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【 花の章 】―弐―
257 魁先生のその名に
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十一月十八日の夜、近藤さんの妾宅に伊東さんを呼び出して、酒を酌み交わしたらしい。そして、その帰路にて殺害。
そのまま日をまたいだ十九日未明、伊東さんの亡骸を油小路へ捨て置き、遺体を引き取りに来た衛士七名のうち、藤堂平助、服部武雄、毛内有之助の三名を討ったという。
それから半日が経った十九日の夕刻。
止まらない涙のせいで視界はいつもの半分しかないけれど、沖田さんに呼び出されているので重い腰を上げ、冷たい風で瞼を冷やしながら夕日が差し込む外廊下を進む。
途中、向かいからやって来た永倉さんと原田さんが、私の前で足を止めた。見上げた二人の目は揃って夕日みたいに赤く、お互いの顔を見やるなり沈黙が流れた。
そんな中、最初に口を開いたのは永倉さんだった。
「実はな……近藤さんと土方さんに頼まれて、平助をあの場から逃がす予定だったんだ」
そう言われて思い出したのは、永倉さんと藤堂さんが鍔迫り合っていた場面。
永倉さんは確かに藤堂さんに何か話しかけていたし、今思えば、無理やり端の方へ追いやろうともしていた。
そっか。あれは逃がそうとしていたんだ……。
「けどな……あいつ、逃げなかったんだ」
「そう、だったんですね……」
「何ていうか、あいつらしいよな」
すると今度は、原田さんが懐かしむように口を開いた。
「そういや、二人は事あるごとに競い合ってたよな」
「あ、あれは……! いつも藤堂さんが勝手に……」
――春には負けたくない――
いつだってそんな対抗心を燃やされて、やたらと勝負を持ちかけられたっけ。
「まぁ、あいつも負けず嫌いだったからな。けど、春は気づいてなかっただろ」
「……何をですか?」
「あいつの縵面形はさ、好きな方を自在に出せるんだよ」
「……え」
何それ……そんなの知らない。初めて聞いた。
信じられない思いで永倉さんの方を見るも、苦笑を返されてしまった。それどころか、ほとんどの人が知っていると言う。
「左之。『何で春にバラすの……』って平助の奴、今頃怒ってるぞ?」
「いいんだよ。俺らより先に逝っちまったあいつが悪いんだ」
そう言って、二人は顔を見合わせるなり同時に吹き出した。ここに藤堂さんがいたならきっと、高い位置で結った色素の薄い尻尾のような髪を揺らしながら、まるで子犬みたいに一生懸命反論したに違いない……。
そんな光景を浮かべたのは私だけじゃないみたいで、二人も眉尻をほんの少し下げるけれど、すぐに笑顔を取り戻して両側から私の肩を叩いた。
「いつまでも泣いてたら、それこそ怒られそうだからな」
「だな。最後の最後まで魁先生かよって、笑ってやるくらいでちょうどいいんだ」
本当は私よりもずっと悲しいはずなのに、こんな風に笑い合える三人の絆の強さが改めて伝わってくる。未来から来た私にもその一端に触れさせてもらえて……同じように悲しくも暖かい気持ちにさせてもらえた。
去って行く二人の背中を見送りながら、ふと思い出した。紅葉勝負を口実に、藤堂さんを説得しようとした日のことを。
――……縵面形でもしない?――
唐突にそう切り出した藤堂さんは、私が勝てば今抱えているものを全部捨ててどこへでも行く、とそう言ってくれた。
二人は藤堂さんの縵面形は好きな方を出せると言っていたけれど、だとしたら、どうしてあんな期待させるようなことをしたのだろう。
今思えば、確かにいかさまの勝負もあったのかもしれない……。
けれどあの日、藤堂さんは言っていた。
――たまには天に任せてみるのも悪くないかもね――
だからきっと、あれはいかさまなんてしていないと思う。結果を見て残念だとも言っていたから。
でも、だからこそ思う。たった二択ですら外すのだから、結局、天は味方なんてしてくれない。いつだって歴史通りなのだと。
夕焼けの寒空を睨むように見上げれば、漏れ出た吐息は白い靄となって、すうっと赤に飲み込まれていった。
許可を得て沖田さんの部屋へ入ると、沖田さんは寝間着姿のまま布団の上で状態を起こしていた。
けれど、布団や後ろ髪の乱れ具合から、たぶん直前まで横になっていたのだと思う。おまけに少し咳までし始めるから、急いで駆け寄り布団に入るよう促すも、大丈夫、と微笑まれた。
「そんなことより、僕と一緒に留守番のはずだった一番組副組長さん。組長の僕にも詳細を教えてもらえますか?」
「……はい」
さすがの私でもわかる。悪戯っぽく笑っているけれど、いつものようにただ拗ねているだけではないことを。
かつての仲間の最期となるかもしれないその場所に、自分自身がいられなかったことに怒り悔やんでいることを。
おそらく詳細ならすでに聞いているはずで、これはただの意地悪かもしれないけれど、沖田さんが私の口から聞きたいというのだから私はそれに答えるべきだろう。私はあの場所にいて、藤堂さんの最期を見届けたのだから……。
「……油小路につく直前、作戦開始の銃声が鳴ったんです」
そう切り出して、目の前で見た光景を順に思い出し、一つ一つ言葉に乗せていく。
ほんの半日前だからか鮮明で、色も、音も、匂いも、感触に至るまで全てがまだそこにあるようで、何度となく言葉に詰まった。それでも何とか伝えていたら、突然、沖田さんに指で目元をこすられた。
「すみません。意地悪が過ぎました。本当は、詳細ならもう聞いています。だからもう十分ですよ」
思わず俯くも、首を左右に振って答えた。
労咳の発症さえ抑えられていたら、間違いなく沖田さんもあの場に駆けつけていた。そして、永倉さんや原田さんと一緒になって逃がそうとしてくれたはず。もし助からなかったとしても、きちんと最期を見届けることが出来たはずだから。
だからこれは私のすべきこと……そう思って続ければ、黙って最後まで聞いてくれていた沖田さんが、苦笑しながら再び私の目元に手を伸ばすから、慌てて自分で拭った。
「見苦しくてすみません……」
「……いっそ、お岩さんみたいになるまで泣かせてもいいんですけど――」
「お、沖田さん!?」
「冗談ですよ~」
そう言って小さく笑う沖田さんは、ほんの少し開いた障子の隙間から見える外に視線を移し、笑顔のまま呟いた。
平助くんらしいですね、と。
沖田さんの部屋を出て自室へと戻る途中、すれ違う隊士たちの会話が聞こえた。
「近江屋での坂本殺しの件、市中じゃうちらの仕業だってもっぱらの噂らしい」
……坂本、近江屋?
つい最近耳にしたばかりの単語に、まさか……と胸騒ぎを覚えながら隊士たちに訊いていた。
どうやら私が眠りに落ちたちょうどあの日の夜、才谷梅太郎こと坂本龍馬が近江屋で何者かに殺されたらしい。そしてそれをやったのは、新選組だという噂で持ち切りなのだと。
急いで部屋へ戻った。
ちょうど出先から戻ったばかりの土方さんがいて、思わず詰め寄れば言葉を選ぶ余裕もなく訊いていた。
「新選組が、坂本龍馬を殺したんですか……?」
「俺らじゃねぇ。お前まであんな噂真に受けてどうする」
あからさまに呆れを含んだその目が、何よりも嘘ではないと告げていて思わずその場にへたり込んだ。
おかしいな……。“新選組がやった”と言われても今さら驚かない……そう思っていたのに。
私の前でしゃがみ込んだ土方さんが、心配そうに訊いてきた。
「そういやお前、坂本のことも知ってるみてぇだったもんな。あいつも未来じゃ有名なのか?」
「……そうですね」
でも、すぐには気づけなかったけれど。
何度か会って言葉まで交わして、もうただの歴史上の人物なんかじゃないのに、何が“土佐訛りの薩摩藩士さん”だ……。
もっと早くに気づけていたら……ううん、結局、その最期を少しは知っていたはずの藤堂さんや伊東さんのことすらまた救えなかった。
いつだって簡単にすり抜けていくばかりで、この手は誰の命も救えない。
そう思いながら見下ろした両の手に、ふと藤堂さんの最期がよみがえった。
「土方さん……。どうしたって歴史通りに進んじゃうんです。私、藤堂さんのことも少しは知ってたんです……」
「……ああ」
「……この手で受け止めたんです。ちゃんと受け止めたのに、それなのに……この腕の中で、藤堂さんは――」
いつの間にか、どうしようもないほど震えていた手を土方さんが強く掴んでいた。
「あいつは、平助は新選組が待ち伏せしていることに最初から気づいていた。それでも、新八が言うには真っ先に飛び込んで来たらしい」
そうなんだ……。
永倉さんは、“逃がすように頼まれていた”とも言っていたっけ。それなのに、藤堂さんは逃げなかったとも。
「そういうとこ、あいつらしいよな」
……みんなも、口を揃えたようにそう言っていたっけ。
“藤堂さんらしい”って。
「平助のことは、お前の知っている歴史通りだったかもしれねぇ。だが、あいつは最期まであいつらしく生きた。そうだろ?」
「藤堂さんらしく……?」
「ああ。魁先生の名に恥じねぇほどにだ」
本当は、私まで一緒になって頷いていいのかわからない。
けれど、私の腕の中で息を引き取った藤堂さんは、確かに最期のその瞬間まで藤堂さんだった。いつもの藤堂さんだった。
藤堂さんらしかった――
だから、まだ震えているのであろう手を強く握られたまま、そうですね……と頷けば、またしばらくは渇れそうにない涙が、土方さんの手にぽとりとこぼれ落ちるのだった。
そのまま日をまたいだ十九日未明、伊東さんの亡骸を油小路へ捨て置き、遺体を引き取りに来た衛士七名のうち、藤堂平助、服部武雄、毛内有之助の三名を討ったという。
それから半日が経った十九日の夕刻。
止まらない涙のせいで視界はいつもの半分しかないけれど、沖田さんに呼び出されているので重い腰を上げ、冷たい風で瞼を冷やしながら夕日が差し込む外廊下を進む。
途中、向かいからやって来た永倉さんと原田さんが、私の前で足を止めた。見上げた二人の目は揃って夕日みたいに赤く、お互いの顔を見やるなり沈黙が流れた。
そんな中、最初に口を開いたのは永倉さんだった。
「実はな……近藤さんと土方さんに頼まれて、平助をあの場から逃がす予定だったんだ」
そう言われて思い出したのは、永倉さんと藤堂さんが鍔迫り合っていた場面。
永倉さんは確かに藤堂さんに何か話しかけていたし、今思えば、無理やり端の方へ追いやろうともしていた。
そっか。あれは逃がそうとしていたんだ……。
「けどな……あいつ、逃げなかったんだ」
「そう、だったんですね……」
「何ていうか、あいつらしいよな」
すると今度は、原田さんが懐かしむように口を開いた。
「そういや、二人は事あるごとに競い合ってたよな」
「あ、あれは……! いつも藤堂さんが勝手に……」
――春には負けたくない――
いつだってそんな対抗心を燃やされて、やたらと勝負を持ちかけられたっけ。
「まぁ、あいつも負けず嫌いだったからな。けど、春は気づいてなかっただろ」
「……何をですか?」
「あいつの縵面形はさ、好きな方を自在に出せるんだよ」
「……え」
何それ……そんなの知らない。初めて聞いた。
信じられない思いで永倉さんの方を見るも、苦笑を返されてしまった。それどころか、ほとんどの人が知っていると言う。
「左之。『何で春にバラすの……』って平助の奴、今頃怒ってるぞ?」
「いいんだよ。俺らより先に逝っちまったあいつが悪いんだ」
そう言って、二人は顔を見合わせるなり同時に吹き出した。ここに藤堂さんがいたならきっと、高い位置で結った色素の薄い尻尾のような髪を揺らしながら、まるで子犬みたいに一生懸命反論したに違いない……。
そんな光景を浮かべたのは私だけじゃないみたいで、二人も眉尻をほんの少し下げるけれど、すぐに笑顔を取り戻して両側から私の肩を叩いた。
「いつまでも泣いてたら、それこそ怒られそうだからな」
「だな。最後の最後まで魁先生かよって、笑ってやるくらいでちょうどいいんだ」
本当は私よりもずっと悲しいはずなのに、こんな風に笑い合える三人の絆の強さが改めて伝わってくる。未来から来た私にもその一端に触れさせてもらえて……同じように悲しくも暖かい気持ちにさせてもらえた。
去って行く二人の背中を見送りながら、ふと思い出した。紅葉勝負を口実に、藤堂さんを説得しようとした日のことを。
――……縵面形でもしない?――
唐突にそう切り出した藤堂さんは、私が勝てば今抱えているものを全部捨ててどこへでも行く、とそう言ってくれた。
二人は藤堂さんの縵面形は好きな方を出せると言っていたけれど、だとしたら、どうしてあんな期待させるようなことをしたのだろう。
今思えば、確かにいかさまの勝負もあったのかもしれない……。
けれどあの日、藤堂さんは言っていた。
――たまには天に任せてみるのも悪くないかもね――
だからきっと、あれはいかさまなんてしていないと思う。結果を見て残念だとも言っていたから。
でも、だからこそ思う。たった二択ですら外すのだから、結局、天は味方なんてしてくれない。いつだって歴史通りなのだと。
夕焼けの寒空を睨むように見上げれば、漏れ出た吐息は白い靄となって、すうっと赤に飲み込まれていった。
許可を得て沖田さんの部屋へ入ると、沖田さんは寝間着姿のまま布団の上で状態を起こしていた。
けれど、布団や後ろ髪の乱れ具合から、たぶん直前まで横になっていたのだと思う。おまけに少し咳までし始めるから、急いで駆け寄り布団に入るよう促すも、大丈夫、と微笑まれた。
「そんなことより、僕と一緒に留守番のはずだった一番組副組長さん。組長の僕にも詳細を教えてもらえますか?」
「……はい」
さすがの私でもわかる。悪戯っぽく笑っているけれど、いつものようにただ拗ねているだけではないことを。
かつての仲間の最期となるかもしれないその場所に、自分自身がいられなかったことに怒り悔やんでいることを。
おそらく詳細ならすでに聞いているはずで、これはただの意地悪かもしれないけれど、沖田さんが私の口から聞きたいというのだから私はそれに答えるべきだろう。私はあの場所にいて、藤堂さんの最期を見届けたのだから……。
「……油小路につく直前、作戦開始の銃声が鳴ったんです」
そう切り出して、目の前で見た光景を順に思い出し、一つ一つ言葉に乗せていく。
ほんの半日前だからか鮮明で、色も、音も、匂いも、感触に至るまで全てがまだそこにあるようで、何度となく言葉に詰まった。それでも何とか伝えていたら、突然、沖田さんに指で目元をこすられた。
「すみません。意地悪が過ぎました。本当は、詳細ならもう聞いています。だからもう十分ですよ」
思わず俯くも、首を左右に振って答えた。
労咳の発症さえ抑えられていたら、間違いなく沖田さんもあの場に駆けつけていた。そして、永倉さんや原田さんと一緒になって逃がそうとしてくれたはず。もし助からなかったとしても、きちんと最期を見届けることが出来たはずだから。
だからこれは私のすべきこと……そう思って続ければ、黙って最後まで聞いてくれていた沖田さんが、苦笑しながら再び私の目元に手を伸ばすから、慌てて自分で拭った。
「見苦しくてすみません……」
「……いっそ、お岩さんみたいになるまで泣かせてもいいんですけど――」
「お、沖田さん!?」
「冗談ですよ~」
そう言って小さく笑う沖田さんは、ほんの少し開いた障子の隙間から見える外に視線を移し、笑顔のまま呟いた。
平助くんらしいですね、と。
沖田さんの部屋を出て自室へと戻る途中、すれ違う隊士たちの会話が聞こえた。
「近江屋での坂本殺しの件、市中じゃうちらの仕業だってもっぱらの噂らしい」
……坂本、近江屋?
つい最近耳にしたばかりの単語に、まさか……と胸騒ぎを覚えながら隊士たちに訊いていた。
どうやら私が眠りに落ちたちょうどあの日の夜、才谷梅太郎こと坂本龍馬が近江屋で何者かに殺されたらしい。そしてそれをやったのは、新選組だという噂で持ち切りなのだと。
急いで部屋へ戻った。
ちょうど出先から戻ったばかりの土方さんがいて、思わず詰め寄れば言葉を選ぶ余裕もなく訊いていた。
「新選組が、坂本龍馬を殺したんですか……?」
「俺らじゃねぇ。お前まであんな噂真に受けてどうする」
あからさまに呆れを含んだその目が、何よりも嘘ではないと告げていて思わずその場にへたり込んだ。
おかしいな……。“新選組がやった”と言われても今さら驚かない……そう思っていたのに。
私の前でしゃがみ込んだ土方さんが、心配そうに訊いてきた。
「そういやお前、坂本のことも知ってるみてぇだったもんな。あいつも未来じゃ有名なのか?」
「……そうですね」
でも、すぐには気づけなかったけれど。
何度か会って言葉まで交わして、もうただの歴史上の人物なんかじゃないのに、何が“土佐訛りの薩摩藩士さん”だ……。
もっと早くに気づけていたら……ううん、結局、その最期を少しは知っていたはずの藤堂さんや伊東さんのことすらまた救えなかった。
いつだって簡単にすり抜けていくばかりで、この手は誰の命も救えない。
そう思いながら見下ろした両の手に、ふと藤堂さんの最期がよみがえった。
「土方さん……。どうしたって歴史通りに進んじゃうんです。私、藤堂さんのことも少しは知ってたんです……」
「……ああ」
「……この手で受け止めたんです。ちゃんと受け止めたのに、それなのに……この腕の中で、藤堂さんは――」
いつの間にか、どうしようもないほど震えていた手を土方さんが強く掴んでいた。
「あいつは、平助は新選組が待ち伏せしていることに最初から気づいていた。それでも、新八が言うには真っ先に飛び込んで来たらしい」
そうなんだ……。
永倉さんは、“逃がすように頼まれていた”とも言っていたっけ。それなのに、藤堂さんは逃げなかったとも。
「そういうとこ、あいつらしいよな」
……みんなも、口を揃えたようにそう言っていたっけ。
“藤堂さんらしい”って。
「平助のことは、お前の知っている歴史通りだったかもしれねぇ。だが、あいつは最期まであいつらしく生きた。そうだろ?」
「藤堂さんらしく……?」
「ああ。魁先生の名に恥じねぇほどにだ」
本当は、私まで一緒になって頷いていいのかわからない。
けれど、私の腕の中で息を引き取った藤堂さんは、確かに最期のその瞬間まで藤堂さんだった。いつもの藤堂さんだった。
藤堂さんらしかった――
だから、まだ震えているのであろう手を強く握られたまま、そうですね……と頷けば、またしばらくは渇れそうにない涙が、土方さんの手にぽとりとこぼれ落ちるのだった。
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