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第3章:乱れ飛ぶプロポーズ。
46.挙式は華やかに。そして、再会。
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この国の冬は、“気が滅入る“事で有名です。
その悪名の原因は、陰鬱極まりない天候にあります。
穏やかな気候の地域にありながら、冬だけはどんよりと一日中曇っているか雪が降っている、この二つしかないのです。青空が見れるのは月に一度あるかどうか。
つまり、冬は家に篭り鬱々と過ごす季節、なのです。
が。
今年のレアード侯爵邸は違いました。
重苦しい雰囲気は微塵なく、喜びに溢れていたのです。
なんといっても、早春、ご令嬢イーディス様とカイル・フィッツアラン=ヘリフォード殿下の結婚式が予定されているのですから!
王族との結婚は一大事。
粗相があってはならないので、慎重に準備が進められます。
おかげで侯爵家のご家族も階下の者たちも、朝から晩まで忙しく動き回り、沈み込む暇もありませんでした。
もちろん私もその一人です。
冬の間、他の侍女仲間と手分けし(腰掛けだからとか言ってられないほどに忙しかったのです!)、膨大な作業をこなしていきました。
オーウェンのことも思い出す事すらないほどに忙殺され、早朝から働き倒れ込むようにベッドで眠る日々が続きました。
そして。
ついに結婚式の日がやってきました。
当日は、朝も明けきらぬうちから、花嫁の支度が始まります。
結婚式の直後に行われる披露宴は、イーディス様のお選びになったエンパイアスタイルの可憐なドレスですが、結婚式は家紋の刺繍された伝統的なドレスを使うのが慣例です。
この伝統的なドレスというのが曲者で、着付けに何時間もかかる代物で……。
豪奢な刺繍入りドレスの下には幾重にも重ねたシュミーズとペチコート。細く絞ったコルセット。ストッキングとそれを止めるガーターベルト。
準備するだけでも疲れ切ってしまう量の衣装を身につけるのです。
とても一人では着れませんので、侍女が数人がかりで着付けることになりますが、お役目とはいえ中々の重労働。うんざりしてしまいます。
何時間もかけた着付けが終わると、次はヘアメイク。
全てが整ったイーディス様は最高の花嫁に……いいえ、女神様のようです!
金の髪は春の陽を反射し眩しいほどですし、何よりそのお顔のお美しいこと!
愛し愛されている幸せに満ち溢れています。
結婚の準備の間、イーディス様が宮に上られることはなかったのですが(忙しすぎたのです……)、代わりにカイル殿下が足繁く侯爵邸に通ってこられました。
二日と開けずにご来訪なさるカイル殿下と、幸せそうなイーディス様の仲睦まじい様子を拝見するのが、使用人達の日課となってしまうほどでした。
きっかけは政略的なものですが、これはもう恋愛結婚と言っていいのではないでしょうか。
イーディス様がお幸せになれそうで、本当に良かったです。
これまでのことを思うと、目頭が熱くなります。
私は惚れ惚れとイーディス様を見上げ、
「おめでとうございます。イーディス様。これほどお美しい花嫁はこの世界のどこにもいらっしゃらないでしょう」
「あら、ダイナ。大袈裟ね。……でもありがとう。行ってくるわね」
とイーディス様は微笑まれ、挙式の行われる中庭に向かわれました。
私は深く頭を下げてイーディス様をお見送りし、控え室に戻りました。
残念なことに私は侍女でも一番下のクラスになるので、イーディス様のお世話係としての列席は認められませんでした。
けれど、イーディス様を無事に送り出すことができたのですから、やり遂げた!という気持ちでいっぱいです。
冬中、精魂込めてお仕えした甲斐がありました。
ほっと胸を撫で下ろします。
程なくして、高らかなトランペットの音が響き渡りました。
式が始まる様です。
私は急いで窓辺に駆け寄ります。
この控え室は中庭の後方に位置していて、おかげで式場全体がよく見えます(しかも意外と目立たない!)。
中庭には煌びやかに正装した王族や来賓の方々が勢揃いし、まるで王宮のような華やかさです。
贅を凝らした衣装を身にまとった方々を眺めるだけでも、女性として心が踊るというもの。
私は来賓客を、ドレスが個性的だ、ネックレスが上品だと一人一人チェックしながら、目で追っていきます。
そして最終列。
1番端で思わず目を止めました。
末席に座った若い男性。
立派な身なりをしています。
どこかで見覚えがある、あの後ろ姿は……。
「まさか、そんな……」
鼓動が激しくなります。
私は両手を胸に押し当てました。
見違えるはずはありません。
――オーウェン、あなたなの?
その悪名の原因は、陰鬱極まりない天候にあります。
穏やかな気候の地域にありながら、冬だけはどんよりと一日中曇っているか雪が降っている、この二つしかないのです。青空が見れるのは月に一度あるかどうか。
つまり、冬は家に篭り鬱々と過ごす季節、なのです。
が。
今年のレアード侯爵邸は違いました。
重苦しい雰囲気は微塵なく、喜びに溢れていたのです。
なんといっても、早春、ご令嬢イーディス様とカイル・フィッツアラン=ヘリフォード殿下の結婚式が予定されているのですから!
王族との結婚は一大事。
粗相があってはならないので、慎重に準備が進められます。
おかげで侯爵家のご家族も階下の者たちも、朝から晩まで忙しく動き回り、沈み込む暇もありませんでした。
もちろん私もその一人です。
冬の間、他の侍女仲間と手分けし(腰掛けだからとか言ってられないほどに忙しかったのです!)、膨大な作業をこなしていきました。
オーウェンのことも思い出す事すらないほどに忙殺され、早朝から働き倒れ込むようにベッドで眠る日々が続きました。
そして。
ついに結婚式の日がやってきました。
当日は、朝も明けきらぬうちから、花嫁の支度が始まります。
結婚式の直後に行われる披露宴は、イーディス様のお選びになったエンパイアスタイルの可憐なドレスですが、結婚式は家紋の刺繍された伝統的なドレスを使うのが慣例です。
この伝統的なドレスというのが曲者で、着付けに何時間もかかる代物で……。
豪奢な刺繍入りドレスの下には幾重にも重ねたシュミーズとペチコート。細く絞ったコルセット。ストッキングとそれを止めるガーターベルト。
準備するだけでも疲れ切ってしまう量の衣装を身につけるのです。
とても一人では着れませんので、侍女が数人がかりで着付けることになりますが、お役目とはいえ中々の重労働。うんざりしてしまいます。
何時間もかけた着付けが終わると、次はヘアメイク。
全てが整ったイーディス様は最高の花嫁に……いいえ、女神様のようです!
金の髪は春の陽を反射し眩しいほどですし、何よりそのお顔のお美しいこと!
愛し愛されている幸せに満ち溢れています。
結婚の準備の間、イーディス様が宮に上られることはなかったのですが(忙しすぎたのです……)、代わりにカイル殿下が足繁く侯爵邸に通ってこられました。
二日と開けずにご来訪なさるカイル殿下と、幸せそうなイーディス様の仲睦まじい様子を拝見するのが、使用人達の日課となってしまうほどでした。
きっかけは政略的なものですが、これはもう恋愛結婚と言っていいのではないでしょうか。
イーディス様がお幸せになれそうで、本当に良かったです。
これまでのことを思うと、目頭が熱くなります。
私は惚れ惚れとイーディス様を見上げ、
「おめでとうございます。イーディス様。これほどお美しい花嫁はこの世界のどこにもいらっしゃらないでしょう」
「あら、ダイナ。大袈裟ね。……でもありがとう。行ってくるわね」
とイーディス様は微笑まれ、挙式の行われる中庭に向かわれました。
私は深く頭を下げてイーディス様をお見送りし、控え室に戻りました。
残念なことに私は侍女でも一番下のクラスになるので、イーディス様のお世話係としての列席は認められませんでした。
けれど、イーディス様を無事に送り出すことができたのですから、やり遂げた!という気持ちでいっぱいです。
冬中、精魂込めてお仕えした甲斐がありました。
ほっと胸を撫で下ろします。
程なくして、高らかなトランペットの音が響き渡りました。
式が始まる様です。
私は急いで窓辺に駆け寄ります。
この控え室は中庭の後方に位置していて、おかげで式場全体がよく見えます(しかも意外と目立たない!)。
中庭には煌びやかに正装した王族や来賓の方々が勢揃いし、まるで王宮のような華やかさです。
贅を凝らした衣装を身にまとった方々を眺めるだけでも、女性として心が踊るというもの。
私は来賓客を、ドレスが個性的だ、ネックレスが上品だと一人一人チェックしながら、目で追っていきます。
そして最終列。
1番端で思わず目を止めました。
末席に座った若い男性。
立派な身なりをしています。
どこかで見覚えがある、あの後ろ姿は……。
「まさか、そんな……」
鼓動が激しくなります。
私は両手を胸に押し当てました。
見違えるはずはありません。
――オーウェン、あなたなの?
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