ガチムチ勇者な俺ですが、転生してショタになったので今度こそ付き合ってください!

Tsubaki aquo

文字の大きさ
上 下
5 / 21
第1話 ボーイ・ミーツ・ボーイ

始まりの街

しおりを挟む
 目指すは、屋敷から一番近い大きな街――ココラド。

 幸い初めての騎乗に手こずることはなかったが、長時間の移動に身体が堪えられなかった。
 疲れ切った身体では無茶もできず、小まめに休憩をとりつつ進めば、1週間もかかってしまった。前世ならば馬を乗り換え1日で辿り付く距離にも関わらず、だ。

「……このペースじゃ、まずい」

 馬を預け、ココラドのとある食事処で地図を見下ろしていた俺は、頭を抱えて呻いた。

 この街は大陸を三分する大国のひとつ、ギルド国家・フォルタシュタルクの北西に位置する。
 西側一帯は魔王領と近接しており、北海を挟んだ向こう側にはドラゴンが支配するシェンメル、南側には商業都市同盟ハイト・リベレート、両国に挟まれ大陸の最東には貴族国家・アリストフォンがある。

 前世の記憶の地図と照合するに、妖精の森は大陸三国が近接する禁域に位置しているようなのだ。つまり、今の速度で旅を続けていくと、

「少なく見積もっても半年はかかる……」

 長い溜息の後に、俺は軽食の残りを口に詰め込んだ。

 とにかく、今世の身体は体力がなさ過ぎる。
 一日数時間、馬に揺られただけで、太股と腹筋がちぎれたように痛み、食事をするのも億劫だ。
 父親が用意してくれたお金があったからこそ宿を取りつつ進んで来られたが、このままでは路銀も相当かかる。

 旅の速度を上げるだけでなく、金策も考える必要があるだろう。

 親に手紙を飛ばせば金の工面はして貰えるだろうが、愛する人と出会うための旅費を親に出して貰うなんて、あまりにも格好悪すぎるし……

 俺は食事処に張り出された掲示板を見やった。
 ここ数年、魔物の動きが活発になりつつあることから、討伐の依頼ならそこそこありそうだ。しかし今の俺では最弱の魔物すら倒すことはできないだろうし、そもそも依頼を受けるにはギルドの登録が必要だ。

 俺は口の周りについた油を指先で拭ってから、席を立った。

「ごちそうさま」

 店を出ると、色鮮やかな街並みが目に飛び込んでくる。

 前世の頃と比べるべくもなく、今の時代は豊かだ。
 まず街も人も小綺麗だし、トイレや風呂などの水回りは驚くほど便利になった。
 食事も目を見張るばかりに美味いものばかり。
 この街の治安がとりわけいいのかもしれないが……表通りで殴り合う血気盛んな若者もいない。
 貧富の差はあっても、これは前世も同じだ。むしろ浮浪者に石を投げる者がいないだけ、倫理観が成熟しているように思う。
 身を守る術もないこんな子供でも1週間、旅をすることができたのだ。
 整備の進んだ街道に、宿場町……前世の時代なら、途中で野犬や魔物に喰い殺されていたか、ならず者に嬲り殺されて身ぐるみを剥がされていただろう。

 宿屋を探しつつ、俺は興味津々で辺りを見渡しつつ歩いていた。
 今世では屋敷から出たことがなかったことも相まって、前世との違いが目に目映く映る。

「……お。イーシャに似合いそうだ」

 大通りに並ぶとある露店の前で足を止め、髪飾りを手に取る。
 露店の品物にも関わらず、前世では貴族たちが身に付けたような繊細なものばかりなのは驚きだ。

「でも、旅が始まってすぐに荷物を増やすのもなぁ。いや、でも、こういうのは一期一会って言うし……」

 髪飾りをプレゼントした時のことを想像すると、自然と口元が緩む。
 彼は戸惑うだろうし、不要だと言うだろうが、何だかんだ言って身に付けてくれるのだ。

「おばちゃん。これ、ください」

 浮き足立つ気持ちで、露店の老女に声をかける。

 ……この時の俺は、これから身に起こるおぞましい出来事なんて想像だにしていなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騎士団長を咥えたドラゴンを団長の息子は追いかける!!

ミクリ21
BL
騎士団長がドラゴンに咥えられて、連れ拐われた! そして、団長の息子がそれを追いかけたーーー!! 「父上返せーーー!!」

匂いがいい俺の日常

とうふ
BL
高校1年になった俺の悩みは 匂いがいいこと。 今日も兄弟、同級生、先生etcに匂いを嗅がれて引っ付かれてしまう。やめろ。嗅ぐな。離れろ。

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……

おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?! ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。 凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

処理中です...