30 / 73
第2章:アーティガル祭と薔薇の約束。
30.私の知るオーウェンと、メアリーの恋したオーウェンは違う人。
しおりを挟む
「あら、ダイナ。オーウェンさんのこと知ってるの?」
メアリーは嬉しそうな眼差しを向けます。
「うん、まぁ……ね?」
「どんな方かしら。教えてくれない?」
「私も、ごめん。よくわからないわ」
メアリーに言った通りです。
私はオーウェンとはいい感じではあるけれど、彼のことは知らないのです。
そう、本当のことは何も知りません。
着ていた衣装が上流階級御用達ラファイエットのものだったということは、客として招待されていたということ。
カイル殿下の随行員としてではなく(昨日は殿下はいらしていなかったのです)、です。
ただの侍従如きが、上流階級の舞踏会に客として参加できるわけがありません。
そもそも名門侯爵家の当主の子であるけれど、庶子のために貴族ではないオーウェンが、客としての待遇を受けることなど考えられないのです。
ということは。
オーウェンは侍従であること以上に、明らかにできない何かを背負っているということになります。
一体、オーウェンは何者なのでしょう……。
「私が知っているオーウェン・ライトはカイル殿下の侍従ということだけよ」
「え。あの方、カイル殿下の侍従なの? とてもそうには見えなかったわ。堂々としていたし、どこかの貴族の御子息かと思ったわ。使用人だっただなんて意外」
「私もメアリーの言葉に驚いてるのよ。オーウェンはカイル殿下の侍従だし、私はその人しか知らないから。ゲストとしていたって聞いて、信じられないわ」
「そうなのね。だとしたら別人ってこともあるかもしれないわね。他人の空似ってこともあるというし。オーウェンという名も珍しいものではないわ」
メアリーは明るく言いました。
メアリーの中で、別人と認識されたようです。
確かに使用人が社交界の客になるだなんて、ありえないことです。
雇用者と被雇用者は交わることはありません。決して越すことのできない高い障壁があるのですから。
一目惚れした相手が格下の階級だと信じたくもないでしょう。
私は笑顔を作り、
「そうね、きっとそうだと思うわ。社交界は広いんですもの、似た人だっているわね」
「そのとおりよ。ダイナの知るオーウェンは私の恋した相手とは違うのよ」
私のオーウェンはカイル殿下の侍従。上流階級の人間ではないのです。
メアリーの言う相手と別のはず……。
「でも」と、心のどこかから声が上がります。
(切長の碧眼と目元に黒子があるイケメンなんてそういないわ。オーウェンではないの?)
私は左右に首を振り、違うのだ、と無理矢理思い込むことにしました。
だって好きになった人が得体の知れない人だったとか、不安でしかないじゃないですか。
それに恋愛の始まりに感じるネガティブな要素は凶兆の証です。
最初は針の先ほどの大きさであっても、時とともに次第に大きくなり、常に渦巻き続けてしまうもの。
恋の直感は大抵は当たります……(経験則からです。何せ7巡目の人生ですからね!)。
やっと始まったばかりの恋も、このまま嫌な感情だけ残して終わっちゃうのでしょうか。
そんなことって……。
メアリーは嬉しそうな眼差しを向けます。
「うん、まぁ……ね?」
「どんな方かしら。教えてくれない?」
「私も、ごめん。よくわからないわ」
メアリーに言った通りです。
私はオーウェンとはいい感じではあるけれど、彼のことは知らないのです。
そう、本当のことは何も知りません。
着ていた衣装が上流階級御用達ラファイエットのものだったということは、客として招待されていたということ。
カイル殿下の随行員としてではなく(昨日は殿下はいらしていなかったのです)、です。
ただの侍従如きが、上流階級の舞踏会に客として参加できるわけがありません。
そもそも名門侯爵家の当主の子であるけれど、庶子のために貴族ではないオーウェンが、客としての待遇を受けることなど考えられないのです。
ということは。
オーウェンは侍従であること以上に、明らかにできない何かを背負っているということになります。
一体、オーウェンは何者なのでしょう……。
「私が知っているオーウェン・ライトはカイル殿下の侍従ということだけよ」
「え。あの方、カイル殿下の侍従なの? とてもそうには見えなかったわ。堂々としていたし、どこかの貴族の御子息かと思ったわ。使用人だっただなんて意外」
「私もメアリーの言葉に驚いてるのよ。オーウェンはカイル殿下の侍従だし、私はその人しか知らないから。ゲストとしていたって聞いて、信じられないわ」
「そうなのね。だとしたら別人ってこともあるかもしれないわね。他人の空似ってこともあるというし。オーウェンという名も珍しいものではないわ」
メアリーは明るく言いました。
メアリーの中で、別人と認識されたようです。
確かに使用人が社交界の客になるだなんて、ありえないことです。
雇用者と被雇用者は交わることはありません。決して越すことのできない高い障壁があるのですから。
一目惚れした相手が格下の階級だと信じたくもないでしょう。
私は笑顔を作り、
「そうね、きっとそうだと思うわ。社交界は広いんですもの、似た人だっているわね」
「そのとおりよ。ダイナの知るオーウェンは私の恋した相手とは違うのよ」
私のオーウェンはカイル殿下の侍従。上流階級の人間ではないのです。
メアリーの言う相手と別のはず……。
「でも」と、心のどこかから声が上がります。
(切長の碧眼と目元に黒子があるイケメンなんてそういないわ。オーウェンではないの?)
私は左右に首を振り、違うのだ、と無理矢理思い込むことにしました。
だって好きになった人が得体の知れない人だったとか、不安でしかないじゃないですか。
それに恋愛の始まりに感じるネガティブな要素は凶兆の証です。
最初は針の先ほどの大きさであっても、時とともに次第に大きくなり、常に渦巻き続けてしまうもの。
恋の直感は大抵は当たります……(経験則からです。何せ7巡目の人生ですからね!)。
やっと始まったばかりの恋も、このまま嫌な感情だけ残して終わっちゃうのでしょうか。
そんなことって……。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる