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日常6

妄想過激と誤算スパイス(3)

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「これ、って」

 僕は皺だらけのチラシを見下ろして、ゴクリと喉を鳴らす。

「ちんちんって、身体の中に埋没してるんだって。
 だから、ちんちんの靭帯を切って、グイッと伸ばすと、大きくなるって……」

「痛い痛い痛い」

 聞くだけで痛い。思わず股間を押さえてしまう。
 ローテーブルの向こうを見れば、ソウさんも僕と同じ体勢でガタガタ震えていた。

「ソウさん、大丈夫ですよ。手術とか全く不要ですから!」

「だが、俺は類に捨てられたくない」

「一緒に頑張ろうね、ソウちゃん!」

 ニャン太さんが、拳を振り上げ気合を入れる。
 ソウさんの顔からザッと血の気が引いた。

「早まらないでください」

 僕はニャン太さんの手をそっと下ろした。
 これ以上、この話を続けたらソウさんが倒れてしまいそうだ。

「落ち着いて最近のふたりのことを思い出してみてくださいよ。
 類さんも帝人さんも、そんな雰囲気の『ふ』の字もないじゃないですか」

「ないから怪しいんじゃん! 隠してるってことじゃん!」

「隠してるって……」

「あの類ちゃんのことだもん、帝人のデカチンにアヘアヘ言わされてすっかりハマっちゃった、だなんて絶対言わないよ!」

 そうだとしたならば、言わない。それは確かだ。
 ニャン太さんは神妙な様子で、目を閉じた。

「初めはさ、類ちゃん余裕の表情でさ、オレが筆下ろししてやるよ~、なんて軽いノリだったのにさ……」

 彼は寂しげに背を丸める。

「いざ突っ込まれたら、凄い気持ち良くて、頭真っ白になっちゃって、帝人は帝人で類ちゃんの心地良さに我を失っちゃってさ……もうズッコンバッコン大騒ぎだよ……」

 ニャン太さんは相当追い詰められているようだ。

 ……にしても、ほとんどその気のない帝人さんを挑発する類さんの姿は、易々と妄想できてしまった。

 例えば、だ。

 ソウさんとのことを餌にして、類さんはラブホテルに帝人さんを連れ込み……

『ソウとのキス、完全再現できるけどやる?』

 まだ躊躇いの気持ちの大きい帝人さんの手を引く類さん。

 首に腕を巻き付け、少し爪先立ちをして、彼は積極的に舌を伸ばす。
 それは吐息を奪う甘いキスだ。

 帝人さんは初めこそ、気難しそうに眉根を寄せる。
 けれど、いつの間にか類さんの腰を抱き寄せて、深く彼の口内を貪る……

「帝人さ、バックで類ちゃんのこと突き上げながらさ……」

 脳内で始まった妄想を、ニャン太さんが続けた。

「イキまくって飛んじゃってる類ちゃんのことを更に攻め立ててさ、
 最後は類ちゃんの顎を掴んで、無理やり後ろを向かせてキスしてフィニッシュ……」

 脳裏に浮かんだ、帝人さんの逞しい身体と、類さんの華奢な身体のコントラストにドキリと胸が跳ねる。

「……で、終わった後、類ちゃんは荒い息でこういうんだよ」

 ニャン太さんは1度言葉を句切ると、類さんの口調を真似て言った。

「キスはするなって言ったろ」

 いい!

 思わずそう言いそうになって、僕は口元を覆った。
 なんだ、「いい」って。
 何を考えているんだ、僕は。

 愛する人が、自分以外の男に抱かれる妄想をして……どうして僕はこんな、こんな……ドキドキしてしまっているんだ。

 僕はニャン太さんやソウさんに悟られぬよう、真面目な顔をして俯く。
 けれど、心臓の高鳴りはますます大きくなっていく。

 すると、ニャン太さんが口を開いた。

「デンデン、どうしよう……」

「は、はい!?」

「ボク、すごく悲しんでたはずなのに……今、凄いドキドキしてる……」

 僕と同じく頬を上気させて、彼は甘い吐息を零した。
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