2 / 20
出会ってしまった
しおりを挟む
最近、ジャニーズ好きを公言している男性アナウンサーがいる。普通に考えると、男なのに? と引かれるはずだが、周りは偏見を持つ様子も無く、本人も彼らの横顔をうっとりと眺めてため息をつくなど、幸せそうだ。
(羨ましい……)
修は心の中で呟く。
(俺には公言する勇気は無い……)
どう思われるだろう……そんなことばかり考えて、修はいつだって、自分が皆と違うことを知られまいとして何もかも隠して生きてきた。恐らく、これからもそうして生きて行くのだろう。
放課後、裏庭に向かう。眼前に広がる山の木々。滴るような瑞々しい緑の中に、美しい貴婦人の耳飾りのような藤の房が見える。ベンチに腰かけて一つ伸びをすると、大きく溜息を吐いた。
クラスメートの彼女自慢に、良いなぁ。とうっかり言ったら、今度彼女の友達を紹介してやる。と言われた。断ったのだが、遠慮していると思われたらしく、来週辺りセッティングされそうだ。
「あ~あ」
ベンチに仰向けに寝転がると、真っ青な空を見上げる。どうしよう、どうやって断ろう。頭の中はずっとそればかりで、小心な自分に嫌気がさす。
(いいなぁ、俺も彼氏欲しいな。ジャニ系の可愛い彼氏……)
ゲイだというだけで、青春を謳歌する権利をはく奪されたような気持ちになる。理不尽な思いに叫びたくなるが、理性がそれを押しとどめた。
黒い制服が太陽光線を程よく吸収し、じんわりと体を温める。それは心地よい子守唄のように修を眠りの世界へと引きずり込んだ。
どれくらい時間が経ったのだろう、少し体が冷えて目が覚めた。目を開くとそこには……。
サラサラの黒髪に大きな目、サクランボみたいな唇。ジャニーズのジュン君を幼くしたような美少年が、不安そうに修を覗き込んでいた。
「生きてるよ」
美少年は驚いたらしく、目が更に大きくなっている。倒れているのでは? と心配していたのだろう。修はにこりとほほ笑んで、ごめんね。と謝った。
「気持ち良くって、眠くなっちゃってね。驚かせてしまったね」
美少年は驚いた顔のまま、修を見つめている。
「この季節はほら、向こうに見える山の木々に絡んだ藤がとても綺麗でね、それを眺めに来るんだ」
山を指さすと、そちらに向いて、キレイ。と呟いた。
(君の方が綺麗だ……)
修は少し体をずらすと、ベンチを叩いた。隣に座って欲しい、少しでも良いから話がしたい。そんな気持ちで。
「失礼します」
美少年は緊張した様子で、ぎくしゃくとした動きで座る。
「気楽にしてよ。俺は二年五組の谷崎修。君は?」
「一年三組の佐川真咲です」
修はにこりと笑うと、よろしく。と、右手を差し出した。
細い指が、修の手を握る。心臓が大きく打つ。
「部活は?」
「してません。部活してたら勉強ついていけなくなるから……」
言いながら視線を逸らした。嘘を吐いているかのような動作が、修は気になった。
「谷崎先輩は?」
「俺? 俺は一年の時はテニス部だったんだけど、コーチが熱血過ぎてついてけなくなって辞めた。ウインブルドン目指してる勢いだったからね」
真咲はくすくすと笑った。笑った顔は更に可愛かった。
それから一時間くらい話をして、さすがに暗くなってきたから、途中まで一緒に帰った。また明日、裏庭で会う約束をして。
明日また会える。修にとって喜びであり、苦しみであった。
(運命の出会いかも……)
恋に落ちたと理解していた。
(出会った……)
夢のような出来事で、嬉しくはあるのだが……。
(出会ってしまった……)
まだ、容姿が気に入っただけだ。と、自分に言い聞かせる。離れるなら今だ。
上手くいくわけがない恋に執着したら辛くなるのはわかっているにも関わらず、修は抗うことができなかった。
(羨ましい……)
修は心の中で呟く。
(俺には公言する勇気は無い……)
どう思われるだろう……そんなことばかり考えて、修はいつだって、自分が皆と違うことを知られまいとして何もかも隠して生きてきた。恐らく、これからもそうして生きて行くのだろう。
放課後、裏庭に向かう。眼前に広がる山の木々。滴るような瑞々しい緑の中に、美しい貴婦人の耳飾りのような藤の房が見える。ベンチに腰かけて一つ伸びをすると、大きく溜息を吐いた。
クラスメートの彼女自慢に、良いなぁ。とうっかり言ったら、今度彼女の友達を紹介してやる。と言われた。断ったのだが、遠慮していると思われたらしく、来週辺りセッティングされそうだ。
「あ~あ」
ベンチに仰向けに寝転がると、真っ青な空を見上げる。どうしよう、どうやって断ろう。頭の中はずっとそればかりで、小心な自分に嫌気がさす。
(いいなぁ、俺も彼氏欲しいな。ジャニ系の可愛い彼氏……)
ゲイだというだけで、青春を謳歌する権利をはく奪されたような気持ちになる。理不尽な思いに叫びたくなるが、理性がそれを押しとどめた。
黒い制服が太陽光線を程よく吸収し、じんわりと体を温める。それは心地よい子守唄のように修を眠りの世界へと引きずり込んだ。
どれくらい時間が経ったのだろう、少し体が冷えて目が覚めた。目を開くとそこには……。
サラサラの黒髪に大きな目、サクランボみたいな唇。ジャニーズのジュン君を幼くしたような美少年が、不安そうに修を覗き込んでいた。
「生きてるよ」
美少年は驚いたらしく、目が更に大きくなっている。倒れているのでは? と心配していたのだろう。修はにこりとほほ笑んで、ごめんね。と謝った。
「気持ち良くって、眠くなっちゃってね。驚かせてしまったね」
美少年は驚いた顔のまま、修を見つめている。
「この季節はほら、向こうに見える山の木々に絡んだ藤がとても綺麗でね、それを眺めに来るんだ」
山を指さすと、そちらに向いて、キレイ。と呟いた。
(君の方が綺麗だ……)
修は少し体をずらすと、ベンチを叩いた。隣に座って欲しい、少しでも良いから話がしたい。そんな気持ちで。
「失礼します」
美少年は緊張した様子で、ぎくしゃくとした動きで座る。
「気楽にしてよ。俺は二年五組の谷崎修。君は?」
「一年三組の佐川真咲です」
修はにこりと笑うと、よろしく。と、右手を差し出した。
細い指が、修の手を握る。心臓が大きく打つ。
「部活は?」
「してません。部活してたら勉強ついていけなくなるから……」
言いながら視線を逸らした。嘘を吐いているかのような動作が、修は気になった。
「谷崎先輩は?」
「俺? 俺は一年の時はテニス部だったんだけど、コーチが熱血過ぎてついてけなくなって辞めた。ウインブルドン目指してる勢いだったからね」
真咲はくすくすと笑った。笑った顔は更に可愛かった。
それから一時間くらい話をして、さすがに暗くなってきたから、途中まで一緒に帰った。また明日、裏庭で会う約束をして。
明日また会える。修にとって喜びであり、苦しみであった。
(運命の出会いかも……)
恋に落ちたと理解していた。
(出会った……)
夢のような出来事で、嬉しくはあるのだが……。
(出会ってしまった……)
まだ、容姿が気に入っただけだ。と、自分に言い聞かせる。離れるなら今だ。
上手くいくわけがない恋に執着したら辛くなるのはわかっているにも関わらず、修は抗うことができなかった。
10
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集
あかさたな!
BL
全話独立したお話です。
溺愛前提のラブラブ感と
ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。
いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を!
【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】
------------------
【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。
同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集]
等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
ありがとうございました。
引き続き応援いただけると幸いです。】
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる