好きって言わせたい

ゆーちゃ

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好きって言わせたい

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 西日を背に今日も並んで歩けば、駅まで続く道に伸びる私と私より頭一つ分長い二つの影。

 態度で示してくれてるのわかってるよ?
 言葉にするって結構恥ずかしいもんね?
 でもさ、やっぱりたまには言って欲しいって思うじゃん。

 だからね……今日こそ“好き”って言わせてみせる!



「ね、しりとりしよ?」
「何、突然。別にいいけど負けたら罰ゲームな」

 ……って、開始前から不測の事態!?
 でも、負けるつもりはないから問題なし!

「じゃあ、私からいくよ? ライス!」
「スイカ」
「カレーライス!」
「スイッチ」
「チ……? チキンライス!」
「……何。ライス縛りでもしてんの?」

 そういうわけじゃないんだけど……。

「た、たまたまだよ! ほら、次々ー! スからだよ!」
「スマホ」
「ホ……ホース!」
相撲すもう
「ウグイス!」
「なぁ……。何でスばっかで攻めてくんだよ」

 うわっ。もの凄い睨まれたし!
 でもしょうがないじゃん? そういう作戦なんだもん。

 けどさ、文句言いつつもこうして付き合ってくれるんだから、やっぱり何だかんだで優しいよね? 優しいついでに言ってくれてもいいんだよ? むしろ言って? ほらほら。

寿司すし
「むぅー。シラス」
「何で膨れてんのかわかんねぇけどスミレ」
「別に膨れてなんかいませんよーだ、レース!」
「……」

 おや? そろそろ尽きた? まだ“好き”なら残ってるよ?
 期待を込めて隣を見上げたのに、なぜかにやりとする顔と目が合った。

「しりとり、ねぇ……」
「っ……し、じゃなくてだよ。ス!」
「ふーん? んじゃスズメ」
「メ? メー、メー……あっ、メス! ほら、手術とかで使うやつ!」

 右手を出す仕草もしてみせれば、その手をぎゅっと握られた。

「すき」
「え? えっ!? ゴ、ゴメンもう一回!」
「焼き」
「……え?」
「だから、すき焼き」
「なっ……にそれっ!!」

 変な間あけないでよ!
 思わずぎゅっと握り返しちゃったせいか離してもくれないし!
 手汗といい、繋がれた手から心臓の音がバレそうなんだけど……。

「キ、キリギリス……」
水素すいそ
「……ソース」
「すき――」
「っ!?」
「ま」
「!!」
隙間すきまな。てか、顔真っ赤にしてどした?」

 わざとらしく覗き込んでくるなー!
 これ絶対バレてるし! わかっててやってるし!
 こうなったら、意地でも言わせて見せるんだからっ!

「ま、ます!」
すす
「す……す!? あっ、スイス!」
「ストレス」
「またス!? えっと、えーっと……ス、スライス!」
「スパイス」

 やばい。スで返してくるなんて想定外!
 スで終わる言葉はめちゃくちゃ考えてきたけど、逆なんて考えてないし!

「10、9――」
「ちょ、ちょっと待って。今考えてる!」
「8、7」
「待ってってばー!」

 ここまできて語尾をス以外にするなんて意味ないし、なんか悔しいじゃん!

「6、5……」

 楽し気にカウントダウンする彼が、突然立ち止まった。
 ど、どしたの? とつられて足を止めた私の頬に、繋いでいない方の彼の手が触れた。

「悩む必要ないだろ。スで始まる言葉、一つは最初から浮かんでんだもんな?」
「そ、それは……」

 私が言ったら意味ないじゃん!! てか、やっぱりバレてるし!!
 ……で、どうして残りのカウントダウンしながら顔を近づけてくるの!?
 近い、近いってば―! 

「ほら、言えよ」
「い、言わないっ!」
「何で?」
「なんでも!」
「ふーん? でも残念、時間切れ」
「うぅ……」

 なんだかすっごく悔しい……。
 でも仕方ない。また出直してくるからそろそろ離れて?
 心臓がやばいから……。

「ね、もう終わったよ? 帰ろ?」
「まだ罰ゲームが終わってない」
「……な、何すればいい?」
「言えばいい」

 こ、これはもしかして仕返し!?
 無理やり言わせようとしたから、逆に言わせてやろうみないな!?
 ……別にいいんだけど。全然問題なんかないんだけど。
 たださ……鼻先が触れそうなこの距離で言うのは、さすがの私でも恥ずかしいってば!

 それなのに、繋がれたままの手と頬に添えられた手は離してくれなくて。
 何より全てわかったうえで涼しくも勝ち誇ったその顔が、逃げ場なんてないのだと言っている……。

「まだ?」
「わ、わかった。今、言う……」

 悔しいから、せめて目だけは逸らさない。

「……好き」
「よく出来ました」

 ご褒美、と告げる顔がゼロ距離になったのは一瞬で、気づけば何もなかったみたいに私を置いて歩き出している。
 なんか……私一人ドキドキしてるみたいじゃん……。
 それでも距離が広がる前に追いかけて、隣に並べばほんの少し歩調が遅くなった。

「いきなりキスするとか、なんかズルい……」
「したくなったからしただけだけど?」

 ほんっとそういうとこ!
 簡単には好きって言ってくれないのに、いっつも私ばっかりドキドキされっぱなしとか!

「何か不満?」
「別にそういうわけじゃない……」
「特別にあと5回だけなら延長戦受け付けるけど」
「ホント!? うん、やる!」

 もの凄く手のひらでコロコロされてる気がするけど、一度負けた私にはもう怖いものなんてないもんね!
 仕切り直して先どーぞ、なんて余裕かましてるその涼しげな顔、今度こそ真っ赤にさせてみせるんだから!

「じゃあ、ポリス!」
「スペア」
「アイス!」
「スパイ」

 さすがに自分から延長戦持ちかけただけあって、まだまだ余裕だね?

「イス!」
素足すあし
「し……シマリス!」
脛当すねあて」
「テニス!」
すばる。はい、おしまい」
「えぇー!」

 こんだけで返してるんだから、最後くらい言ってくれてもいいじゃん!

「いじわる……」
「何で?」
「わかってるくせに!」
「“好き”以上の言葉を言ったけどな」
「えっ!?」

 そんなの言った? いつ? 聞いてないよ? それとも私が聞き逃しちゃっただけ?

「お前がしりとりで言わせようとしたんだろ?」
「そ、そうだけど……普通にしりとりしてただけじゃん! どういうこと? ねぇ、教えてってば!」
「ヤダ」

 意味わかんないー!
 それなのに、一人だけ全部わかってます、っていう涼しげなその顔がかっこよく見えちゃうのは、惚れた弱みってやつですか!?

「もう、次こそ絶対“好き”って言わせてみせるからね!」



 * * * * *



ラストの延長戦、彼の5つの言葉の語尾に注目してみてください。
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