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【 花の章 】―壱―
108 洛陽動乱③
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とにかく必死に走って、ようやく土方さんたちを見つけた。
「土方さん! 池田屋ですっ! すでに戦闘になってます!」
「何っ!? わかった、すぐに向かう。近くに源さんたちもいるはずだから伝えてくれ!」
「え、じゃあ、それは周平くんに。私はこのまま池田屋へ戻ります!」
「周平? どこだ?」
「……へ?」
揃って辺りを見渡すも周平くんの姿はなく、しばらく後方に目を凝らしてようやくその姿が見えた。どうやら随分と置いてきていたらしい。
その姿に向かって土方隊とともに走れば、合流したところで息を切らせる周平くんに言い置いた。
「周平くん! 近くに井上さんたちがいるそうなので、池田屋だと伝えてください! 私は先に戻ります」
「お、おう。わかった」
そして、土方さんたちとともに池田屋へ向け、再び祇園の町を駆け抜けた。
雨が上がって気温が上昇したせいか、もの凄く蒸し暑い。おまけに装備は重い。
おかげで最初ほどの速さはないけれど、それでも徐々に土方さんたちを引き離していたらしく、池田屋が見える頃には思ったよりも後ろから声がした。
「おい、琴月! 一人で突っ込むんじゃねぇぞ!?」
「私なら大丈夫ですっ!」
少しだけ振り向いてそう伝えれば、最後の力を振り絞り速度を上げる。
あの馬鹿! という声が聞こえたけれど、気のせいということにして池田屋の中へ飛び込んだ。
入ってすぐのところには永倉さんがいて、距離を取りながら敵と対峙していた。奥では近藤さんが戦っているのか、甲高い声の中に時折剣戟の音が混じっている。
加勢しようと柄に手を掛ければ、永倉さんに制された。
「春か!? 土方隊を連れて来てくれたんだな! ここはこのまま持ちこたえるから二階へ行ってやってくれ! おそらく上は今、総司一人だ!」
「っ! わかりました! って、永倉さん、血がっ!?」
外から差す微かな灯りに照らされる永倉さんの手は、しっかりと刀を持っているものの負傷したのか血が流れている。
「ん、ああ。ちょっと親指をやられちまったらしい。大したことないから上へ!」
「は、はいっ!」
怪我をしているけれど、ちゃんと刀を握れていたし、永倉さんは強い。今は永倉さんを信じよう。
もちろん沖田さんだって凄く強い。
けれど、たった一人って……相手の人数もわからないけれど無事なの!?
無事だとしても、そんなの相当無理しているに違いない!
急いで階段を駆け上がれば、二階は想像以上に静かだった。薄闇に立ち込める熱気と錆びた鉄のようなにおいは、途端に私を嫌な予感に突き落とす。
私の判断は間違っていたんじゃないか……。何がなんでもこの場に残るべきだったんじゃないか……と。
「わっ」
焦っていたせいか、足元に転がる何かに躓いた。
壁に手をつき堪えれば、何に躓いたのかと無意識に振り返る。暗くてはっきりとは見えなくても、視線の先で横たわるそれが何なのか、嫌でもすぐに理解した。
「あっ……」
うっすらと見える羽織のその色から、新選組の人間でないことはすぐにわかった。捕縛されることを選ばず立ち向かい、そして斬られたのだということも。
悪いことを画策しているくせに、往生際悪く歯向かう方が悪い。自業自得。……そう思わなければ、このまま足が竦んでしまいそうなのに。
速さを増す鼓動は耳の奥でうるさいほどにこだまし、いっそこのまま目をつむってしまいたくなる。
けれど、手放しかけた意識を呼び戻したのは、階下から聞こえる近藤さんの声だった。
「土方隊が到着した! ここからは、斬らずに捕縛を優先とするっ!!」
それと同時に、近くから金属どうしのぶつかる冷ややかな音が聞こえた。
「……沖田さん?」
そうだ……私の感情なんて今はどうでもいい。沖田さんを探さないと!
無理やり動かした重い足で向かった部屋の窓際には、静かに鍔迫り合う二人の人影があった。
「沖田さん!」
月のない夜だけれど、窓を背にして立っているのは間違いなく沖田さんだった。
「ああ、春くん、おかえりなさい。ここはあとこの男、宮部だけですよ」
「宮部……宮部鼎蔵ですか!?」
「うん」
二対一になったことで、僅かに怯んだ宮部を沖田さんが蹴り飛ばした。刀を握り直し追い打ちをかけるも、ふらりと身体を揺らして膝をつく。
すぐさま体勢を立て直すも、再び力なくゆるりと崩れ落ちた。
「……お、沖田さんっ!?」
嘘……何で!?
慌てて駆け寄り沖田さんの身体に正面から手を伸ばした、その直後。
――――世界が、揺れた――――
階下から響く剣戟の音も、背後から聞こえた雄叫びも、間近で聞いた沖田さんのどこか苦し気な息づかいも。全ての音が消失した。
振り向けば、ここぞとばかりに刀を向ける宮部の姿があった。
お尋ね者として名前だけは知っていたけれど、あなたのことはよく知らないし、個人的に何か恨みがあるわけでもない。
けれど今は、今だけは、手加減とかしている余裕なんてないかもしれない……。
天井が低いせいか、宮部の刀は私もろとも沖田さんを貫くように低い位置から突き出されていた。
自分の刀を抜いて力任せに払いのけると、再び繰り出される突きは私へと向けられる。かわすと同時に柄を腹部へ押し込めば、短い呻き声とともに宮部の身体はその場に崩れ落ちた。
「沖田さん!? 沖田さん!!」
納刀もせず刀を脇に置いて急いで沖田さんを抱き起こせば、僅かにその目が開いた。星明かりに照らされる沖田さんの胸元は、ぬるりと真っ赤な血に染まっている。
「嘘……沖田さん、血が……。まさか……斬られたんですか!?」
「……そんなわけないじゃないですか。僕が斬られると思いますか?」
「いえ……」
勢いよく首を振り否定した。
沖田さんは強い。強いから絶対に殺られたりなんかしない。
その証拠に、私の知っている沖田さんは刀ではなく、病に倒れるのだから……。
まさか……。
「血を、吐いたんですか……?」
「春くんは、本当に心配性ですね」
「っ……。心配だってします……。するに決まってるじゃないですか! こんなのっ……こうなって欲しくないから、したくなかったからうるさいくらい言ってたのに!!」
結局、私はまた何もできなかった……。
沖田さんは病で死ぬと、労咳で死んでしまうとわかっていたはずなのに。無理をさせただけじゃなく、とうとう発症させてしまったじゃないか!
泣きそうな私の頬に、沖田さんは片手を伸ばして小さく微笑んだ。
「とりあえず、落ちつきましょうか」
「何で……何でこんな時まで笑ってるんですか……」
「必死な春くんが面白いから……ですかね?」
「沖田さんっ!」
一番辛いのは、私なんかより沖田さんのはずなのに。こんな時まで冗談なんて言わないでよ……。
「……すみません、悪戯が過ぎましたね。壮大に勘違いしてるところ悪いんですが、これ、僕の血じゃないですよ?」
「……え?」
「全部返り血です。普段ならそんなのほとんど浴びないように戦うんですけどね。さすがに今回は狭いし暗いし敵は多いし、そんなこと気にしてる余裕はありませんでした」
「返り血? ……それじゃ、本当に血を吐いたわけじゃ……」
「うん、返り血です。ところで凄く暑いんですけど、どこか涼しい場所に連れてってくれませんか? 頭は痛いし足はつるし、今もまだ身体に力が入らないんです。やっぱり、無理し過ぎたんですかね~?」
ちょっと待って。斬られたわけでも血を吐いたわけでもなく、暑くて頭が痛くて足がつって力も入らない……?
それってまさか……と一つ思い当たったところで刀を手にした斎藤さんがやって来た。
「琴月、大丈夫か? って、沖田? まさか、斬られたのか!?」
「一くん、この僕が斬られると思いますか~?」
「……いや、思わんな」
「斎藤さん、沖田さんを涼しいところに運びたいので手伝ってもらえますか?」
「わかった、少し待ってろ」
そう言ってどこかに行ってしまったけれど、原田さんと一緒に担架代わりの戸板を持ってすぐに戻って来てくれた。
「総司、斬られたのか!?」
「左之さん、僕が斬られると思いますか~?」
「思わねーな」
さっきから何なの、この会話。沖田さんが強いのは知っているけれど。
「斬られたわけじゃねえなら、どうした総司?」
軽口を叩きながらもやっぱり心配しているのがわかるから、沖田さんを戸板に乗せる二人に向かって説明することにした。
「沖田さんはたぶん熱中症です。涼しいところで休ませて、塩と砂糖を少しまぜたお水を飲ませれば回復すると思います」
『ねっちゅうしょう?』
「あー、えーっと……睡眠不足なのに、体調あんまりよくないのに、熱い中水分も取らずに無理して動いて倒れちゃう病気のことです」
「そりゃ、戦闘中に水飲んでる余裕はねーよな」
安心したのか、原田さんが笑いながら突っ込んだ。
うん、まぁ、それはそうなんだけれど……。
外に出ると、もの凄い勢いで土方さんが駆け寄って来た。
「総司! まさか斬られたのか!?」
「土方さんうるさいですよ~。頭痛いから大声出さないでください」
「何っ! お前も頭を斬られたのか!?」
心配そうに沖田さんの頭を確認し始めれば、沖田さんはわざとらしく鬱陶しそうなため息をこぼす。
「おい、総司!」
再び盛大なため息をつきそうな沖田さんに代わって、土方さんにも説明をする。
「土方さん、大丈夫です。沖田さんは斬られてません。暑さにやられただけです」
「そうか、ならあとは俺たちに任せて先に会所へ戻ってろ」
「わかりました」
池田屋の周りには、野次馬の他にたくさんの武装した武士たちが集まっていた。どうやら応援が来ていたらしい。
今頃……と思ったのは私だけではなかったようで、手柄を横取りされないよう、土方さんが池田屋へは入れさせないようにしていたのだと、会所へ戻りながら斎藤さんが教えてくれたのだった。
「土方さん! 池田屋ですっ! すでに戦闘になってます!」
「何っ!? わかった、すぐに向かう。近くに源さんたちもいるはずだから伝えてくれ!」
「え、じゃあ、それは周平くんに。私はこのまま池田屋へ戻ります!」
「周平? どこだ?」
「……へ?」
揃って辺りを見渡すも周平くんの姿はなく、しばらく後方に目を凝らしてようやくその姿が見えた。どうやら随分と置いてきていたらしい。
その姿に向かって土方隊とともに走れば、合流したところで息を切らせる周平くんに言い置いた。
「周平くん! 近くに井上さんたちがいるそうなので、池田屋だと伝えてください! 私は先に戻ります」
「お、おう。わかった」
そして、土方さんたちとともに池田屋へ向け、再び祇園の町を駆け抜けた。
雨が上がって気温が上昇したせいか、もの凄く蒸し暑い。おまけに装備は重い。
おかげで最初ほどの速さはないけれど、それでも徐々に土方さんたちを引き離していたらしく、池田屋が見える頃には思ったよりも後ろから声がした。
「おい、琴月! 一人で突っ込むんじゃねぇぞ!?」
「私なら大丈夫ですっ!」
少しだけ振り向いてそう伝えれば、最後の力を振り絞り速度を上げる。
あの馬鹿! という声が聞こえたけれど、気のせいということにして池田屋の中へ飛び込んだ。
入ってすぐのところには永倉さんがいて、距離を取りながら敵と対峙していた。奥では近藤さんが戦っているのか、甲高い声の中に時折剣戟の音が混じっている。
加勢しようと柄に手を掛ければ、永倉さんに制された。
「春か!? 土方隊を連れて来てくれたんだな! ここはこのまま持ちこたえるから二階へ行ってやってくれ! おそらく上は今、総司一人だ!」
「っ! わかりました! って、永倉さん、血がっ!?」
外から差す微かな灯りに照らされる永倉さんの手は、しっかりと刀を持っているものの負傷したのか血が流れている。
「ん、ああ。ちょっと親指をやられちまったらしい。大したことないから上へ!」
「は、はいっ!」
怪我をしているけれど、ちゃんと刀を握れていたし、永倉さんは強い。今は永倉さんを信じよう。
もちろん沖田さんだって凄く強い。
けれど、たった一人って……相手の人数もわからないけれど無事なの!?
無事だとしても、そんなの相当無理しているに違いない!
急いで階段を駆け上がれば、二階は想像以上に静かだった。薄闇に立ち込める熱気と錆びた鉄のようなにおいは、途端に私を嫌な予感に突き落とす。
私の判断は間違っていたんじゃないか……。何がなんでもこの場に残るべきだったんじゃないか……と。
「わっ」
焦っていたせいか、足元に転がる何かに躓いた。
壁に手をつき堪えれば、何に躓いたのかと無意識に振り返る。暗くてはっきりとは見えなくても、視線の先で横たわるそれが何なのか、嫌でもすぐに理解した。
「あっ……」
うっすらと見える羽織のその色から、新選組の人間でないことはすぐにわかった。捕縛されることを選ばず立ち向かい、そして斬られたのだということも。
悪いことを画策しているくせに、往生際悪く歯向かう方が悪い。自業自得。……そう思わなければ、このまま足が竦んでしまいそうなのに。
速さを増す鼓動は耳の奥でうるさいほどにこだまし、いっそこのまま目をつむってしまいたくなる。
けれど、手放しかけた意識を呼び戻したのは、階下から聞こえる近藤さんの声だった。
「土方隊が到着した! ここからは、斬らずに捕縛を優先とするっ!!」
それと同時に、近くから金属どうしのぶつかる冷ややかな音が聞こえた。
「……沖田さん?」
そうだ……私の感情なんて今はどうでもいい。沖田さんを探さないと!
無理やり動かした重い足で向かった部屋の窓際には、静かに鍔迫り合う二人の人影があった。
「沖田さん!」
月のない夜だけれど、窓を背にして立っているのは間違いなく沖田さんだった。
「ああ、春くん、おかえりなさい。ここはあとこの男、宮部だけですよ」
「宮部……宮部鼎蔵ですか!?」
「うん」
二対一になったことで、僅かに怯んだ宮部を沖田さんが蹴り飛ばした。刀を握り直し追い打ちをかけるも、ふらりと身体を揺らして膝をつく。
すぐさま体勢を立て直すも、再び力なくゆるりと崩れ落ちた。
「……お、沖田さんっ!?」
嘘……何で!?
慌てて駆け寄り沖田さんの身体に正面から手を伸ばした、その直後。
――――世界が、揺れた――――
階下から響く剣戟の音も、背後から聞こえた雄叫びも、間近で聞いた沖田さんのどこか苦し気な息づかいも。全ての音が消失した。
振り向けば、ここぞとばかりに刀を向ける宮部の姿があった。
お尋ね者として名前だけは知っていたけれど、あなたのことはよく知らないし、個人的に何か恨みがあるわけでもない。
けれど今は、今だけは、手加減とかしている余裕なんてないかもしれない……。
天井が低いせいか、宮部の刀は私もろとも沖田さんを貫くように低い位置から突き出されていた。
自分の刀を抜いて力任せに払いのけると、再び繰り出される突きは私へと向けられる。かわすと同時に柄を腹部へ押し込めば、短い呻き声とともに宮部の身体はその場に崩れ落ちた。
「沖田さん!? 沖田さん!!」
納刀もせず刀を脇に置いて急いで沖田さんを抱き起こせば、僅かにその目が開いた。星明かりに照らされる沖田さんの胸元は、ぬるりと真っ赤な血に染まっている。
「嘘……沖田さん、血が……。まさか……斬られたんですか!?」
「……そんなわけないじゃないですか。僕が斬られると思いますか?」
「いえ……」
勢いよく首を振り否定した。
沖田さんは強い。強いから絶対に殺られたりなんかしない。
その証拠に、私の知っている沖田さんは刀ではなく、病に倒れるのだから……。
まさか……。
「血を、吐いたんですか……?」
「春くんは、本当に心配性ですね」
「っ……。心配だってします……。するに決まってるじゃないですか! こんなのっ……こうなって欲しくないから、したくなかったからうるさいくらい言ってたのに!!」
結局、私はまた何もできなかった……。
沖田さんは病で死ぬと、労咳で死んでしまうとわかっていたはずなのに。無理をさせただけじゃなく、とうとう発症させてしまったじゃないか!
泣きそうな私の頬に、沖田さんは片手を伸ばして小さく微笑んだ。
「とりあえず、落ちつきましょうか」
「何で……何でこんな時まで笑ってるんですか……」
「必死な春くんが面白いから……ですかね?」
「沖田さんっ!」
一番辛いのは、私なんかより沖田さんのはずなのに。こんな時まで冗談なんて言わないでよ……。
「……すみません、悪戯が過ぎましたね。壮大に勘違いしてるところ悪いんですが、これ、僕の血じゃないですよ?」
「……え?」
「全部返り血です。普段ならそんなのほとんど浴びないように戦うんですけどね。さすがに今回は狭いし暗いし敵は多いし、そんなこと気にしてる余裕はありませんでした」
「返り血? ……それじゃ、本当に血を吐いたわけじゃ……」
「うん、返り血です。ところで凄く暑いんですけど、どこか涼しい場所に連れてってくれませんか? 頭は痛いし足はつるし、今もまだ身体に力が入らないんです。やっぱり、無理し過ぎたんですかね~?」
ちょっと待って。斬られたわけでも血を吐いたわけでもなく、暑くて頭が痛くて足がつって力も入らない……?
それってまさか……と一つ思い当たったところで刀を手にした斎藤さんがやって来た。
「琴月、大丈夫か? って、沖田? まさか、斬られたのか!?」
「一くん、この僕が斬られると思いますか~?」
「……いや、思わんな」
「斎藤さん、沖田さんを涼しいところに運びたいので手伝ってもらえますか?」
「わかった、少し待ってろ」
そう言ってどこかに行ってしまったけれど、原田さんと一緒に担架代わりの戸板を持ってすぐに戻って来てくれた。
「総司、斬られたのか!?」
「左之さん、僕が斬られると思いますか~?」
「思わねーな」
さっきから何なの、この会話。沖田さんが強いのは知っているけれど。
「斬られたわけじゃねえなら、どうした総司?」
軽口を叩きながらもやっぱり心配しているのがわかるから、沖田さんを戸板に乗せる二人に向かって説明することにした。
「沖田さんはたぶん熱中症です。涼しいところで休ませて、塩と砂糖を少しまぜたお水を飲ませれば回復すると思います」
『ねっちゅうしょう?』
「あー、えーっと……睡眠不足なのに、体調あんまりよくないのに、熱い中水分も取らずに無理して動いて倒れちゃう病気のことです」
「そりゃ、戦闘中に水飲んでる余裕はねーよな」
安心したのか、原田さんが笑いながら突っ込んだ。
うん、まぁ、それはそうなんだけれど……。
外に出ると、もの凄い勢いで土方さんが駆け寄って来た。
「総司! まさか斬られたのか!?」
「土方さんうるさいですよ~。頭痛いから大声出さないでください」
「何っ! お前も頭を斬られたのか!?」
心配そうに沖田さんの頭を確認し始めれば、沖田さんはわざとらしく鬱陶しそうなため息をこぼす。
「おい、総司!」
再び盛大なため息をつきそうな沖田さんに代わって、土方さんにも説明をする。
「土方さん、大丈夫です。沖田さんは斬られてません。暑さにやられただけです」
「そうか、ならあとは俺たちに任せて先に会所へ戻ってろ」
「わかりました」
池田屋の周りには、野次馬の他にたくさんの武装した武士たちが集まっていた。どうやら応援が来ていたらしい。
今頃……と思ったのは私だけではなかったようで、手柄を横取りされないよう、土方さんが池田屋へは入れさせないようにしていたのだと、会所へ戻りながら斎藤さんが教えてくれたのだった。
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