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日常2

勉強会とリベンジマッチ(7)

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* * *

 仕事の進みが悪いのかもしれないのに、本当にこのままイチャイチャしてしまってもいいのだろうか。
 それとも、少し発散した方が筆の滑りというものは良くなったりするのか?……だとしたら、責任重大である。

「なに余計なこと考えてんの」

「んっ……!」

 類さんは部屋の扉を後ろ手で閉めると、すかさずキスを仕掛けてきた。

「ふ、ぁ、ちょっ、待っ……っ、ん、んンッ」

 唇を重ねながら移動し、ベッドに押し倒される。
 類さんはサイドチェストからローションやゴムを取り出すと、枕元に投げた。

「で? ニャン太たちはこの後、どうしろって?」

 僕を組み敷いた彼は婉然と微笑み、頬を優しく撫でてくれる。

 前回の失敗を思うと不安でしかない。
 けれど――

 僕は意を決して類さんを抱きしめ、そのままゴロリとポジションを変更した。

「類さん……」

 彼を見下ろし、そっと唇を重ねる。
 舌を忍ばせながら彼のベルトを外し、ズボンを脱がせる。
 さわさわと彼の内股に触れると、類さんはクスクス笑って身体を捩った。

「くすぐってぇよ、伝」

 ああ、好きだなぁと思う。
 類さんの屈託無い笑顔を見ると、胸の辺りがぎゅうっとして、愛おしくてたまらなくなるのだ。

 身体を貫く衝動を飲み込み、うなじに顔を埋める。

 爽やかな香水の匂いがした。
 首筋に唇を押し付け、両手で彼の頬を包み込み、鼻先にもキスをした。
 髪の毛を掻き上げて額に、こめかみに、頬に、耳に口付ける。

「ん……っ」

 部屋には明かりが灯ったままだから、類さんのことがよく見えた。

 僕はたくさん……たくさん、キスをした。
 唇から、この甘い気持ちを伝えるように。

「伝……?」

 鼻先をくっつけて見つめると、彼はちょっと戸惑ったみたいだった。

「……好きです」

 言葉が溢れる。

「大好きです、類さん」

 真っ直ぐ告げれば、彼は目線を彷徨わせてから頷いた。

「……おう」

 少しだけ、頬が赤い気がする。
 照れてくれているのかな、そうだったら嬉しい、なんて思っていると、彼の手が僕のズボンに触れた。

 脱がそうとしてくるその手を、僕はそっと制して耳に唇を寄せた。

「今日は僕が……類さんのこと、抱いてもいいんですよね?」

「そ、のつもりだけど」

「良かった。じゃあ、今日は……僕に全部させてください」

 僕はシャツだけ脱ぎ捨てる。
 それから、類さんの下着を引っ張り下ろした。

 指サックをはめ、ローションを手に取り、握りしめて温めるようにする。
 ついで、彼の緩く勃ち上がる屹立ではなく、その奥へ指を伸ばす。

「ん……」

 類さんの唇から吐息がこぼれた。

 僕はソウさんの手つきを思い出しながら、慎重に指を這わせる。

 そっと穴口を撫で、ツンツンと突き、ローションが馴染んだ頃合いを見計らって、ゆっくりと指を捻じ込んでから、ぐぅっと奥を探る。

「……っ、あ」

 変化を感じ取ることが大事だと、ニャン太さんは言っていた。

 僕は指に意識を集中させ、ここじゃないかと当たりを付けた場所を、優しくこね回す。

 断続的に後孔がキュッ、と搾る。
 反応を示す部分を重点的に刺激する。
 そろりと弾き、押し込み、撫でて、穴口を拡げるようにバラバラと指を動かし……

「で、伝……」

「はい?」

 掠れた声が耳に届いて、僕は顔を上げた。

「そんな、解さなくていいって。お前、もう限界だろ」

「っ!」

 足先で股間をまさぐられ、息を飲む。
 類さんはこちらの反応に喉奥で低く笑うと、僕の頭を撫でた。

「中、挿れていいぞ……?」

「……いえ」

 首を振り、声を絞り出す。

 類さんが言うことは聞いてはならない、とソウさんが言っていた。

 ここで正解なのは……奥歯を噛み締め、愛撫を続行すること。

「お、おい……?」

 僕は誘惑を振り払い、続けた。

 トントンと快楽のスイッチを弾き、小刻みに指を震わせ、中を押し広げながら指を増やし、時折、全然違うとこを刺激して焦らしたり。

 絡むローションがぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てる。

「マジで、そんな……しなくて、いいっ、から……っ」

 目の前で勃ち上がっている屹立にむしゃぶりつきたいが、手で扱くことで我慢して、後孔に意識の全てを集中した。

「ん、ぅ……はっ……」

 初めはわかりづらかった前立腺も、今では的確に指先で感じる。
 それにともなって、類さんの声に甘さが滲んだ気がした。

「本当、もう……っ」

 ヒクヒクと穴口が収縮し、サック越しに腸壁がうねるのを感じる。
 僕はローションを途中で付け加え、ますます動きを滑らかにした。

 ゆっくり、ゆっくり。
 焦らして、擦って、押し込んで。
 滑らかな太股にくちびるを這わせて、甘噛みをしたりして。

 興奮は頂点に達していたが、不思議と頭の中は静かだった。クリアというか……いや、この状態は熱にうなされているのだろう。
 類さんの反応が嬉しくて、心地良くて、夢見心地で僕は彼の内部を攻め立てる。

 好きな相手に触れることで、自分までもがこんなに気持ちよくなれるだなんて、思っていなかった。

「伝……なぁ、おいっ……」

 火傷するくらいに熱い肉襞が、指に絡みついてくる。
 ぐちゃぐちゃといやらしい粘着音が耳に届く。
 激しさを増す指使い。
 痛いくらいに締め付けがキツくなり――

「……っ!」

 僕は慌てて指を引いた。
 あ、危なかった……また、類さんを置き去りに、ひとりで暴走するところだった。

「な、んで……指、抜くんだよ……」

 不機嫌そうな、類さんの声。

「す、すみません、僕だけまた、気持ち良くなってしまってて……次はもっとうまくやりますから」

「は……? まさか、やり直す気――」

 僕はまたローションを付け足すと、お尻に指を這わせる。

「ぅ、あっ……! はっ……ぅ、んん……っ」

 いやらしく充血した穴口を撫でながら、必死にニャン太さんと、ソウさんの言葉を思い出した。
 焦るな。暴走するな。丁寧に、中の変化を感じろ……

「もうっ、いーっつの!」

 唐突に、類さんが身体を起こした。

「も、もしかして痛かったですか!?」

「……ちげーよ」

「じゃあ、気持ち良くなかった……?」

「それも違う。でも……これ以上、指でするなら怒る」

「え、ええ……?一体、どうして……」

「……」

 類さんが押し黙ってしまった。
 僕はキモが冷える思いだった。

 唐突に……前戯がしつこくて恋人に振られた、というような話を思い出した。

 僕の指使いなんて、ニャン太さんたちと比べたら稚拙に違いない。
 そんなものを続けられても心地良いどころか苦痛だったのではないか……?

 僕は指サックをティッシュに包んで捨てると、類さんを抱きしめた。

「すみません、しつこくして……」

 しょんぼり告げる。

「い、いや、しつこいとかでもなくて……」

 珍しく、彼は言葉を探しあぐねているようだった。

 ああ、気を遣われている……

 彼はそろそろと僕の背中を撫でてから、手を下に移動した。

「んっ!」

 ズボンの上から隆起した股間を撫でられ、吐息が跳ねる。
 類さんは視線を逸らしたまま続けた。

「要するに……お前もう限界だろ、ってこと」

「それは……」

「挿れただけでイっちまったら、もったいねぇじゃん。長く楽しみてぇの。わかるだろ?」

 そう言った彼はどこかぎこちなく微笑む。

「類さん……」

 ……彼の気遣いが心に沁みた。
 僕は許しを請うように、唇を重ねた。

「ん、んんっ、ん……」

 ザラついた舌を絡め、唾液をすする。
 その間に、類さんが僕のズボンをくつろげた。
 僕は枕元のゴムを取る。

 その時、ふと、類さんの手が止まった。

「どうかしましたか?」

「伝。悪いけど……」

 彼は部屋の扉の方を見やってから、額に手をやり続けた。

「ギャラリーを追い払ってくれ」

「え? ギャラリー?」

 言葉の意味を取れず、首を傾げる。
 ついで、彼が示した扉の方を見やり「あっ……!!」と、声を上げた。

 扉の隙間から、ニャン太さんとソウさん、それから控えめに帝人さんが覗き込んでいることに気付いたのだ。

「な、な、な……!」

 僕は類さんに上掛けをかぶせると、ベッドから飛び降りた。
 扉が目の前で閉まったが、逃げたギャラリーを追って部屋を出る。

「何してるんですか……!?」

「ごめんーっっ!」

 ニャン太さんが顔の前で手を合わせて頭を下げた。
 その手には、タンバリンが握られている……

「ホント、邪魔するつもりはなかったんだよ! いつでもフォローに入れるように、スタンバってただけでっ……!」

「フォローって、何をするつもりだったんですか……」

「途中で失敗した時とか、すかさずこう、雰囲気を盛り上げようかと!」

 軽快にタンバリンが鳴らされた。

「盛り上げるどころか、トドメ刺しにきてますけど!?」

 思わず声を荒げると、ソウさんが両手に握っていたマラカスをさりげなく背に隠す。
……誰だ? 彼にマラカス渡したの?

「俺は止めたよ」と両手を上げた降参ポーズで帝人さんが言った。

「ね? 言っただろう、ニャン太。余計なお世話だって」

「でもでも、だって、心配だったんだもん」

 しゅんと肩を落とすニャン太さん。

 僕は扉を後ろ手で閉めてから眼鏡を押さえ、肺の中が空っぽになるような、ため息をついた。

……うん、彼らに悪気はないのだ。わかっている。
 僕はあらためてニャン太さんを見下ろし口を開いた。

「ニャン太さんたちに教わったことは、しっかり頭に入ってます。だから、信じて待っていて下さい。合格点、ちゃんと貰ってきますから」

「……うん。そうだよね。デンデンなら、大丈夫だよね」

 ニャン太さんの愁眉が晴れる。

「ホントにごめんね、邪魔して」

「いえ……こちらこそ心配かけてすみません」

「デンデンは謝ることひとつもしてないでしょ! 悪いのはボクだから。……あっ、そだ! これ、何かあったら使ってね!」

 タンバリンをプレゼントされた。あと、マラカスも。

「あ……ありがとうございます……」

 僕はそれらをお土産に、部屋に戻った。

……使う場面はサッパリわからないが、トドメを刺される可能性を排除できただけ良しとしよう。

「……お待たせしました」

「おう、お疲れ。……く、くく……っ」

 適当にタンバリンたちを棚に置いてベッドに向かえば、類さんが腹を抱えて笑いながら迎えてくれた。

 うう……
 エロい雰囲気の欠片も残っていない。
 僕の息子もシュンとしてしまっている。

 ここからどう、さっきまでの雰囲気に持っていくと言うのだろう?
 考えれば考えるほど、途方もない。

 類さんとエッチしたいという気持ちと。
 こんな雰囲気のままガッツいたら、ヤりたいだけみたいで嫌だなという気持ちと。

 ゆらゆらと心が揺れる。

 結局、僕は「……やりなおそう」と、決めて上掛けの中に潜り込んだ。

 物言わず、類さんに身体を寄せる。
 そろそろと髪を撫でていると、彼は意地悪く目を細めた。

「なんだよ、萎えちまった?」

「すみません……少ししたら、復活すると思うので……」

「マジかよ。俺のここ、こんな……グズグズなのに?」

 唇が触れるくらい近くで囁いて、類さんが上掛けを蹴りどける。
 それから誘うように足を開き、自らの後孔に手を伸ばした。――指の間に、包装から取り出したコンドームを挟んで。

「……っ」

 その仕草に、僕の息子は瞬間煮沸かし機みたいにエレクトした。

「よしよし、勃ったな」

 類さんがケラケラ笑う。

「類さん、エッチ過ぎますよ……」

 僕はもうなり振り構わず、下着ごとズボンを脱ぐと彼に覆いかぶさる。

「ほら。さっさと来い」

 彼の足の間に身体を滑り込ませた。
 次いで、屹立を手で支えると類さんの促すまま穴口に押し当てる。
 ゴム越しに、ゆっくりと、僕は彼の中へと潜り込んだ。
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