僕と先輩のその後

岡倉弘毅

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出会ってしまった

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 最近、ジャニーズ好きを公言している男性アナウンサーがいる。普通に考えると、男なのに? と引かれるはずだが、周りは偏見を持つ様子も無く、本人も彼らの横顔をうっとりと眺めてため息をつくなど、幸せそうだ。


(羨ましい……)


 修は心の中で呟く。


(俺には公言する勇気は無い……)


 どう思われるだろう……そんなことばかり考えて、修はいつだって、自分が皆と違うことを知られまいとして何もかも隠して生きてきた。恐らく、これからもそうして生きて行くのだろう。


 放課後、裏庭に向かう。眼前に広がる山の木々。滴るような瑞々しい緑の中に、美しい貴婦人の耳飾りのような藤の房が見える。ベンチに腰かけて一つ伸びをすると、大きく溜息を吐いた。


 クラスメートの彼女自慢に、良いなぁ。とうっかり言ったら、今度彼女の友達を紹介してやる。と言われた。断ったのだが、遠慮していると思われたらしく、来週辺りセッティングされそうだ。


「あ~あ」


 ベンチに仰向けに寝転がると、真っ青な空を見上げる。どうしよう、どうやって断ろう。頭の中はずっとそればかりで、小心な自分に嫌気がさす。


(いいなぁ、俺も彼氏欲しいな。ジャニ系の可愛い彼氏……)

 
 ゲイだというだけで、青春を謳歌する権利をはく奪されたような気持ちになる。理不尽な思いに叫びたくなるが、理性がそれを押しとどめた。


 黒い制服が太陽光線を程よく吸収し、じんわりと体を温める。それは心地よい子守唄のように修を眠りの世界へと引きずり込んだ。


 どれくらい時間が経ったのだろう、少し体が冷えて目が覚めた。目を開くとそこには……。


 サラサラの黒髪に大きな目、サクランボみたいな唇。ジャニーズのジュン君を幼くしたような美少年が、不安そうに修を覗き込んでいた。



「生きてるよ」


 美少年は驚いたらしく、目が更に大きくなっている。倒れているのでは? と心配していたのだろう。修はにこりとほほ笑んで、ごめんね。と謝った。


「気持ち良くって、眠くなっちゃってね。驚かせてしまったね」


 美少年は驚いた顔のまま、修を見つめている。


「この季節はほら、向こうに見える山の木々に絡んだ藤がとても綺麗でね、それを眺めに来るんだ」


 山を指さすと、そちらに向いて、キレイ。と呟いた。


(君の方が綺麗だ……)


 修は少し体をずらすと、ベンチを叩いた。隣に座って欲しい、少しでも良いから話がしたい。そんな気持ちで。


「失礼します」


 美少年は緊張した様子で、ぎくしゃくとした動きで座る。


「気楽にしてよ。俺は二年五組の谷崎修。君は?」


「一年三組の佐川真咲です」


 修はにこりと笑うと、よろしく。と、右手を差し出した。


 細い指が、修の手を握る。心臓が大きく打つ。


「部活は?」



「してません。部活してたら勉強ついていけなくなるから……」


 言いながら視線を逸らした。嘘を吐いているかのような動作が、修は気になった。


「谷崎先輩は?」


「俺? 俺は一年の時はテニス部だったんだけど、コーチが熱血過ぎてついてけなくなって辞めた。ウインブルドン目指してる勢いだったからね」


 真咲はくすくすと笑った。笑った顔は更に可愛かった。


 それから一時間くらい話をして、さすがに暗くなってきたから、途中まで一緒に帰った。また明日、裏庭で会う約束をして。


 明日また会える。修にとって喜びであり、苦しみであった。


(運命の出会いかも……)


 恋に落ちたと理解していた。


(出会った……)


 夢のような出来事で、嬉しくはあるのだが……。


(出会ってしまった……)


 まだ、容姿が気に入っただけだ。と、自分に言い聞かせる。離れるなら今だ。


 上手くいくわけがない恋に執着したら辛くなるのはわかっているにも関わらず、修は抗うことができなかった。
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