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第5章:ハッピーエンドはすぐそこに。
71.謀(はかりごと)は密やかに。
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しばらくすると、離宮専属の侍従が舞踏会の開式を告げるために、控え室に入ってきました。
深々と一礼し、よく通る声でこれからの予定を読み上げます。
それによれば、主催であるトラジェット公爵夫妻や主賓はすでに会場で待機されていらっしゃるようです。
残るはこの控え室にいる客と私たち侍女のみだそう。
イーディス様のご意志で、どうやら名前を呼ばれたカップルから入場するようです。
ごくごく小さなシークレット舞踏会と言いながらも、王室の伝統にのっとったスタイル。想像以上に本格的でびっくりします。
私はほっと息を吐きました。
(オーウェンがいてくれてよかったわ)
正直、こんなに格式ばった舞踏会とは思いませんでした。
そんな場に一人で入場を考えていただなんて。なんて無茶なことでしょう。恐ろしい……。
(危うく人生がめちゃくちゃになるところだったわ……)
少人数しか招待されていない舞踏会といえど、人の口には戸を立てられません。
今後どれだけの恥を晒すことになっていたでしょう。
平穏無事、どこにでもある幸せな平凡な人生を送る目標が潰されるところでした。
本当によかった。
(もう。イーディス様もおっしゃってくださればよかったのに)
サプライズにしては酷すぎます。
なんて意地悪なのでしょうか。
と思っているうちに、侍従の説明が終わったようです。皆、入り口へ移動し始めます。
オーウェンも立ち上がると、「さぁ行きましょうか。お嬢様?」と凛々しく腕を差し出しました。
私はそっと手を添えます。
なんだか少し照れ臭くて、オーウェンを直視できません。だってオーウェンがいなかったら、初めての舞踏会で立ち直れないほどの恥をかくところだったのです。
そんな私を救い出してくれたオーウェン。
私にとって大好きな人であると同時に英雄です。同じ名を持つかつての建国の英雄オーウェン・ヒューズのように、輝いて見えます。
「オーウェン、ありがとう。ほんとは一人で心細かったの。こんなにちゃんとした舞踏会だとは夢にも思わなかったから」
「うん。……わかってたから来たんだ。ダイナが辛い思いをしないようにね」
オーウェンは私の欲しい言葉をするりと口にしました。
でもちょっと引っかかります。
(わかってたから来た? この舞踏会は10日前に知らされたものよ。それにオーウェンは地方で仕事があったはずなのに)
そもそもどうしてここにいるのでしょう??
オーウェンも何か隠しているのでしょうか。
「そういえば、オーウェン。仕事は? 出張だって言ってたでしょう?」
「ん? あぁ。切り上げてきた」
「良いの? 大事な時期だって……」
言い終わる前に、オーウェンは私の額に唇を寄せました。そして頬、唇と軽くキスします。
「ほぼ終わったから大丈夫。ねぇダイナ。仕事も大事だけどね。俺にはダイナも同じくらい大事なんだ。愛しい人の夢にまで見たデビューなんだから、寂しい思いなんてさせたくないっていう思い、わかって欲しいな。だから無粋なことを聞くのはこれでおしまい」
もうこれ以上、話題に上げてほしくないようです。
うーん。聞かれてイヤなことはこうして実力行使で黙らせるのはどうなんでしょう?
イヤじゃないから、抗議はしませんが。
「……優しいのね」
「ダイナは俺が選んだ最愛の婚約者だからね。甘やかすのは特権だろ?」
だからといって誤魔化すのは無しにして欲しいものです。
モヤっとしたままは、なんとなく落ち着きません。
「ねぇ、オーウェン。私がイーディス様に舞踏会を知らされたのは10日前なのよ。もしかして、オーウェンはこの舞踏会のこと前から知らされてたの?」
涼やかな目元を少し歪ませてオーウェンは人差し指で私の口を押さえ、顔を寄せました。
「……午餐会や晩餐会と違ってね、舞踏会が一週間やそこらでできるはずはないんだよ。侍女としてイーディス様にお仕えしていたんだから、知ってるだろう? どんな規模のものでも舞踏会の準備は何週間もかかるってこと」
つまりオーウェンは舞踏会を知っていた。
「え、じゃあ……舞踏会、ずっと前から計画されてたの??」
週数間前となると、まだ首都にいた頃です。
バカンスに来る前から計画されていたということになります。
(イーディス様とカイル殿下が、オーウェンには知らせてるのに、側近である侍女にすら秘して準備なさっていたということ? そんな……)
確かにここ数日。腑に落ちないことがいくつかありました。
自分たちと使用人との区別をきっちりつけるイーディス様が、必要以上に侍女に親切であったことは最たるものです。
侍女たちがドレスを誂えたラファイエット衣料店は超高級店。
事前に話が行っていないと庶民は利用することすらできません。それなのに、あっさりとドレスを調達できたのは、すでに手配が終わっていたということになります。
そして連日のエステまで……。
イーディス様はなんの意図でここまでなさったのでしょう。
「ねぇ、オーウェン。なんで私に秘密にして……」
そこまで言いかけた時、
「ベネット男爵令嬢ダイナ・ベネット様とオーウェン・ライト様、お入りください」
と高らかに宣言する侍従に遮られました。
私たちは話を中断し、舞踏会会場の入り口へ向かいました。
深々と一礼し、よく通る声でこれからの予定を読み上げます。
それによれば、主催であるトラジェット公爵夫妻や主賓はすでに会場で待機されていらっしゃるようです。
残るはこの控え室にいる客と私たち侍女のみだそう。
イーディス様のご意志で、どうやら名前を呼ばれたカップルから入場するようです。
ごくごく小さなシークレット舞踏会と言いながらも、王室の伝統にのっとったスタイル。想像以上に本格的でびっくりします。
私はほっと息を吐きました。
(オーウェンがいてくれてよかったわ)
正直、こんなに格式ばった舞踏会とは思いませんでした。
そんな場に一人で入場を考えていただなんて。なんて無茶なことでしょう。恐ろしい……。
(危うく人生がめちゃくちゃになるところだったわ……)
少人数しか招待されていない舞踏会といえど、人の口には戸を立てられません。
今後どれだけの恥を晒すことになっていたでしょう。
平穏無事、どこにでもある幸せな平凡な人生を送る目標が潰されるところでした。
本当によかった。
(もう。イーディス様もおっしゃってくださればよかったのに)
サプライズにしては酷すぎます。
なんて意地悪なのでしょうか。
と思っているうちに、侍従の説明が終わったようです。皆、入り口へ移動し始めます。
オーウェンも立ち上がると、「さぁ行きましょうか。お嬢様?」と凛々しく腕を差し出しました。
私はそっと手を添えます。
なんだか少し照れ臭くて、オーウェンを直視できません。だってオーウェンがいなかったら、初めての舞踏会で立ち直れないほどの恥をかくところだったのです。
そんな私を救い出してくれたオーウェン。
私にとって大好きな人であると同時に英雄です。同じ名を持つかつての建国の英雄オーウェン・ヒューズのように、輝いて見えます。
「オーウェン、ありがとう。ほんとは一人で心細かったの。こんなにちゃんとした舞踏会だとは夢にも思わなかったから」
「うん。……わかってたから来たんだ。ダイナが辛い思いをしないようにね」
オーウェンは私の欲しい言葉をするりと口にしました。
でもちょっと引っかかります。
(わかってたから来た? この舞踏会は10日前に知らされたものよ。それにオーウェンは地方で仕事があったはずなのに)
そもそもどうしてここにいるのでしょう??
オーウェンも何か隠しているのでしょうか。
「そういえば、オーウェン。仕事は? 出張だって言ってたでしょう?」
「ん? あぁ。切り上げてきた」
「良いの? 大事な時期だって……」
言い終わる前に、オーウェンは私の額に唇を寄せました。そして頬、唇と軽くキスします。
「ほぼ終わったから大丈夫。ねぇダイナ。仕事も大事だけどね。俺にはダイナも同じくらい大事なんだ。愛しい人の夢にまで見たデビューなんだから、寂しい思いなんてさせたくないっていう思い、わかって欲しいな。だから無粋なことを聞くのはこれでおしまい」
もうこれ以上、話題に上げてほしくないようです。
うーん。聞かれてイヤなことはこうして実力行使で黙らせるのはどうなんでしょう?
イヤじゃないから、抗議はしませんが。
「……優しいのね」
「ダイナは俺が選んだ最愛の婚約者だからね。甘やかすのは特権だろ?」
だからといって誤魔化すのは無しにして欲しいものです。
モヤっとしたままは、なんとなく落ち着きません。
「ねぇ、オーウェン。私がイーディス様に舞踏会を知らされたのは10日前なのよ。もしかして、オーウェンはこの舞踏会のこと前から知らされてたの?」
涼やかな目元を少し歪ませてオーウェンは人差し指で私の口を押さえ、顔を寄せました。
「……午餐会や晩餐会と違ってね、舞踏会が一週間やそこらでできるはずはないんだよ。侍女としてイーディス様にお仕えしていたんだから、知ってるだろう? どんな規模のものでも舞踏会の準備は何週間もかかるってこと」
つまりオーウェンは舞踏会を知っていた。
「え、じゃあ……舞踏会、ずっと前から計画されてたの??」
週数間前となると、まだ首都にいた頃です。
バカンスに来る前から計画されていたということになります。
(イーディス様とカイル殿下が、オーウェンには知らせてるのに、側近である侍女にすら秘して準備なさっていたということ? そんな……)
確かにここ数日。腑に落ちないことがいくつかありました。
自分たちと使用人との区別をきっちりつけるイーディス様が、必要以上に侍女に親切であったことは最たるものです。
侍女たちがドレスを誂えたラファイエット衣料店は超高級店。
事前に話が行っていないと庶民は利用することすらできません。それなのに、あっさりとドレスを調達できたのは、すでに手配が終わっていたということになります。
そして連日のエステまで……。
イーディス様はなんの意図でここまでなさったのでしょう。
「ねぇ、オーウェン。なんで私に秘密にして……」
そこまで言いかけた時、
「ベネット男爵令嬢ダイナ・ベネット様とオーウェン・ライト様、お入りください」
と高らかに宣言する侍従に遮られました。
私たちは話を中断し、舞踏会会場の入り口へ向かいました。
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