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第1話 ボーイ・ミーツ・ボーイ
救出劇
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適度な木に苦労しつつ登ると、俺は家から持ってきていた望遠鏡を覗き込んだ。
開けた場所にテントが5、6個建っている。
武器を手にブラつく男、昼間から酒を飲む男……外には10人ほどの人影がある。
どいつもこいつも、えらく上機嫌な様子だ。荷だけでなく、高く売れそうな少年を手に入れたからかもしれない。
さて、件の彼はどこに捕らえられているのか。
俺は覗き込んだ望遠鏡をゆっくりと移動し、小さなテント前に、男がふたり立っているのを見つけた。
見張りだろう。ということは、強奪した荷はあそこにあるに違いない。
荷扱いされているならば、少年もそこにいる。
俺は音を立てないように、そのテントの裏に回った。
小さくテントに切れ目を入れて、中に入り込む。子供の背丈だからこそ出来る芸当だ。
木箱の影に隠れてテント内の様子を窺えば、強奪したのだろう荷と、鉄格子があった。
その中に少年がいた。加えて、口を塞がれ両手足を縛られた中年の男も。たぶん荷馬車の御者だろう。
慎重に近付けば、すぐに少年が気づいてこちらを振り返った。
「あなたは……」
「レオンだ。大丈夫か?」
俺を見て驚いた様子の少年に声を掛ける。
彼は小さく頷いた。
「僕はアウロラと言います」
互いに場違いな自己紹介を交わす。
俺は、少年――アウロラを見て、胸を撫で下ろした。
慰み者にされた、ということもなさそうだ。
「ん、んんー……っ! んっ!」
御者の男が助けを求めて身体を揺らす。
俺は唇に人差し指を当てて彼を黙らせると、鉄格子に向き直った。
頑丈そうな錠が付いている。
「……参ったな。鍵開けは専門外なんだよ」
鍵なんて握り潰してきたから、開けるという発想がなかった。
「ちょっと待ってろ。鍵、探してくるから」
ふたりの見張りのうち、どちらかが持っているだろうか。それとも、全く別の男か。
かなり難易度が高いミッションだ。
「待って下さい。鍵はいりません」
と、抑揚の乏しい声が俺の思考を遮った。
「いらない? なんでだよ」
首を傾げると、アウロラは自身の腰の辺りを軽く叩いて言った。
「むしろ杖の方が助かります」
「ああ、なるほど」
捕まった時に、取り上げられたのだろう杖を取り戻せば、自分で何とか出来る、ということのようだ。
「んじゃ、杖探して――」
言葉の途中で、ポンッと空気が破裂する小さな音がした。
「おこまりですな」
「まかせてちょうだい」
そう言って、アウロラの隣で自信たっぷりに胸を叩いたのは、下級妖精たちだ。
「彼らが杖の場所を知っています」
アウロラが言うと、妖精が再び消える。次いで檻の外に現れた。
「しらないことはないのです」
「つえはこっち。ほうせきは、あっち。たべものはそっち」
妖精たちは散歩をするようなノリで、破いたテントの隙間に向かって飛んでいく。
「オーケー。付いてくよ」
俺は急いで彼らの後を追った。
開けた場所にテントが5、6個建っている。
武器を手にブラつく男、昼間から酒を飲む男……外には10人ほどの人影がある。
どいつもこいつも、えらく上機嫌な様子だ。荷だけでなく、高く売れそうな少年を手に入れたからかもしれない。
さて、件の彼はどこに捕らえられているのか。
俺は覗き込んだ望遠鏡をゆっくりと移動し、小さなテント前に、男がふたり立っているのを見つけた。
見張りだろう。ということは、強奪した荷はあそこにあるに違いない。
荷扱いされているならば、少年もそこにいる。
俺は音を立てないように、そのテントの裏に回った。
小さくテントに切れ目を入れて、中に入り込む。子供の背丈だからこそ出来る芸当だ。
木箱の影に隠れてテント内の様子を窺えば、強奪したのだろう荷と、鉄格子があった。
その中に少年がいた。加えて、口を塞がれ両手足を縛られた中年の男も。たぶん荷馬車の御者だろう。
慎重に近付けば、すぐに少年が気づいてこちらを振り返った。
「あなたは……」
「レオンだ。大丈夫か?」
俺を見て驚いた様子の少年に声を掛ける。
彼は小さく頷いた。
「僕はアウロラと言います」
互いに場違いな自己紹介を交わす。
俺は、少年――アウロラを見て、胸を撫で下ろした。
慰み者にされた、ということもなさそうだ。
「ん、んんー……っ! んっ!」
御者の男が助けを求めて身体を揺らす。
俺は唇に人差し指を当てて彼を黙らせると、鉄格子に向き直った。
頑丈そうな錠が付いている。
「……参ったな。鍵開けは専門外なんだよ」
鍵なんて握り潰してきたから、開けるという発想がなかった。
「ちょっと待ってろ。鍵、探してくるから」
ふたりの見張りのうち、どちらかが持っているだろうか。それとも、全く別の男か。
かなり難易度が高いミッションだ。
「待って下さい。鍵はいりません」
と、抑揚の乏しい声が俺の思考を遮った。
「いらない? なんでだよ」
首を傾げると、アウロラは自身の腰の辺りを軽く叩いて言った。
「むしろ杖の方が助かります」
「ああ、なるほど」
捕まった時に、取り上げられたのだろう杖を取り戻せば、自分で何とか出来る、ということのようだ。
「んじゃ、杖探して――」
言葉の途中で、ポンッと空気が破裂する小さな音がした。
「おこまりですな」
「まかせてちょうだい」
そう言って、アウロラの隣で自信たっぷりに胸を叩いたのは、下級妖精たちだ。
「彼らが杖の場所を知っています」
アウロラが言うと、妖精が再び消える。次いで檻の外に現れた。
「しらないことはないのです」
「つえはこっち。ほうせきは、あっち。たべものはそっち」
妖精たちは散歩をするようなノリで、破いたテントの隙間に向かって飛んでいく。
「オーケー。付いてくよ」
俺は急いで彼らの後を追った。
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