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第1話 ボーイ・ミーツ・ボーイ
転生者レオン・ハート
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――なんつー業の深い人生だ。
流行病で倒れ高熱にうなされながら、俺は前世の記憶を思い出していた。
それは、貿易商の御曹司として何不自由なく生活している今世とは、だいぶ異なった波瀾万丈の人生だ。
危険な冒険の数々、魔王との戦い、そして一世一代をかけた恋……
その恋した相手のために、俺は今、ここにいる。
思い出したからにはおちおち眠ってなどいられないと、俺は熱が下がるとすぐ怠い身体に鞭を打ち、瞼を持ち上げた。
なにぶん今世は既に始まって十数年も経ってしまっている。
急がねば、また転生し直さなければならない。
「レオン……!? ああ、良かった! 目が覚めたのね!」
すぐ近くでした声の方を見やれば、ベッドにつきっきりだったのだろう母親が目を潤ませていた。
「母さん……心配かけてごめん」
「いいのよ、レオン。それより何か食べられる? すぐに用意させるわ」
「じゃあ、何か精力の付くものを。
それから着替えの用意をお願いしてもいい?
シャツが汗で貼り付いて気持ちが悪いんだ」
「え、ええ、わかったわ……」
俺の様子を訝しげにしつつ、母親がメイドに声を飛ばす。すると、俄に屋敷の中が慌ただしくなった。
俺は着替えを手伝おうとする母を部屋から追い出すと、ゆっくりと姿見に歩み寄る。
「俺の名前は、レオン・ハート」
鏡の中の茶色の髪の少年を見つめながら、呟く。
「……先月の誕生日で13歳になった」
おかしな気分だ。
今世の記憶は確かにあるというのに、前世の記憶の方がずっと印象的なせいか、なんだか別の身体に入り込んだような感覚だった。
短い髪はサラサラで、光を受けて天使の輪のように照り輝いている。
大きな二重の目、唇はぷくりと厚めで、顔かたちは愛らしいという言葉がピッタリだ。
袖をたくし上げれば、驚くほど細く、生っ白い腕が露わになった。
それもそのはず、レオンは一般的な男児に比べて体力がなく、屋敷の中からほとんど出たことがない。
こんな腕では、大剣を持ち上げるなんて不可能だろう。
3歳の頃から父親の冒険に付き合い、粗野だとか、野性味溢れるだとか言われていた前世と対極だ。100近くあった特殊スキルも今は全て失ってしまっている。
なかなか心細いもんだな。
俺は袖を元に戻しながらしみじみ思う。
体力も腕力もあり余り困ったものだが、贅沢な悩みだった。
「ま、気にしたって仕方がないか」
気を取り直し、さっそくイーシャに会う旅へと出るべく、父と母の説得に取り掛かった。
もちろん前世の記憶については一切触れず、「父の仕事を手伝うために、世界を見て回りたい」――そんなありふれた理由を熱く語った。
貿易商である父は男のロマンとして理解してくれたが、心配性の母親はダメだと言って聞かなかった。
「このままベッドで過ごしてただ年老いていくのは嫌なんだよ。頑張れるなら、頑張ってみたい。死にかけてわかったんだ」
ちょっと芝居がかった様子で、こう訴えた。
母親はショックを受けたようだが、流行病にかかった時に思うことがあったのだろう、はらはらと涙を流しながら遂には理解を示してくれた。
……良心が痛んだが、背に腹は代えられない。
俺はイーシャと出会い、彼と恋をするために生まれたのだ。
そういうわけで数日後、俺は旅へ出た。
流行病で倒れ高熱にうなされながら、俺は前世の記憶を思い出していた。
それは、貿易商の御曹司として何不自由なく生活している今世とは、だいぶ異なった波瀾万丈の人生だ。
危険な冒険の数々、魔王との戦い、そして一世一代をかけた恋……
その恋した相手のために、俺は今、ここにいる。
思い出したからにはおちおち眠ってなどいられないと、俺は熱が下がるとすぐ怠い身体に鞭を打ち、瞼を持ち上げた。
なにぶん今世は既に始まって十数年も経ってしまっている。
急がねば、また転生し直さなければならない。
「レオン……!? ああ、良かった! 目が覚めたのね!」
すぐ近くでした声の方を見やれば、ベッドにつきっきりだったのだろう母親が目を潤ませていた。
「母さん……心配かけてごめん」
「いいのよ、レオン。それより何か食べられる? すぐに用意させるわ」
「じゃあ、何か精力の付くものを。
それから着替えの用意をお願いしてもいい?
シャツが汗で貼り付いて気持ちが悪いんだ」
「え、ええ、わかったわ……」
俺の様子を訝しげにしつつ、母親がメイドに声を飛ばす。すると、俄に屋敷の中が慌ただしくなった。
俺は着替えを手伝おうとする母を部屋から追い出すと、ゆっくりと姿見に歩み寄る。
「俺の名前は、レオン・ハート」
鏡の中の茶色の髪の少年を見つめながら、呟く。
「……先月の誕生日で13歳になった」
おかしな気分だ。
今世の記憶は確かにあるというのに、前世の記憶の方がずっと印象的なせいか、なんだか別の身体に入り込んだような感覚だった。
短い髪はサラサラで、光を受けて天使の輪のように照り輝いている。
大きな二重の目、唇はぷくりと厚めで、顔かたちは愛らしいという言葉がピッタリだ。
袖をたくし上げれば、驚くほど細く、生っ白い腕が露わになった。
それもそのはず、レオンは一般的な男児に比べて体力がなく、屋敷の中からほとんど出たことがない。
こんな腕では、大剣を持ち上げるなんて不可能だろう。
3歳の頃から父親の冒険に付き合い、粗野だとか、野性味溢れるだとか言われていた前世と対極だ。100近くあった特殊スキルも今は全て失ってしまっている。
なかなか心細いもんだな。
俺は袖を元に戻しながらしみじみ思う。
体力も腕力もあり余り困ったものだが、贅沢な悩みだった。
「ま、気にしたって仕方がないか」
気を取り直し、さっそくイーシャに会う旅へと出るべく、父と母の説得に取り掛かった。
もちろん前世の記憶については一切触れず、「父の仕事を手伝うために、世界を見て回りたい」――そんなありふれた理由を熱く語った。
貿易商である父は男のロマンとして理解してくれたが、心配性の母親はダメだと言って聞かなかった。
「このままベッドで過ごしてただ年老いていくのは嫌なんだよ。頑張れるなら、頑張ってみたい。死にかけてわかったんだ」
ちょっと芝居がかった様子で、こう訴えた。
母親はショックを受けたようだが、流行病にかかった時に思うことがあったのだろう、はらはらと涙を流しながら遂には理解を示してくれた。
……良心が痛んだが、背に腹は代えられない。
俺はイーシャと出会い、彼と恋をするために生まれたのだ。
そういうわけで数日後、俺は旅へ出た。
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