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第1章:7度目の人生は侍女でした!
14.ゆっくり待ってみる。物事は控えめで。
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無理矢理お願いしても、名目上は従ったとしても気持ちは変わらないものです。
イーディス様が勝利をおさめるには、メリッサ様を圧倒するほどの身も心も魅力的な淑女になればいいだけです。
半分は達成したようなものですが。
何せイーディス様はもう十分、美しい方なのですから。
内の暗黒面はグッと隠して、微塵も感じさせなければ、完璧です。心の歪みなどないも同然です。
常に人に囲まれて過ごしている高位貴族に、最後まで秘密を隠匿できるはずがありませんが、侯爵家の使用人たちは王宮の使用人たちとは違い躾が行き届いています。
易々と外に漏らすことはないでしょう。
例え誰方かの耳に入ったとしても、カイル殿下が他の女性に夢中で嫉妬に狂っておかしかったのだとでも言えばいいだけです。
なんとかして改心をし(まぁ本質を変えることなどできないので装うだけですが)、殿下との関係の改善せねば心は遠いままです。
それでは意味はありません。
恋愛を行うための最初の一歩は……面会の機会を探りつつ、失礼にならない程度の文通からがこの時代でもセオリー。
好きだった方にこっぴどく振られたのを知ってはいても匂わせないように、ごくごく自然な内容を、で始め次第に心を攻めていく作戦です。
イーディス様の手紙をお届けするのは、数多くいる侍女たちの中から私の役目よなりました。
今日も携えて王宮に参内したところです。
最初は面倒で仕方なかったのですが、イーディス様のお役に立てているという自負と、カイル殿下の侍従であるオーウェンに会えると言うおまけ付きで、意外と楽しく過ごせています。
貧乏くさい私ですから、イーディス様の使者であるのに冷遇されたりもしますが、オーウェンが優しいしかっこいいので些事などどうでも良くなってしまいます。
しかも、オーウェンは自分に好意を持ってくれている(らしい)。
楽しくないはずはありません。
それを思えば……。
カイル殿下からゴキブリでも見るように冷たい眼差しで「お前、また来たのか」なぁんて言われることにも余裕で耐えられます。
むしろスルーできちゃいますよね。
「本日もイーディス様からの書簡をお持ち致しました」
私はイーディス様に不利にならないようなるべく愛想のいい笑顔で手紙を差し出します。
カイル殿下は「それ以外でお前が来る理由もないだろう。週に2度も3度も鬱陶しい」と悪態をつきつつ手紙を奪い取りました。
そうですよね。
楽しみにしていますよね。
わかってますよ。
以前のように好き好きオーラのない、ただの日常が綴られた手紙ですものね。気楽に読めるでしょう。
「イーディスは息災か?」
紙面から目を離さず、カイル殿下は訊きます。
「ええ。お元気でいらっしゃいます」
あの午餐会。
結局、カイル殿下とイーディス様は最初に挨拶を交わしたきりでした。
カイル殿下はメリッサ様に詰め寄って振られた後、ヤケクソになり酔い潰れてしまったのです(王族として最低ですね)。
それから一度も面会の機会はないのです。
「イーディスは、なんだ、俺のことを何か言っているか?」
ほらきた。
好き好き言ってた(以前の手紙は酷いものでした。最初の一行目から最後の行まで愛の言葉しかなかったのです……。イーディス様も妙なところで残念なところがあるお方なのです)のに、今は好きのカケラもないのですから、気になりますよね。
今日は『侯爵邸の庭園のバラが綺麗に咲いた』しかお書きになっていらっしゃいませんでしたし。
「さぁ。伺ってはおりません」
「そうか……」
カイル殿下は肩を落としあからさまにがっかりした様子です。
「そういえば」
私は急に思い出したかのように言葉を継ぎます。
「今朝、朝の散歩時に庭の野薔薇を手に取られて、少し涙ぐんでおられました」
「イーディスが……」
カイル殿下は顎に手を当て、部屋の一点を所在無さ気に見つめます。
うつけ者の殿下とはいえ、やはり覚えていらっしゃったようです。
5年前のイーディス様の13回目の誕生日。
侯爵邸で開かれた誕生パーティに招待されていたカイル殿下は、庭木の野薔薇を手折られ、イーディス様にお渡しになられたそうです。
豪華な宝石も贈られていたけれど、カイル殿下自らが選んでくれた一輪の野薔薇が何よりも嬉しかったとのことでした(確かに今での寝室のキャビネットの上に、野薔薇の押し花が額装され飾られてあります)。
殿下は首を振り、
「まぁいい。返事を書こう」
と机に向かわれました。
カイル殿下の心に踏み込む第一歩、心に足跡残したのではないですか?
イーディス様が勝利をおさめるには、メリッサ様を圧倒するほどの身も心も魅力的な淑女になればいいだけです。
半分は達成したようなものですが。
何せイーディス様はもう十分、美しい方なのですから。
内の暗黒面はグッと隠して、微塵も感じさせなければ、完璧です。心の歪みなどないも同然です。
常に人に囲まれて過ごしている高位貴族に、最後まで秘密を隠匿できるはずがありませんが、侯爵家の使用人たちは王宮の使用人たちとは違い躾が行き届いています。
易々と外に漏らすことはないでしょう。
例え誰方かの耳に入ったとしても、カイル殿下が他の女性に夢中で嫉妬に狂っておかしかったのだとでも言えばいいだけです。
なんとかして改心をし(まぁ本質を変えることなどできないので装うだけですが)、殿下との関係の改善せねば心は遠いままです。
それでは意味はありません。
恋愛を行うための最初の一歩は……面会の機会を探りつつ、失礼にならない程度の文通からがこの時代でもセオリー。
好きだった方にこっぴどく振られたのを知ってはいても匂わせないように、ごくごく自然な内容を、で始め次第に心を攻めていく作戦です。
イーディス様の手紙をお届けするのは、数多くいる侍女たちの中から私の役目よなりました。
今日も携えて王宮に参内したところです。
最初は面倒で仕方なかったのですが、イーディス様のお役に立てているという自負と、カイル殿下の侍従であるオーウェンに会えると言うおまけ付きで、意外と楽しく過ごせています。
貧乏くさい私ですから、イーディス様の使者であるのに冷遇されたりもしますが、オーウェンが優しいしかっこいいので些事などどうでも良くなってしまいます。
しかも、オーウェンは自分に好意を持ってくれている(らしい)。
楽しくないはずはありません。
それを思えば……。
カイル殿下からゴキブリでも見るように冷たい眼差しで「お前、また来たのか」なぁんて言われることにも余裕で耐えられます。
むしろスルーできちゃいますよね。
「本日もイーディス様からの書簡をお持ち致しました」
私はイーディス様に不利にならないようなるべく愛想のいい笑顔で手紙を差し出します。
カイル殿下は「それ以外でお前が来る理由もないだろう。週に2度も3度も鬱陶しい」と悪態をつきつつ手紙を奪い取りました。
そうですよね。
楽しみにしていますよね。
わかってますよ。
以前のように好き好きオーラのない、ただの日常が綴られた手紙ですものね。気楽に読めるでしょう。
「イーディスは息災か?」
紙面から目を離さず、カイル殿下は訊きます。
「ええ。お元気でいらっしゃいます」
あの午餐会。
結局、カイル殿下とイーディス様は最初に挨拶を交わしたきりでした。
カイル殿下はメリッサ様に詰め寄って振られた後、ヤケクソになり酔い潰れてしまったのです(王族として最低ですね)。
それから一度も面会の機会はないのです。
「イーディスは、なんだ、俺のことを何か言っているか?」
ほらきた。
好き好き言ってた(以前の手紙は酷いものでした。最初の一行目から最後の行まで愛の言葉しかなかったのです……。イーディス様も妙なところで残念なところがあるお方なのです)のに、今は好きのカケラもないのですから、気になりますよね。
今日は『侯爵邸の庭園のバラが綺麗に咲いた』しかお書きになっていらっしゃいませんでしたし。
「さぁ。伺ってはおりません」
「そうか……」
カイル殿下は肩を落としあからさまにがっかりした様子です。
「そういえば」
私は急に思い出したかのように言葉を継ぎます。
「今朝、朝の散歩時に庭の野薔薇を手に取られて、少し涙ぐんでおられました」
「イーディスが……」
カイル殿下は顎に手を当て、部屋の一点を所在無さ気に見つめます。
うつけ者の殿下とはいえ、やはり覚えていらっしゃったようです。
5年前のイーディス様の13回目の誕生日。
侯爵邸で開かれた誕生パーティに招待されていたカイル殿下は、庭木の野薔薇を手折られ、イーディス様にお渡しになられたそうです。
豪華な宝石も贈られていたけれど、カイル殿下自らが選んでくれた一輪の野薔薇が何よりも嬉しかったとのことでした(確かに今での寝室のキャビネットの上に、野薔薇の押し花が額装され飾られてあります)。
殿下は首を振り、
「まぁいい。返事を書こう」
と机に向かわれました。
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