73 / 73
第5章:ハッピーエンドはすぐそこに。
最終話.7度目の人生、幸せに暮らします。
しおりを挟む
カイル殿下とイーディス様の前に着くと、私とオーウェンは儀礼通りのお辞儀をします。
「楽にしていい。レディ・ベネット。そして、ライト」
カイル殿下が腰に手を当てたまま不敵に笑います。
んんん??
何か不穏ですが?
「まさか婚約するとはなぁ。出会ってそれほど経っていないというではないか。時期尚早ではないのか?」
「殿下。物事には時の利、というものがございます。計画よりも少し早まりましたが、ダイナが他の男に取られる前に決めておきたかったのです」
「それほど……か?」
カイル殿下が訝しげにこちらをみます。
ええ。ええ、わかっていますよ。
私は十人並みですからね。
イーディス様やその他の貴婦人とは比べ物にならないことは重々承知しています。
今日はラファイエットの最上級ドレスを着ていますけどね、馬子にも衣装、というか衣装が主役って感じなのもわかっています。
対してオーウェンはイケメンなんですもの。
オーウェンの私の衣装に合わせたダブルブレストのコート、最高に素敵ですよね!
でも、私とオーウェンは単品ではダメなんです。
私がいることでオーウェンがさらに際立つってものでしょう?
隣の私はメインディッシュに添えられたクレソン程度かもしれませんが、隣にいる意味もあるってものです。
オーウェンが見せつけるかのように、私の腰に手を回しました。わぁっと外野から歓声が上がります。
(ああ……。わかってはいるけど、やっぱり恥ずかしい……)
もう公認ですけどね、うん。
人前でいちゃつくのはちょっと経験値が足りなさすぎて、卒倒しそうです。
だというのに、オーウェンはやめようとはしません。
「それほど、ですよ、殿下。ダイナの魅力はとても……あぁ私だけが知っていればいいのですから、具体的に殿下には申し上げることはできかねますが、ただ手放し難い魅力があるとだけ、お伝えいたしましょう」
「言うなぁ、ライト。……しかしお前から惚気が聞ける日がくるとは思いもよらなかった。私には見向きもしなかった女に言い寄られても、受け入れなかったというのになぁ」
(それってメリッサ様ですね! 殿下、お好きでしたものね)
と心の中で突っ込みます。今となってはなつかしい限りです。
オーウェンと殿下のやりとりを聞くにつれ、オーウェンは思っていた以上に、カイル殿下の信用の厚い部下であったようです。
まぁ血統も申し分なく、能力もある。重用しない意味がないのかもしれません。
そして二人のやりとりを見ていると、主従関係以上のものも感じます。
どれだけ信頼されていたのでしょうか。
少し羨ましいです。
私もイーディス様ともう少し踏み込んだ関係になれたらなぁ、と思ってしまいます。侍女としてもっともっと頼っていただけるようになりたいものです。
「あら、ライトは自分だけが知っているみたいな言い方だけど、私もダイナの素晴らしいところは知っているわよ?」
「イーディス。そうなのか?」
カイル殿下は愛おしげに妻の名を呼び、イーディス様と見つめ合います。
あまりの視線の熱さに、会場がざわめき出しました。
いやその。このお二人。
これほど衆人の目も気にしないほど熱々でしたっけ……?
夫婦仲のいいのは有名ですけども。
リゾートの開放感がそうさせるのでしょうか?
ちょっと胃もたれしそうです。
「この私の素敵な王子様の心をがっちりと掴む秘訣を教えてくれたのは、ダイナなのよ。そんなアドバイスなんてできる人なんて、世界でただ一人だけよ。私の大事な侍女のダイナだけ」
『私の大事な侍女ダイナ』イーディス様の言葉が心に響きます。
もしかしてイーディス様も私に信頼を寄せてくださっているのでしょうか?
そうだとしたら嬉しいです。
「あぁ確かに。レディ・ベネットは恩人だな。私とイー……」
「殿下、このままでは切りがありません。続きはお二人だけでなさってくださいませんか。そろそろお願いいたします」
オーウェンが痺れを切らしたのか、割って入り、切羽詰まったように訴えました。
「しかたがない」とため息をつきながら、カイル殿下は渋々イーディス様から視線を離します。
そして私とオーウェンを呼び寄せると、両手を天に掲げました。
「ヘリフォード王の代理として、トラジェット公爵カイル・フィッツアラン=ヘリフォードがここにこの二人の婚約を宣言する。王が認めた婚儀である。以後、何者も異議を申し立てることを許さぬ!」
宣言が終わるやいなや、会場いっぱいに大歓声が上がりました!
王族に認められたということは、もう誰にも邪魔されないということです。
細々とした問題は色々残ってますが、きっと大丈夫なはずです。
なんとかなるでしょう。
だって私には7回も重ねた人生のノウハウがあるんですもの。
小さな山や谷なんて、ひと跨ぎです。
平凡だけど穏やかな人生を送るためなら、なんでもできます。
しかも今回の人生は大好きな人と共に過ごせるのです。
全力で行くしかないじゃないですか!
私の人生の最終目標は、愛する人たちに囲まれてベッドの上で生涯を終えること。
前世の失敗は繰り返しません。
波乱万丈なんてクソ喰らえ、平々凡々、平穏無事が一番なのですから!
私はオーウェンを見上げます。
「オーウェン。私、今日が社交界の正式なデビューなの。だからね、ファーストダンス踊ってくれる?」
オーウェンは私の手を取り、「光栄です」とだけ言うとフロアの中程に進みました。
するとイーディス様とカイル殿下、以下招待客がパートナーとともに私たちを取り囲むようにフロアに出ました。
「さぁ二人のための祝賀を始めよう」
カイル殿下の合図で楽団が軽快な舞踏曲を奏ではじめます。
私とオーウェンは息を整えると、最初のステップを踏み出しました。
「楽にしていい。レディ・ベネット。そして、ライト」
カイル殿下が腰に手を当てたまま不敵に笑います。
んんん??
何か不穏ですが?
「まさか婚約するとはなぁ。出会ってそれほど経っていないというではないか。時期尚早ではないのか?」
「殿下。物事には時の利、というものがございます。計画よりも少し早まりましたが、ダイナが他の男に取られる前に決めておきたかったのです」
「それほど……か?」
カイル殿下が訝しげにこちらをみます。
ええ。ええ、わかっていますよ。
私は十人並みですからね。
イーディス様やその他の貴婦人とは比べ物にならないことは重々承知しています。
今日はラファイエットの最上級ドレスを着ていますけどね、馬子にも衣装、というか衣装が主役って感じなのもわかっています。
対してオーウェンはイケメンなんですもの。
オーウェンの私の衣装に合わせたダブルブレストのコート、最高に素敵ですよね!
でも、私とオーウェンは単品ではダメなんです。
私がいることでオーウェンがさらに際立つってものでしょう?
隣の私はメインディッシュに添えられたクレソン程度かもしれませんが、隣にいる意味もあるってものです。
オーウェンが見せつけるかのように、私の腰に手を回しました。わぁっと外野から歓声が上がります。
(ああ……。わかってはいるけど、やっぱり恥ずかしい……)
もう公認ですけどね、うん。
人前でいちゃつくのはちょっと経験値が足りなさすぎて、卒倒しそうです。
だというのに、オーウェンはやめようとはしません。
「それほど、ですよ、殿下。ダイナの魅力はとても……あぁ私だけが知っていればいいのですから、具体的に殿下には申し上げることはできかねますが、ただ手放し難い魅力があるとだけ、お伝えいたしましょう」
「言うなぁ、ライト。……しかしお前から惚気が聞ける日がくるとは思いもよらなかった。私には見向きもしなかった女に言い寄られても、受け入れなかったというのになぁ」
(それってメリッサ様ですね! 殿下、お好きでしたものね)
と心の中で突っ込みます。今となってはなつかしい限りです。
オーウェンと殿下のやりとりを聞くにつれ、オーウェンは思っていた以上に、カイル殿下の信用の厚い部下であったようです。
まぁ血統も申し分なく、能力もある。重用しない意味がないのかもしれません。
そして二人のやりとりを見ていると、主従関係以上のものも感じます。
どれだけ信頼されていたのでしょうか。
少し羨ましいです。
私もイーディス様ともう少し踏み込んだ関係になれたらなぁ、と思ってしまいます。侍女としてもっともっと頼っていただけるようになりたいものです。
「あら、ライトは自分だけが知っているみたいな言い方だけど、私もダイナの素晴らしいところは知っているわよ?」
「イーディス。そうなのか?」
カイル殿下は愛おしげに妻の名を呼び、イーディス様と見つめ合います。
あまりの視線の熱さに、会場がざわめき出しました。
いやその。このお二人。
これほど衆人の目も気にしないほど熱々でしたっけ……?
夫婦仲のいいのは有名ですけども。
リゾートの開放感がそうさせるのでしょうか?
ちょっと胃もたれしそうです。
「この私の素敵な王子様の心をがっちりと掴む秘訣を教えてくれたのは、ダイナなのよ。そんなアドバイスなんてできる人なんて、世界でただ一人だけよ。私の大事な侍女のダイナだけ」
『私の大事な侍女ダイナ』イーディス様の言葉が心に響きます。
もしかしてイーディス様も私に信頼を寄せてくださっているのでしょうか?
そうだとしたら嬉しいです。
「あぁ確かに。レディ・ベネットは恩人だな。私とイー……」
「殿下、このままでは切りがありません。続きはお二人だけでなさってくださいませんか。そろそろお願いいたします」
オーウェンが痺れを切らしたのか、割って入り、切羽詰まったように訴えました。
「しかたがない」とため息をつきながら、カイル殿下は渋々イーディス様から視線を離します。
そして私とオーウェンを呼び寄せると、両手を天に掲げました。
「ヘリフォード王の代理として、トラジェット公爵カイル・フィッツアラン=ヘリフォードがここにこの二人の婚約を宣言する。王が認めた婚儀である。以後、何者も異議を申し立てることを許さぬ!」
宣言が終わるやいなや、会場いっぱいに大歓声が上がりました!
王族に認められたということは、もう誰にも邪魔されないということです。
細々とした問題は色々残ってますが、きっと大丈夫なはずです。
なんとかなるでしょう。
だって私には7回も重ねた人生のノウハウがあるんですもの。
小さな山や谷なんて、ひと跨ぎです。
平凡だけど穏やかな人生を送るためなら、なんでもできます。
しかも今回の人生は大好きな人と共に過ごせるのです。
全力で行くしかないじゃないですか!
私の人生の最終目標は、愛する人たちに囲まれてベッドの上で生涯を終えること。
前世の失敗は繰り返しません。
波乱万丈なんてクソ喰らえ、平々凡々、平穏無事が一番なのですから!
私はオーウェンを見上げます。
「オーウェン。私、今日が社交界の正式なデビューなの。だからね、ファーストダンス踊ってくれる?」
オーウェンは私の手を取り、「光栄です」とだけ言うとフロアの中程に進みました。
するとイーディス様とカイル殿下、以下招待客がパートナーとともに私たちを取り囲むようにフロアに出ました。
「さぁ二人のための祝賀を始めよう」
カイル殿下の合図で楽団が軽快な舞踏曲を奏ではじめます。
私とオーウェンは息を整えると、最初のステップを踏み出しました。
0
お気に入りに追加
154
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません
黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。
でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。
知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。
学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。
いったい、何を考えているの?!
仕方ない。現実を見せてあげましょう。
と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。
「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」
突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。
普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。
※わりと見切り発車です。すみません。
※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる