僕と先輩のその後

岡倉弘毅

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僕…………

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 ボンヤリと考えていた。


 もう、谷崎先輩には会えない…………。


 気持ち悪いって言われた…………。


 今までずっと優しかったのに……。


 僕はもう、どうすれば良いのかが分からなかった……。


 想定外だったのだ。谷崎先輩は僕を理解してくれると信じていた。受け入れてくれなくとも、理解はしてくれると……。

 
 卒業式の後すぐに学期末試験が始まるのに、僕はただひたすらあの日のことを思い出していた……。



 あぁ、そうだね。気持ち悪いよね。僕が、悪いんだよね。


 どうして恋なんてしてしまったのか。


 恋をした自分を責めて責めて責めて……僕はスマートフォンを手にした……。


 ゲイサイトの掲示板に書き込んだ。


    僕の初めて「3」でお願いします


 お金が欲しかったわけではなかった。ただ、堕ちたかった……堕ちてしまいたかった……。


 返事はすぐに来た。いつ会える? と。


 僕は、明日は? と返すと、OKって……。


 次の日僕は、昼の一時に指定された新宿のホテルにいた。ホテルと言ってもラブホテルじゃない。一流と言われる類いのホテルだった。


 ラウンジで、その人はコーヒーを飲みながら本を呼んでいた。英語のペーパーバック。


 45才だと聞いていた。脂ぎったおじさんだと思っていたら、知的で落ち着いた人だった。


 ちょっとがっかりした。


 堕ちるためには、ウンザリするような相手がよかったのだ。


 ちょっと先輩に似ている気がした……。


「マサキ君?」


 近づくと男は、優しく笑った。


「はい。初めまして……」


 なんと言えばいいのかが分からず、普通の挨拶をする。考えてみればまぬけな話だ。


「初めまして。俺はレイジ。


 確認しておきたいのだけど、一度だけの関係で良いんだよね?」


 もちろん。と、僕は答えた。


「失礼、以前、しつこい男がいたから、以来神経質になってしまってね」


 わからないでもなかった。レイジさんは男前だし、着ているスーツや持っている鞄は、どう見ても高価な物だ。


 金持ちで男前で優しければ、恋人にして貰いたいと思う奴もいるだろう。


「特定の相手が欲しいわけじゃ無いから」


 僕の答えに満足そうに笑うと、レイジさんは立ち上がり、行こう。と、優しく声を掛けてくれた。


 左手の薬指の根元が白い……。


 バイなのか、偽装結婚しているのか……僕にはどうでもいいことだった……。


 部屋は明るかった。壁一面、空が広がっていた。

 
 僕はコートを脱ぐと、窓に近寄った。地上が遙か下に見える。まるでミニチュアだ。


「いつもこんな所で?」


 セックスをする場所なんて、ラブホしか思いつかなかった。


「学生時代は、下宿に連れ込んでいたけどね」


 レイジさんが少し、楽しそうに笑った。


 背後に立ったレイジさんはいつのまにか、背広を脱いでネクタイを外して、シャツの第一釦を外していた。


「景色を見ていて良いよ」


 優しく耳元で囁きながら、僕のシャツの釦に手を掛ける。どうすればいいのかわからず、棒立ちになっていた。


 レイジさんの器用そうな指が、僕のシャツの釦をすっかり外してしまうと、ランニングを、ズボンを、下着を全て取り去る。


 レイジさんの唇が僕の背中を這う。


 レイジさんの大きな手が、僕の立ち上がりかけたモノを包む。そうして、ゆっくりと指を蠢かせ始めた。




 復讐だった。




 僕を本気にさせたくせに、気持ちも理解してくれなかった谷崎先輩への、復讐……。


 夢の中で谷崎先輩としたみたいに、僕はレイジさんとキスをした……。


 差し込まれた舌からは、コーヒーの香り……。


 さんざん刺激された体はもう、立っていることも辛かった。


 レイジさんは、座り込みそうになる僕を抱き上げると、ベッドに寝かせてくれた。


 レイジさんも服を脱いだ。慌てたみたいに、乱暴な脱ぎ方だった。


 可愛いよ……


 仰向けになっている僕の太腿に手を宛がうと、大きく開かせようとした。さすがに恥ずかしくて抵抗を見せると、嬉しそうに笑む。


「イイコだから……ね」

 
 僕は目を閉じて、足の力を抜いた……。
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