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第2章:アーティガル祭と薔薇の約束。

30.私の知るオーウェンと、メアリーの恋したオーウェンは違う人。

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「あら、ダイナ。オーウェンさんのこと知ってるの?」


 メアリーは嬉しそうな眼差しを向けます。


「うん、まぁ……ね?」

「どんな方かしら。教えてくれない?」

「私も、ごめん。よくわからないわ」


 メアリーに言った通りです。
 私はオーウェンとはいい感じではあるけれど、彼のことは知らないのです。
 そう、本当のことは何も知りません。

 着ていた衣装が上流階級御用達ラファイエットのものだったということは、客として招待されていたということ。
 カイル殿下の随行員としてではなく(昨日は殿下はいらしていなかったのです)、です。

 ただの侍従如きが、上流階級の舞踏会に客として参加できるわけがありません。
 そもそも名門侯爵家の当主の子であるけれど、庶子のために貴族ではないオーウェンが、客としての待遇を受けることなど考えられないのです。

 ということは。
 オーウェンは侍従であること以上に、明らかにできない何かを背負っているということになります。

 一体、オーウェンは何者なのでしょう……。


「私が知っているオーウェン・ライトはカイル殿下の侍従ということだけよ」

「え。あの方、カイル殿下の侍従なの? とてもそうには見えなかったわ。堂々としていたし、どこかの貴族の御子息かと思ったわ。使用人だっただなんて意外」

「私もメアリーの言葉に驚いてるのよ。オーウェンはカイル殿下の侍従だし、私はその人しか知らないから。ゲストとしていたって聞いて、信じられないわ」

「そうなのね。だとしたら別人ってこともあるかもしれないわね。他人の空似ってこともあるというし。オーウェンという名も珍しいものではないわ」


 メアリーは明るく言いました。
 メアリーの中で、別人と認識されたようです。

 確かに使用人が社交界の客になるだなんて、ありえないことです。
 雇用者と被雇用者は交わることはありません。決して越すことのできない高い障壁があるのですから。
 一目惚れした相手が格下の階級だと信じたくもないでしょう。

 私は笑顔を作り、


「そうね、きっとそうだと思うわ。社交界は広いんですもの、似た人だっているわね」
「そのとおりよ。ダイナの知るオーウェンは私の恋した相手とは違うのよ」


 私のオーウェンはカイル殿下の侍従。上流階級の人間ではないのです。
 メアリーの言う相手と別のはず……。

「でも」と、心のどこかから声が上がります。


(切長の碧眼と目元に黒子があるイケメンなんてそういないわ。オーウェンではないの?)


 私は左右に首を振り、違うのだ、と無理矢理思い込むことにしました。
 だって好きになった人が得体の知れない人だったとか、不安でしかないじゃないですか。

 それに恋愛の始まりに感じるネガティブな要素は凶兆の証です。

 最初は針の先ほどの大きさであっても、時とともに次第に大きくなり、常に渦巻き続けてしまうもの。
 恋の直感は大抵は当たります……(経験則からです。何せ7巡目の人生ですからね!)。

 やっと始まったばかりの恋も、このまま嫌な感情だけ残して終わっちゃうのでしょうか。
 そんなことって……。
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