一生分の恋 一生の愛

岡倉弘毅

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雨宿り

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 出会いは、シャッターの下りたブティックの軒下。突然の雨に途方に暮れていた。

 目的地の二丁目はもう目の前。一夜限りの相手を求めて、週に一度は足を運ぶ。

 彼氏が欲しいとは思わないでも無かったが、野球の話とか、ロックが好きだとか、興味のない話をされるのが面倒で、なかなかその気にななれなかった。

 一人の男が飛び込んで来た。甘い香りがした。

 ベリーショートの髪は黒く、ブラックジーンズに白いフレンチカラーのシャツ。左襟にシルバーのピン。お洒落男子といったところか。

「今までケーキに囲まれてた?」

 俺の不躾な言葉に、男はニコリと笑った。

「はい。僕、パティシエなんです」

 甘い香りがするはずだ。体中にバニラの匂いが染み込んでいるに違いない。

「ケーキが食べたくなったのは君のせいだから、責任取ってくれないかな」

 男からはバニラだけではなく、もう一つ、ある匂いがしていた。

「良いですよ。近くに美味しいカフェがあるから」

 俺と同じ匂いがしていた。おそらく目的地も同じ……。

 迷いそうな路地の奥にある小さなカフェで、とびきり美味しいケーキに舌鼓を打ちながら、スイーツ談議に花を咲かせた。

 章吾と名乗った男は、俺よりも二つ下だった。見た目は五つくらい下に見えたが。

 美男子でもイケメンでもないけど、男の子って感じのカワイイ男。仕事が仕事だけに、清潔感に溢れているのがなによりも気に入った。

「さすがはパティシエのお勧めだけあって、美味かったよ。

 ねぇ、もう一つ味わいたいものがあるんだけど」
 
 章吾しょうごは俺の指先に自分の指先を重ねて笑った。

「良いですよ、隆史たかしさん」

 
 運が良かったのは、俺はタチで、章吾がネコだったってこと。男と女なら色々と楽に進むけど、男同士だとそうはいかない。
 
 まず、ゲイであるかどうかが、一番大事だ。

 次に、タチかネコか。

 フレンチカラーのシャツの裾を、ジーンズから引っ張り出してたくし上げ、インドアらしい白い肌に口付ける。かすかにバニラの匂いがした。

 章吾は抱かれ慣れていたし、俺は抱き慣れていた。だから初めから事はスムーズに進んだし、初めから気持ちが良かった。

 体の相性も良かったのだろう、服を着る前にもう、次に会う約束をしていた。

 しかし、二人とも過去の男の話はしなかった。知りたくも無かったし、教えたくも無かった。章吾には俺がいるし、俺には章吾がいる。それだけで良かった……。
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