40 / 102
40話 自業自得でしょ?
しおりを挟む
「……やはりあなたはヨレンテの血縁者でしたか」
お父様は背中を丸めがっくりと項垂れる。
「この私の見た目でお分かりにならないとおっしゃるのならば残念なことですわ。オヴィリオさん」
「そうか」
長い沈黙の後、お父様は眉間を揉みながらため息をついた。
「あなたがセナイダによく似ているのはそういうことか。思い出したぞ。確かにあの頃、義父はエレーラに足しげく通っていらした……」
20年近く前のこと。
ウェステ伯爵とルーゴ伯爵夫人のただならぬ関係が噂されたことがあった。
表向きではエレーラとマンティーノスの親交を深めるとなっていたが……。
「よくあることとはいえ、堅物だった義父には関係ないだろうと思っていたが……。男と女。何が起こるかわからないというものだ……」
「え。フェリシア様、どういうことなのですか??」
ルアーナは身を乗り出した。
「あなたがヨレンテの血縁者なのですか?!」
私は曖昧に微笑み、諾とも否とも言わなかった。
ここまで態度に出しておきながら、応えなければならない義理はない。
「嘘でしょう? そんなことってあり得ない! ヨレンテの血族はお姉様だけだったじゃないですか! だからお姉様を……!」
ゴテゴテと着飾った継母が必死にルアーナの口をおさえた。
「落ち着きなさい。ルアーナ」となだめ、「そうと決まったわけではないわ」と継母は小声で言う。
(そうと決まってるんだけど?)
心の中で突っ込み、
「ルアーナさん。世の中にはあなたの知らないこともあるということです。私の出自に関しては、一部の者には知られていました。ただあなた達には知らされていないだけです。なにせあなたとそちらの……」
私は継母を上から下まで値踏みするかのように眺める。
継母は没落貴族出身だ。
若い頃から経済的には苦労していた反動か、貴族ならば好まない派手すぎる格好を好んだ。
今日もこれでもか!と言うほどに飾り立てている。
(ほんとお母様とはまるで違う)
お母様は宝石が無くとも美しかった。
黒髪と碧眼が誰よりも似合っていた。
「奥様が妾から昇格して、正妻に迎えられる前のことですからね」
嫌味ったらしく当て擦る。
継母は絶句した。
前妻に似た女に罵られたのだ。さぞかし衝撃だろう。
いまにも崩れそうな継母を支えながら、ルアーナは可憐な顔を歪ませた。
「お言葉ですけど、セラノ様。そんな言い方ないじゃないですか! 私とお母様のことご存知ないくせに!」
「あら。私が知らないとでも?」
「ずっとエレーラにいたんでしょ。私と同じ庶子じゃあり……」
「もう止せ! ルアーナ!」
お父様は異母妹を諌める。
「セラノ様。あなたもです。我が家の恥を客人の前で暴露なさらなくてもよろしかったのに。我が家の催しが台無しになったではないですか」
力を入れていたハウスパーティなのに、客人の前で無様な姿を露呈してしまったのだ。
人の口に戸を立てることはできない。
どんなに口外無用と頼んでも、パーティが終わった翌週にはカディスの全ての貴族が知ることになるだろう。
ウェステ伯爵代理はマンティーノスを簒奪する気だと、誰もが見ないふりをしていた事実が白日の下に晒されてしまうのだ。
お父様にとっては痛恨である。
(でも野心があるのは真実でしょう?)
手にする権利もないマンティーノスという宝に、欲に目が眩んだのだ。
(実娘を廃してでも望んだのに)
「悪事はいつかはバレてしまうものです。オヴィリオさんは私が悪いとおっしゃるの?」
「ええ、そうです。あなたがヨレンテに縁のあるお方だとしても、こんな仕打ちはないでしょう。このハウスパーティに我が家は大枚を投じてきた。というのに最初の晩餐でめちゃくちゃにするとは、情けも何もないではありませんか」
ハウスパーティはかなり大掛かりな出費になる。
失敗できない催しだ。
(だけど、人殺しを配慮しろと?)
訳がわからない。
「自業自得……という言葉をご存知かしら」
「セラノ様!!」
「オヴィリオさん。私の婚約者が何かしたのかな?」
この涼やかな声は……。
ほんの数日離れていただけなのに、こんなに心弾むのは何故だろう。
「レオン……」
「久しぶりだね、フィリィ。会いたかった」
従者をつれ旅装のままの婚約者がそこに居た。
お父様は背中を丸めがっくりと項垂れる。
「この私の見た目でお分かりにならないとおっしゃるのならば残念なことですわ。オヴィリオさん」
「そうか」
長い沈黙の後、お父様は眉間を揉みながらため息をついた。
「あなたがセナイダによく似ているのはそういうことか。思い出したぞ。確かにあの頃、義父はエレーラに足しげく通っていらした……」
20年近く前のこと。
ウェステ伯爵とルーゴ伯爵夫人のただならぬ関係が噂されたことがあった。
表向きではエレーラとマンティーノスの親交を深めるとなっていたが……。
「よくあることとはいえ、堅物だった義父には関係ないだろうと思っていたが……。男と女。何が起こるかわからないというものだ……」
「え。フェリシア様、どういうことなのですか??」
ルアーナは身を乗り出した。
「あなたがヨレンテの血縁者なのですか?!」
私は曖昧に微笑み、諾とも否とも言わなかった。
ここまで態度に出しておきながら、応えなければならない義理はない。
「嘘でしょう? そんなことってあり得ない! ヨレンテの血族はお姉様だけだったじゃないですか! だからお姉様を……!」
ゴテゴテと着飾った継母が必死にルアーナの口をおさえた。
「落ち着きなさい。ルアーナ」となだめ、「そうと決まったわけではないわ」と継母は小声で言う。
(そうと決まってるんだけど?)
心の中で突っ込み、
「ルアーナさん。世の中にはあなたの知らないこともあるということです。私の出自に関しては、一部の者には知られていました。ただあなた達には知らされていないだけです。なにせあなたとそちらの……」
私は継母を上から下まで値踏みするかのように眺める。
継母は没落貴族出身だ。
若い頃から経済的には苦労していた反動か、貴族ならば好まない派手すぎる格好を好んだ。
今日もこれでもか!と言うほどに飾り立てている。
(ほんとお母様とはまるで違う)
お母様は宝石が無くとも美しかった。
黒髪と碧眼が誰よりも似合っていた。
「奥様が妾から昇格して、正妻に迎えられる前のことですからね」
嫌味ったらしく当て擦る。
継母は絶句した。
前妻に似た女に罵られたのだ。さぞかし衝撃だろう。
いまにも崩れそうな継母を支えながら、ルアーナは可憐な顔を歪ませた。
「お言葉ですけど、セラノ様。そんな言い方ないじゃないですか! 私とお母様のことご存知ないくせに!」
「あら。私が知らないとでも?」
「ずっとエレーラにいたんでしょ。私と同じ庶子じゃあり……」
「もう止せ! ルアーナ!」
お父様は異母妹を諌める。
「セラノ様。あなたもです。我が家の恥を客人の前で暴露なさらなくてもよろしかったのに。我が家の催しが台無しになったではないですか」
力を入れていたハウスパーティなのに、客人の前で無様な姿を露呈してしまったのだ。
人の口に戸を立てることはできない。
どんなに口外無用と頼んでも、パーティが終わった翌週にはカディスの全ての貴族が知ることになるだろう。
ウェステ伯爵代理はマンティーノスを簒奪する気だと、誰もが見ないふりをしていた事実が白日の下に晒されてしまうのだ。
お父様にとっては痛恨である。
(でも野心があるのは真実でしょう?)
手にする権利もないマンティーノスという宝に、欲に目が眩んだのだ。
(実娘を廃してでも望んだのに)
「悪事はいつかはバレてしまうものです。オヴィリオさんは私が悪いとおっしゃるの?」
「ええ、そうです。あなたがヨレンテに縁のあるお方だとしても、こんな仕打ちはないでしょう。このハウスパーティに我が家は大枚を投じてきた。というのに最初の晩餐でめちゃくちゃにするとは、情けも何もないではありませんか」
ハウスパーティはかなり大掛かりな出費になる。
失敗できない催しだ。
(だけど、人殺しを配慮しろと?)
訳がわからない。
「自業自得……という言葉をご存知かしら」
「セラノ様!!」
「オヴィリオさん。私の婚約者が何かしたのかな?」
この涼やかな声は……。
ほんの数日離れていただけなのに、こんなに心弾むのは何故だろう。
「レオン……」
「久しぶりだね、フィリィ。会いたかった」
従者をつれ旅装のままの婚約者がそこに居た。
0
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした
奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。
そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。
その時、一人の騎士を助けたリシーラ。
妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。
問題の公子がその騎士だったのだ。
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
モブはモブらしく生きたいのですっ!
このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す
そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る!
「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」
死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう!
そんなモブライフをするはずが…?
「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」
ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします!
感想めっちゃ募集中です!
他の作品も是非見てね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる