭を下げる。
「はい。それではよろしくお願いします。でも…」
「?」
彼女が何やらモジモジと少し恥ずかしそうに言う。
「高橋さんから教えてほしい…です…」
なんだそんなことか。もとからそのつもりだしな。
「あぁ。もちろん。」
俺が返事をすると彼女の顔に喜色が表れる。
「ありがとうございます!では続き食べましょうか!」
そんなに喜ばれると俺もなんか照れるな…。
「あ、あぁ。そうだな。」
俺達は食事を再開した。
◇
食べ終わった私達はテーブルで休んでいた。
「あ~旨かった。でも、少し多すぎたな…。」
高橋さんはお腹をさすりながら水を飲んでいる。
皿の量を見たとき、確かに彼の量が多かった。最初は彼が男だからと思っていたが、もしかして私が食べやすい量に調整してくれたのではないのだろうか…。
そんな疑問が浮かんだが、そんなことで一々お礼を言っても彼が困るだけだろう。
そう考えた私は心の中で彼の親切に感謝しつつ口を開く。。
「そうですね!こんなに美味しい野菜炒め初めて食べました!」
心の底からの本音だ。野菜炒めなんて久しく食べていない。味付けや炒め方でこんなに変わるなんて信じられなかった。
彼自身の腕もあるだろうが、気持ちもこもっているからだろう。
我ながらロマンチックなことを考えているなと思っていると、彼が立ち上がる。
「ありがとうな。さて…皿洗わなきゃな…」
彼の顔をみると若干苦しそうだ。まだ消化しきれてないのだろう。
私は…そこまで満腹じゃない…なら…
「高橋さんは寝ててくださいよ!私が洗いますから!!」
私がそう言うと彼は申し訳無さそうな顔をする。
お世話になっている私が何もしないわけにはいかない。
「だが…」
「「だが」も「でも」もないですよー!お腹いっぱいなんでしょ?私がやりますから、休んでてください!」
「そうか…それなら言葉に甘えさせてもらおうかな。実は結構苦しくて…」
彼はそう言ってソファに転がった。
寝ているからか、幾分か彼の表情が和らいでいく。
私は彼の様子を確認するとお皿を台所まで運んだ。
「さて、やりますか!」
私は皿洗いをしながら先程の彼との会話を思い出す。
「ふふっ…高橋さんとお料理教室かぁ…」
彼とのマンツーマンで関わるのはお食事会を抜けば前に遊びに行った時くらいだろう。しかし、あの時は色々あったため彼と二人っきりで純粋に楽しめたかといえば微妙だ。もちろん忘れられない大切な思い出には変わらないのだが。
だが、今回はそんなアクシデントが起きることのない二人っきりの世界…。しかも彼からの申し出…断る理由などない。
「センパイさん…あなたには感謝します…」
あの時…カフェでセンパイさんが耳打ちしてくれた…「心配しなくてもいいぞ!私には愛しい恋人がいるからな!君の大切なシゲくんに手はださないさ!!」という言葉…。
正直、言われたときは脳がパンクするかと思ったが…今、思い返すと色々腑に落ちることがある。
「私…高橋さんのことが…」
私にとって…高橋さんは大切な存在になっている。この感情を一言で表すなら、これで間違いないだろう。
「よしっ皿洗い終わり!!」
彼を誰にも渡したくない…私といてほしい…そんな私の思いは目の前にあるピカピカのお皿のように輝いていて…それでいて歪んでいた。
口いっぱいに野菜炒めを頬張った水国さんが頬に手を当てながら咀嚼する。
すでに酒を飲んでいるため、すっかり彼女は出来上がっていた。
「シャキシャキのお野菜はもちろん、お肉の脂も甘くて美味しいです!でもピリ辛の味付けなのでパクパク食べれますね!」
彼女は次々と野菜炒めを口に運ぶ。食べている最中、思い出したかのように米にも箸を伸ばす。
「うーん甘辛くてご飯進みますね~!後味のレモンの香りも濃い野菜炒めを食べやすくしてくれます!」
そんな笑顔で食べてもらえると俺としても素直に嬉しい。
俺はハグハグと食べ続ける彼女を微笑ましげに見る。
「プハ~!ハイボールも美味し~い!!」
彼女はグラスを上にあげながら叫ぶ。その有様はまるで仕事終えた後のサラリーマンだ。
そんな彼女を見つつ、俺はずっと気になっていたあのインスタント食品ばっかのレジ袋について聞くことにした。
「なぁ、一つ聞きたいことあるんだが…」
「なんですか?」
「お前、俺と食べるとき以外…ちゃんと食べてるか?」
「…っ!?」
俺の質問に驚いたのか彼女は目を見開き、カチンと固まってしまった。
彼女はしばらく固まっていると、口に入っているものを飲み込み、なんとか声を絞り出す。
「…ちゃ…ちゃんととは…?」
「いや、さっきレジ袋の中見た時インスタントばっかだったからな。それ以外のものは食べているのかなってな…」
余計なお世話なお世話なのはわかっているのだが、流石にあの袋の中を見てしまったら心配になってくる。
俺がそんなことを考えていると当の本人は目を泳がせていた。
「た…食べてますよもちろん!!」
いや、そんなオロオロしながら言われてもな…。
「本当のところは?」
俺が彼女の目を見ながら聞くと観念したのか目を逸らす。
「…はい。弁当とかばっかです…。」
「そうか…」
俺は思わず額に手を当てる。
別に弁当やカップ麺がダメなわけではないが、流石にほぼ毎日とかになると話は別だろう。
そんな俺の様子に彼女は思いつめたような顔になる。
「…すみません。」
「いや、別に攻めてるわけじゃない…。お前、確か料理始めたんじゃなかったか?」
俺が聞くと彼女は再び目を逸らした。
「いや…あの…レンジが爆発した後…私には料理は無理だと思いまして…。」
「そうか…」
あれに関してはレンジに金属を入れたことによる事故だし、料理の技術以前の問題だしな…。彼女自身、自分が何をやらかしてしまうのかがわからないってところか。
「でも、高橋さんがご迷惑なら…」
「いや別に迷惑なんかじゃない。これは俺が頼んだことなんだからな…」
だが、このままにしておくのもな。毎日、俺が作るわけにはいかないし…。
俺がしばらく悩んでいると、一つ案が思い浮かんだ。
「なぁ、水国さん…。お前が良ければなんだが…」
「なんですか?」
「今度、俺が料理教えようと思うんだが…どうだ?」
誰かが彼女が料理するところをそばで見ていれば、そう簡単にあんな事故を起こすようなことはないだろう。
お節介だとは思うが、多少料理ができるようになればインスタント生活からは少しくらい脱却できそうだしな。
俺がそんなこと考えていると彼女は目を見開きながら口を開く。
「え…そんな良いんですか?」
「あぁ。お前さえ良ければだけど。料理教室とか沢山あるしな。」
別に俺が教える必要もないしな。俺より料理上手い人なんていくらでもいるし…センパイとか…。
俺の言葉に彼女は悩みだす。
しばらくすると答えが出たのか俺の顔を見るて、頭を下げる。
「はい。それではよろしくお願いします。でも…」
「?」
彼女が何やらモジモジと少し恥ずかしそうに言う。
「高橋さんから教えてほしい…です…」
なんだそんなことか。もとからそのつもりだしな。
「あぁ。もちろん。」
俺が返事をすると彼女の顔に喜色が表れる。
「ありがとうございます!では続き食べましょうか!」
そんなに喜ばれると俺もなんか照れるな…。
「あ、あぁ。そうだな。」
俺達は食事を再開した。
◇
食べ終わった私達はテーブルで休んでいた。
「あ~旨かった。でも、少し多すぎたな…。」
高橋さんはお腹をさすりながら水を飲んでいる。
皿の量を見たとき、確かに彼の量が多かった。最初は彼が男だからと思っていたが、もしかして私が食べやすい量に調整してくれたのではないのだろうか…。
そんな疑問が浮かんだが、そんなことで一々お礼を言っても彼が困るだけだろう。
そう考えた私は心の中で彼の親切に感謝しつつ口を開く。。
「そうですね!こんなに美味しい野菜炒め初めて食べました!」
心の底からの本音だ。野菜炒めなんて久しく食べていない。味付けや炒め方でこんなに変わるなんて信じられなかった。
彼自身の腕もあるだろうが、気持ちもこもっているからだろう。
我ながらロマンチックなことを考えているなと思っていると、彼が立ち上がる。
「ありがとうな。さて…皿洗わなきゃな…」
彼の顔をみると若干苦しそうだ。まだ消化しきれてないのだろう。
私は…そこまで満腹じゃない…なら…
「高橋さんは寝ててくださいよ!私が洗いますから!!」
私がそう言うと彼は申し訳無さそうな顔をする。
お世話になっている私が何もしないわけにはいかない。
「だが…」
「「だが」も「でも」もないですよー!お腹いっぱいなんでしょ?私がやりますから、休んでてください!」
「そうか…それなら言葉に甘えさせてもらおうかな。実は結構苦しくて…」
彼はそう言ってソファに転がった。
寝ているからか、幾分か彼の表情が和らいでいく。
私は彼の様子を確認するとお皿を台所まで運んだ。
「さて、やりますか!」
私は皿洗いをしながら先程の彼との会話を思い出す。
「ふふっ…高橋さんとお料理教室かぁ…」
彼とのマンツーマンで関わるのはお食事会を抜けば前に遊びに行った時くらいだろう。しかし、あの時は色々あったため彼と二人っきりで純粋に楽しめたかといえば微妙だ。もちろん忘れられない大切な思い出には変わらないのだが。
だが、今回はそんなアクシデントが起きることのない二人っきりの世界…。しかも彼からの申し出…断る理由などない。
「センパイさん…あなたには感謝します…」
あの時…カフェでセンパイさんが耳打ちしてくれた…「心配しなくてもいいぞ!私には愛しい恋人がいるからな!君の大切なシゲくんに手はださないさ!!」という言葉…。
正直、言われたときは脳がパンクするかと思ったが…今、思い返すと色々腑に落ちることがある。
「私…高橋さんのことが…」
私にとって…高橋さんは大切な存在になっている。この感情を一言で表すなら、これで間違いないだろう。
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