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25話 与えられた猶予は一年間。
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私の願いを聞き入れカミッラ様は使用人そしてレオンにも退席を命じた。
レオンは私を一人残していくことに不満顔をしながらも「頑張れ」とそっと私の肩に触れ東屋を離れた。
(レオンはチャンスをくれた。感謝しかない)
この場に彼がいなくてもきっと大丈夫だ。
結果を導き出してみせる。
「フェリシア・セラノ。これでいいでしょう」
全員が姿は確認できるが声の届かない場所へ移動したのを見届け、カミッラ様は私に発言を許した。
私は唾を飲み込む。
「セナイダ様の娘、ウェステ女伯爵エリアナ・ヨレンテ様の死は病死と発表されましたが、真実ではありません」
カミッラ様の白ばんだ両眉が大きく動く。
「エリアナ様は殺されました。毒殺されたのです」
「……なぜそれをあなたが知っているの?」
カミッラ様は私を疑っているようだ。
当然だろう。
殺人に関しては加害者のみ真相を知っているというのが定説だ。
(流石にエリアナは私自身。自分に起こった事だから知っている……ということは口に出せないし)
もちろんあの御方の思し召しで生まれ変わった(フェリシアに憑依した?)とも言えない。
生まれ変わりという概念がないのに軽い気持ちで喋りでもしたら、大ごとになるのは分かりきっている。
出まかせだと拒否されたらそれで終わりだ。
「申し訳ございません。情報の出先をお教えすることはできかねます。ただ真実であることは確かです。私を信じていただくほかありません」
「……セナイダ生写しのあなたが言うと、どんなに現実味がなくとも事実に思えてしまうわ。何て忌々しいことかしらね」
カミッラ様は苛ただしげに指でテーブルを叩く。
「でも腑に落ちたわ。エリアナは十代、持病もなく健康な娘だった。死ぬにはまだ早い。おかしいと思ってたの。……そう、きっとセナイダの婿が企んだのね」
(カミッラ様は犯人に確信を持っているみたい)
まぁ大抵は真っ先に身内を疑うものだ。
けれど「昔から気に食わなかったのよ。あの卑しい異国人」とカミッラ様は完全に父の仕業だと決めつけている。
「セナイダは自業自得といった面もあるけれど……」
私の母セナイダはたった一人の後継だと甘やかされて育てられたため、性格に欠陥があった。
特に男性に対する見る目は致命的になかったのだという。
親切にされるとすぐに好きになり、恋に落ちてしまう。
父との結婚もそうだったらしい。
隣国から留学してきていた私の父に一目惚れし、周囲から大反対があったにもかかわらず強引に結婚してしまった。
「結婚当初から入婿なのに妾を囲うような男と結婚したのが、そもそも間違いだったのよ。今となっては詮ないことね」
カミッラ様は容赦なくこき下ろした。
両親を貶められて、私は苦笑いするほか無かった。
けれど。
意外なことに自分の身内を他人に悪く言われているのに何の感情も湧いて来ない。
(子を殺めたんだもの)
大罪人だ。
婚約者ホアキン、継母、そしてルアーナ。
結託して私の全てを奪い去った。
(絶対に許せない)
「殿下。私は不正を正したいのです。そのために殿下のお力添えが必要です」
私は息をつぐ。
「私は他家の人間ではありますが、ヨレンテの血を継ぐこの世界で唯一の存在です。マンティーノスはカディスを支える穀物庫。命の綱を異国人に握られることなど……」
カミッラ様は扇子を私に向け、
「ヨレンテの地位と財産を正式に受け継ぐには『ヨレンテの盟約』を果たさないとならないでしょう? 娘婿にはその術はない。しばらくは伯爵位は空席のままね」
その通り。
盟約はセバスティアン・ヨレンテの血族でないと果たすことはできない。
当主だけに伝えられる『極秘』であったはずなのだが……。
「何故、殿下は盟約のことをご存知なのですか??」
「親友とは人に打ち明けられないことでも密かに伝え合うものよ」
カミッラ様は慣れた手つきで自ら茶を注ぎ、茶碗を私の前に置いた。
香ばしい香りとともに湯気がたゆたいながら昇っていく。
「下衆な男にカディスの至宝を奪われるくらいならば、庶子とはいえあなたの方がまだマシ。いいわ。一年。一年は支えてあげましょう。その間にマンティーノスを手に入れてみせなさい」
「感謝いたします。殿下」
「いいこと? 私は決してあなたを認めたわけではないわ。肝に銘じておきなさい。それと」
カミッラ様は離れた所からこちらを伺う侍女に目配せし、私に背を向けた。
「二度とその格好を私の前でしないでちょうだい。不快だわ」
「……かしこまりました」
似てはいても別物。
カミッラ様の幸せな思い出を汚してしまったのかもしれない。
(でも後見はいただけたわ。お許しくださいね、お母様。そして王太后殿下。お詫びは全てが終わった後にします)
私は心に誓い深々と頭を下げた。
レオンは私を一人残していくことに不満顔をしながらも「頑張れ」とそっと私の肩に触れ東屋を離れた。
(レオンはチャンスをくれた。感謝しかない)
この場に彼がいなくてもきっと大丈夫だ。
結果を導き出してみせる。
「フェリシア・セラノ。これでいいでしょう」
全員が姿は確認できるが声の届かない場所へ移動したのを見届け、カミッラ様は私に発言を許した。
私は唾を飲み込む。
「セナイダ様の娘、ウェステ女伯爵エリアナ・ヨレンテ様の死は病死と発表されましたが、真実ではありません」
カミッラ様の白ばんだ両眉が大きく動く。
「エリアナ様は殺されました。毒殺されたのです」
「……なぜそれをあなたが知っているの?」
カミッラ様は私を疑っているようだ。
当然だろう。
殺人に関しては加害者のみ真相を知っているというのが定説だ。
(流石にエリアナは私自身。自分に起こった事だから知っている……ということは口に出せないし)
もちろんあの御方の思し召しで生まれ変わった(フェリシアに憑依した?)とも言えない。
生まれ変わりという概念がないのに軽い気持ちで喋りでもしたら、大ごとになるのは分かりきっている。
出まかせだと拒否されたらそれで終わりだ。
「申し訳ございません。情報の出先をお教えすることはできかねます。ただ真実であることは確かです。私を信じていただくほかありません」
「……セナイダ生写しのあなたが言うと、どんなに現実味がなくとも事実に思えてしまうわ。何て忌々しいことかしらね」
カミッラ様は苛ただしげに指でテーブルを叩く。
「でも腑に落ちたわ。エリアナは十代、持病もなく健康な娘だった。死ぬにはまだ早い。おかしいと思ってたの。……そう、きっとセナイダの婿が企んだのね」
(カミッラ様は犯人に確信を持っているみたい)
まぁ大抵は真っ先に身内を疑うものだ。
けれど「昔から気に食わなかったのよ。あの卑しい異国人」とカミッラ様は完全に父の仕業だと決めつけている。
「セナイダは自業自得といった面もあるけれど……」
私の母セナイダはたった一人の後継だと甘やかされて育てられたため、性格に欠陥があった。
特に男性に対する見る目は致命的になかったのだという。
親切にされるとすぐに好きになり、恋に落ちてしまう。
父との結婚もそうだったらしい。
隣国から留学してきていた私の父に一目惚れし、周囲から大反対があったにもかかわらず強引に結婚してしまった。
「結婚当初から入婿なのに妾を囲うような男と結婚したのが、そもそも間違いだったのよ。今となっては詮ないことね」
カミッラ様は容赦なくこき下ろした。
両親を貶められて、私は苦笑いするほか無かった。
けれど。
意外なことに自分の身内を他人に悪く言われているのに何の感情も湧いて来ない。
(子を殺めたんだもの)
大罪人だ。
婚約者ホアキン、継母、そしてルアーナ。
結託して私の全てを奪い去った。
(絶対に許せない)
「殿下。私は不正を正したいのです。そのために殿下のお力添えが必要です」
私は息をつぐ。
「私は他家の人間ではありますが、ヨレンテの血を継ぐこの世界で唯一の存在です。マンティーノスはカディスを支える穀物庫。命の綱を異国人に握られることなど……」
カミッラ様は扇子を私に向け、
「ヨレンテの地位と財産を正式に受け継ぐには『ヨレンテの盟約』を果たさないとならないでしょう? 娘婿にはその術はない。しばらくは伯爵位は空席のままね」
その通り。
盟約はセバスティアン・ヨレンテの血族でないと果たすことはできない。
当主だけに伝えられる『極秘』であったはずなのだが……。
「何故、殿下は盟約のことをご存知なのですか??」
「親友とは人に打ち明けられないことでも密かに伝え合うものよ」
カミッラ様は慣れた手つきで自ら茶を注ぎ、茶碗を私の前に置いた。
香ばしい香りとともに湯気がたゆたいながら昇っていく。
「下衆な男にカディスの至宝を奪われるくらいならば、庶子とはいえあなたの方がまだマシ。いいわ。一年。一年は支えてあげましょう。その間にマンティーノスを手に入れてみせなさい」
「感謝いたします。殿下」
「いいこと? 私は決してあなたを認めたわけではないわ。肝に銘じておきなさい。それと」
カミッラ様は離れた所からこちらを伺う侍女に目配せし、私に背を向けた。
「二度とその格好を私の前でしないでちょうだい。不快だわ」
「……かしこまりました」
似てはいても別物。
カミッラ様の幸せな思い出を汚してしまったのかもしれない。
(でも後見はいただけたわ。お許しくださいね、お母様。そして王太后殿下。お詫びは全てが終わった後にします)
私は心に誓い深々と頭を下げた。
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