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はにゃ?
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好きだという気持ちが、全てを許してしまう……
痛みを堪えながら揺すぶられるだけ揺すぶられた後、あっさりと一人になった……
俊は体をさっさと離し、服を身に着け始めた。
「実は明日、大阪に行くんだ」
「出張?」
「いや……大阪支社に転勤になった。
世話になったな。東京に戻ったらまた、連絡するよ」
ジクジクとした痛みが、ますますひどくなっていく……
俺の好きな、スーツ姿の俊を見上げていたら、涙が流れた……
俊は俺の涙に気づかない振りで、じゃあ。とだけ言うと、出て行った……
裸のままの俺を残して……
痛みとショックで動けず、ボンヤリとしていた……
ようやく動き出したのは日付が変わってからだった……
動き出したとはいっても、風呂に入ってベッドに入っただけだった。
痛みはまだ続いていたから、眠ることはできなかったけど、座っているよりは横になっている方が楽だった。
仕事があるからには、いつまでも呆然としているわけにはいかなかったのだ。
俺は朝までテレビを点けたまま時々微睡んだりしながら時間を過ごした……
「コローは生きている間に売れた画家ですからね。比べてミレーは生前省みられることはなかった。
今では逆転していますよね。コローを知らない人でもミレーは知っている」
「私はコローが好きですね。幻想的でありながら、写実的。輝いているようで儚げにも見える緑の木々が、特に美しいと思います」
美術大学の助教授とバルビゾン派の画家について話をしていた。
勤め先の出版社で二週に一度出る五百円で買えるお得な画集の担当になり、バルビゾン派の画家について一筆お願いしていたのをもらいに来たのだった。
タータンチェックの少々派手なスーツ姿の助教授は、知的で穏やかな表情のなかなかのイケメンであった。
詳しくはないが、高校生の頃、好きだった先輩に誘われて国立西洋美術館に行った際、「ナポリの浜の思い出」を見、美しいと思った。
青春時代の甘酸っぱい思い出と共に、もの悲しい舞台の一場面のような絵画が心に焼き付いている。
学生らしい男の子が、コーヒーのお代わりを持ってきてくれ、礼を言って受け取る。
最寄りの駅から美大生らしき少々エキセントリックな格好、派手な格好、?マークがあふれる格好を見ていた俺には、その子はずいぶんと地味に見えた。
ベリーショートを栗色に染めてはいるが、アクセサリーの一つもつけず、袖がグレーのツートンカラーのTシャツ、ブルージーンズ。
細身の均整の取れた体であるから、それだけで格好よくきまっている。
顔を見れば二十歳そこそこらしい。真咲君とは違うタイプながら、可愛い顔をしている。
真咲君は中性的だが、この子は男の子。といった風な顔で、やんちゃ坊主がそのまま成長したような可愛らしさがあった。
後ろを向いた時、尻ポケットから妙な物がぶら下っているのが見えた。
思わず二度見し、次にガン見してしまい、助教授に笑われた。
「国立博物館に売っていますよ」
人型の埴輪のマスコットだった。
ん? ここは西洋美術史を学ぶ生徒がいる場所ではないのか?
「彼は博物館のキュレーターを目指しているのですよ。
今日は、手伝ってくれる予定だった子が、デートに誘われたからってドタキャンしましてね。
ちょうど、学校に来たはいいけど、肝心の教授が夏風邪で現れなくて、帰ろうとしていたのをとっ捕まえたんです」
夏休みに勉強のためにわざわざ学校に足を運ぶ生徒の多さに、感心するしかなかった。
俺の学生時代は……考えると赤面ものである。
真面目とは言えない生徒だった……
男の子は微笑むと、なぜかウインクをしてから去って行った……
痛みを堪えながら揺すぶられるだけ揺すぶられた後、あっさりと一人になった……
俊は体をさっさと離し、服を身に着け始めた。
「実は明日、大阪に行くんだ」
「出張?」
「いや……大阪支社に転勤になった。
世話になったな。東京に戻ったらまた、連絡するよ」
ジクジクとした痛みが、ますますひどくなっていく……
俺の好きな、スーツ姿の俊を見上げていたら、涙が流れた……
俊は俺の涙に気づかない振りで、じゃあ。とだけ言うと、出て行った……
裸のままの俺を残して……
痛みとショックで動けず、ボンヤリとしていた……
ようやく動き出したのは日付が変わってからだった……
動き出したとはいっても、風呂に入ってベッドに入っただけだった。
痛みはまだ続いていたから、眠ることはできなかったけど、座っているよりは横になっている方が楽だった。
仕事があるからには、いつまでも呆然としているわけにはいかなかったのだ。
俺は朝までテレビを点けたまま時々微睡んだりしながら時間を過ごした……
「コローは生きている間に売れた画家ですからね。比べてミレーは生前省みられることはなかった。
今では逆転していますよね。コローを知らない人でもミレーは知っている」
「私はコローが好きですね。幻想的でありながら、写実的。輝いているようで儚げにも見える緑の木々が、特に美しいと思います」
美術大学の助教授とバルビゾン派の画家について話をしていた。
勤め先の出版社で二週に一度出る五百円で買えるお得な画集の担当になり、バルビゾン派の画家について一筆お願いしていたのをもらいに来たのだった。
タータンチェックの少々派手なスーツ姿の助教授は、知的で穏やかな表情のなかなかのイケメンであった。
詳しくはないが、高校生の頃、好きだった先輩に誘われて国立西洋美術館に行った際、「ナポリの浜の思い出」を見、美しいと思った。
青春時代の甘酸っぱい思い出と共に、もの悲しい舞台の一場面のような絵画が心に焼き付いている。
学生らしい男の子が、コーヒーのお代わりを持ってきてくれ、礼を言って受け取る。
最寄りの駅から美大生らしき少々エキセントリックな格好、派手な格好、?マークがあふれる格好を見ていた俺には、その子はずいぶんと地味に見えた。
ベリーショートを栗色に染めてはいるが、アクセサリーの一つもつけず、袖がグレーのツートンカラーのTシャツ、ブルージーンズ。
細身の均整の取れた体であるから、それだけで格好よくきまっている。
顔を見れば二十歳そこそこらしい。真咲君とは違うタイプながら、可愛い顔をしている。
真咲君は中性的だが、この子は男の子。といった風な顔で、やんちゃ坊主がそのまま成長したような可愛らしさがあった。
後ろを向いた時、尻ポケットから妙な物がぶら下っているのが見えた。
思わず二度見し、次にガン見してしまい、助教授に笑われた。
「国立博物館に売っていますよ」
人型の埴輪のマスコットだった。
ん? ここは西洋美術史を学ぶ生徒がいる場所ではないのか?
「彼は博物館のキュレーターを目指しているのですよ。
今日は、手伝ってくれる予定だった子が、デートに誘われたからってドタキャンしましてね。
ちょうど、学校に来たはいいけど、肝心の教授が夏風邪で現れなくて、帰ろうとしていたのをとっ捕まえたんです」
夏休みに勉強のためにわざわざ学校に足を運ぶ生徒の多さに、感心するしかなかった。
俺の学生時代は……考えると赤面ものである。
真面目とは言えない生徒だった……
男の子は微笑むと、なぜかウインクをしてから去って行った……
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