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第5章:ハッピーエンドはすぐそこに。

最終話.7度目の人生、幸せに暮らします。

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 カイル殿下とイーディス様の前に着くと、私とオーウェンは儀礼通りのお辞儀をします。


「楽にしていい。レディ・ベネット。そして、ライト」


 カイル殿下が腰に手を当てたまま不敵に笑います。

 んんん??
 何か不穏ですが?


「まさか婚約するとはなぁ。出会ってそれほど経っていないというではないか。時期尚早ではないのか?」

「殿下。物事には時の利タイミング、というものがございます。計画よりも少し早まりましたが、ダイナが他の男に取られる前に決めておきたかったのです」

「それほど……か?」


 カイル殿下がいぶかしげにこちらをみます。

 ええ。ええ、わかっていますよ。
 私は十人並みですからね。
 イーディス様やその他の貴婦人とは比べ物にならないことは重々承知しています。

 今日はラファイエットの最上級ドレスを着ていますけどね、馬子にも衣装、というか衣装が主役って感じなのもわかっています。

 対してオーウェンはイケメンなんですもの。
 オーウェンの私の衣装に合わせたダブルブレストのコート、最高に素敵ですよね!

 でも、私とオーウェンは単品ではダメなんです。

 私がいることでオーウェンがさらに際立つってものでしょう?
 隣の私はメインディッシュに添えられたクレソン程度かもしれませんが、隣にいる意味もあるってものです。

 オーウェンが見せつけるかのように、私の腰に手を回しました。わぁっと外野から歓声が上がります。


(ああ……。わかってはいるけど、やっぱり恥ずかしい……)


 もう公認ですけどね、うん。
 人前でいちゃつくのはちょっと経験値が足りなさすぎて、卒倒しそうです。

 だというのに、オーウェンはやめようとはしません。


「それほど、ですよ、殿下。ダイナの魅力はとても……あぁ私だけが知っていればいいのですから、具体的に殿下には申し上げることはできかねますが、ただ手放し難い魅力があるとだけ、お伝えいたしましょう」

「言うなぁ、ライト。……しかしお前から惚気のろけが聞ける日がくるとは思いもよらなかった。私には見向きもしなかった女に言い寄られても、受け入れなかったというのになぁ」


(それってメリッサ様ですね! 殿下、お好きでしたものね)

 と心の中で突っ込みます。今となってはなつかしい限りです。

 オーウェンと殿下のやりとりを聞くにつれ、オーウェンは思っていた以上に、カイル殿下の信用の厚い部下であったようです。
 まぁ血統も申し分なく、能力もある。重用しない意味がないのかもしれません。

 そして二人のやりとりを見ていると、主従関係以上のものも感じます。
 どれだけ信頼されていたのでしょうか。

 少し羨ましいです。

 私もイーディス様ともう少し踏み込んだ関係になれたらなぁ、と思ってしまいます。侍女としてもっともっと頼っていただけるようになりたいものです。


「あら、ライトは自分だけが知っているみたいな言い方だけど、私もダイナの素晴らしいところは知っているわよ?」

「イーディス。そうなのか?」


 カイル殿下は愛おしげに妻の名を呼び、イーディス様と見つめ合います。
 あまりの視線の熱さに、会場がざわめき出しました。

 いやその。このお二人。
 これほど衆人の目も気にしないほど熱々でしたっけ……?

 夫婦仲のいいのは有名ですけども。
 リゾートの開放感がそうさせるのでしょうか?
 ちょっと胃もたれしそうです。


「この私の素敵な王子様の心をがっちりと掴む秘訣を教えてくれたのは、ダイナなのよ。そんなアドバイスなんてできる人なんて、世界でただ一人だけよ。私の大事な侍女のダイナだけ」


『私の大事な侍女ダイナ』イーディス様の言葉が心に響きます。
 もしかしてイーディス様も私に信頼を寄せてくださっているのでしょうか?
 そうだとしたら嬉しいです。


「あぁ確かに。レディ・ベネットは恩人だな。私とイー……」

「殿下、このままでは切りがありません。続きはお二人だけでなさってくださいませんか。そろそろお願いいたします」


 オーウェンが痺れを切らしたのか、割って入り、切羽詰まったように訴えました。

「しかたがない」とため息をつきながら、カイル殿下は渋々イーディス様から視線を離します。
 そして私とオーウェンを呼び寄せると、両手を天に掲げました。


「ヘリフォード王の代理として、トラジェット公爵カイル・フィッツアラン=ヘリフォードがここにこの二人の婚約を宣言する。王が認めた婚儀である。以後、何者も異議を申し立てることを許さぬ!」


 宣言が終わるやいなや、会場いっぱいに大歓声が上がりました!

 王族に認められたということは、もう誰にも邪魔されないということです。


 細々とした問題は色々残ってますが、きっと大丈夫なはずです。
 なんとかなるでしょう。

 だって私には7回も重ねた人生のノウハウがあるんですもの。
 小さな山や谷なんて、ひと跨ぎです。

 平凡だけど穏やかな人生を送るためなら、なんでもできます。

 しかも今回の人生は大好きな人と共に過ごせるのです。
 全力で行くしかないじゃないですか!

 私の人生の最終目標は、愛する人たちに囲まれてベッドの上で生涯を終えること。
 前世の失敗は繰り返しません。

 波乱万丈なんてクソ喰らえ、平々凡々、平穏無事が一番なのですから!


 私はオーウェンを見上げます。

「オーウェン。私、今日が社交界の正式なデビューなの。だからね、ファーストダンス踊ってくれる?」


 オーウェンは私の手を取り、「光栄です」とだけ言うとフロアの中程に進みました。
 するとイーディス様とカイル殿下、以下招待客がパートナーとともに私たちを取り囲むようにフロアに出ました。


「さぁ二人のための祝賀を始めよう」


 カイル殿下の合図で楽団が軽快な舞踏曲を奏ではじめます。

 私とオーウェンは息を整えると、最初のステップを踏み出しました。
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