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第3章:乱れ飛ぶプロポーズ。

50.約束の証は……オーウェンのキスでした。

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 ――だけど。

 これでいいんでしょうか。

 もう身体中全部で「はい!」しかないし、98パーセントくらいは即受け入れてるんですけどね!!
 本音のところは、すぐにでもオーウェンの家に入って甘い生活をおくりたいです。

 でも『こうじゃない。これではダメだ』と、頭の中のどこからか声が沸き上がります。

 周囲から歓迎されない間柄だと、私の望む幸せとは程遠い。
 だから今ではない、と。

 その声の通りです。
 
 ライト家は名門です。
 ポッと出の私が“歓迎されざる孫息子の恋人です“なんて……。
 ライト一門ご主人様から階下の者召使いに至るすべての人に、いじめてくれって言ってるようなものです。


「オーウェン。とっても嬉しいんだけど。と言うか、私もそばにずっといたいんだけど、……ダメ。いけないわ」

「どうして?」

「今のままじゃダメなの。お互い不幸になるわ」


 望まれない間柄での結婚(を前提といた同棲も)は、本人たちだけでなく周りも不幸になるだけですから。

 これではオーウェンの両親と一緒です。
 オーウェンの両親は身分差と不義の関係という、物凄く大きな障害を抱えたまま恋愛をしました。
 恋愛の始まりから幸せにはなれないものでしたが、終焉は想定以上に周辺の人々や未来の子供まで巻き込んだ、大バットエンドであったのです。

 第一、私のような小市民のどこにでもある平穏な生活から、世間の注目の的な波乱万丈になってしまうなんて似合わないじゃないですか。
 劇的人生は『薔薇の約束』のローズ(超美人)こそが相応しいというものです。

 7周目の人生ですが、私は今世も幸せになりたい。
 私の思う完璧な幸せを目指したいのです。

 ですから。
 全ての問題をクリアしてオーウェンと一緒になりたい。
 現ライト家の当主であるオーウェンのお祖父様にも認められて、皆から祝福されて嫁ぎたいのです。


「オーウェン。あなた、今が次期当主としての正念場なんでしょう? だったら優先してやるべきは、私との生活じゃないわ。ライト家頭領として、自他ともに認められることよ」


 オーウェンの青い瞳は凪いだ海のように静かに私を見つめます。


「俺を嫌っている訳じゃないんだね」

「うん。そんなことあるはずないじゃない。今すぐにでもオーウェンと一緒に暮らしたいの。ほんとのところはね。きっととっても素敵な生活でしょうね。でも……」


 私はこのままじゃオーウェンに釣り合わない。

 これまでは同等の立場でした。
 それがこの数ヶ月で、海よりも深い格差ができてしまったのです。
 不可抗力といったところですが、動かしようもない事実です。
 
 オーウェンは限りなく貴族に近い存在、そして私は貴族といえど下の下。
 どう足掻いても、歓迎される関係ではありません。

 ですから、成長し胸を張って堂々と「私がオーウェン・ライトの配偶者ですから!」と隣に立てる人物になりたいのです。


「私はね、自分に満足してないの。侍女としての知識も経験も中途半端だし、ビジネスのことなんて何も知らない。こんなんじゃ、恥ずかしくって顔も上げられないわ。それにオーウェンを尻に敷けないしね。もっと強く、たくさんの技量をつけて、誰にも文句言われないようになる。それから一緒に暮らしたいの」

「……ちょっと待って。ダイナが逞しくなるのはいいとしても、結婚したら尻に敷かれるの? 俺」


 オーウェンが戯けたように言います。
 あれ? 満更でもないって顔をしていませんか?


「だって世間では奥さんに尻に敷かれた方がうまくいくって言ってるわよ?」

「庶民ではそうだね。まぁダイナなら尻に敷かれるのも悪くないけどね」とオーウェンは両手を私の頬に添え、ゆるりと撫でました。

「だけどね、長くは待てないよ。俺、気が長い方じゃないからね。最速でお願いしたいな」

「奇遇ね。私も気が短いの。むしろオーウェンはライト家の掌握にいつまでかかるの? 王宮にはイケメンさんもたくさんいるし、時間がかかると他に行っちゃうかも」

「それは困るな。来年には、必ず」

「じゃあ、私も頑張るわ」

「……約束の証を」


 と艶やかに言うと、オーウェンは私の頬に添えた両手にほんの少し力を込めて、そっと唇を寄せました。
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