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リクエスト01

声と虚構の果実 Side:類

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◆◆◆前書き◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

全5回更新。リクエスト頂きました。
類が伝への気持ちを家族に告白する前後のお話です。

雰囲気タグ
#ネタバレ #病み

リクエストありがとうございました…!
 
◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 薄膜の下、黒く滲むソレは病巣だ。
 ナイフの切っ先を当てれば、プツリと破けた膜にどす黒い赤が盛り上がる。

『ねぇ、類……これでも頑張ったんだよ』

 ソレはそんな風に鳴く。
 キィキィと耳障りな声で。
 鼻につく酷い臭いを発して。

 ああ、腐っている。
 その膿は触れるもの全てを、粛々と不幸にしていく。

 いつまでそのままにしておく気だ? と、自問。
 わかってるよ、と、俺は吐き捨てる。
 早く。早く、切り落とさなければ。
 ――俺が親父にしたように。

* * *

  締めきった自室に、淫靡な香りが満ちていた。

「は、ぁ……ぅ……あ……っ!」

 自分でもウンザリするような甘ったるい声を上げて、身体は愉悦の階段を駆け上っていく。
 肉襞を擦る熱が密度を増したかと思えば、すかさず蒼悟が俺の唇を塞いだ。

「類……」

「ぁ……んンッ」

 がむしゃらに舌を絡ませ、俺は甘えるように蒼悟の背を抱きしめる。

「ソウ……痛くして……」

 請えば、彼は肩口に噛みついてきた。
 歯を立てて、ちゅ、とキスを落とす。

「こうか?……足りない?」

「うん……まだ、もっと……痛く……頭、うるさい……」

「わかった」

 蒼悟は短く頷くと、俺の両足を抱え直す。
 それから腰が浮くほど掘削しながら、先ほど甘噛みした場所を再び噛んだ。

「あっ」

 痛みに身体が跳ねる。
 『熱い、熱い』とまとわりつく『声』が、一瞬、俺から手を引く。

「あ、ぁ、あ……あ……っ!」

 打ちこまれた楔の形をハッキリと認識できるくらい、身体が重なった。

「くっ……」と、蒼悟が眉根を寄せて、今度は首筋に噛みついてくる。
 ふぅふぅと耳朶に吹き掛かる荒い吐息。
 応えるように、俺は汗ばむ背に爪を立てる。

 ベッドが軋む。

 動きが激しさを増し、俺の意識は軽々と高みへと放られた。
 最奥に叩き付けられた飛沫が、じわりと体内に染みていく。
 真っ白になった視界に、ふたつの呼吸が響いた。

「類、イけた……?」

 噛み跡を舐めながら、蒼悟が問う。

「ん……」

 俺は彼の頬を両手で包むと、苦笑しながらその切れ長の目を見上げる。

「でも、まだ……足りね、ぇ……」

 蒼悟が優しく目を細めた。
 そっと唇が重なる。

 何度か触れるだけの口付けの後、ザラついた舌が深く口中に入り込み、舌の根が痛くなるほど強く吸われた。
 唾液を啜り合うと、微かに血の味がする。
 胸が震えるような安堵を覚え、さわさわと蒼悟の頬を撫でれば、

『なぁ、類。熱いよ……熱い……』

 触れた指先から、彼の皮膚が赤黒く変色した――かのような、幻覚に襲われた。

「……っ!」

 俺は息を飲んで手を離す。
 蒼悟は気にせずその手を強く握ると、唇を押しつけてきた。

「ダメだ、蒼悟……離せ……」

「大丈夫」

 抱きしめられる。

 俺は浅い呼吸を繰り返し、やがて息をひそめて彼の首筋に顔を埋めた。

 背中に張り付いた声が、蒼悟をじっと見ている……
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