人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

文字の大きさ
上 下
218 / 224
エピローグ

最果ての約束(6)

しおりを挟む
* * *

「バンさん、どうですか? 似合う?」

 茶色の髪のカツラをかぶり、鏡を覗き込んでいいたユリアが、
 楽しげにこちらを振り返る。

「似合ってるよ」

「へへ、良かった」

 明日出かけようというユリアを留め、
 オレたちは入念な準備をした。

 前回の旅行のようなことになるわけにはいかない。

 ハルから、オレの弟たちが更に引っ越したことを聞き、
 そこまでの最新の地図を手に入れ、ルートを確定した。

 幸いなことに、弟たちの住む場所は地方都市で、
 商人たちが治めている新しい町だった。

 あっと言う間に月日は過ぎ去って、
 やっとオレたちは念には念を入れた準備を完了した。

「それでは、行きましょう!」

「おう」

 ……これが世話係として最後の旅だと思うと、感慨深いものがある。

* * *

 所作の優雅さは隠しようがないが、
 一見、普通であることが大切だ。

 オレたちは道中何ひとつ問題に見舞われることなく、
 地方都市・ビニエに辿り付いた

「賑わってるな」

「メティスよりも全然大きいですね……」

 町をぐるりと取り囲む城塞は、メティスよりもずっと堅牢に見える。
 中央には都庁舎がそびえ立ち、放射線状に色とりどりの屋根の住宅が並んでいる。
 道には露店が建ち並び、客引きの声が行き交っていた。
 メティスと違うのは、自警団だろうか、武器を携えた屈強な男たちが、
 点々と立っていた。

 かといって、彼らが威圧感を与えているわけではなく、
 道行く人たちが彼らに声をかけ、また彼らも笑顔で答えている。

 賑やかで、どこか人情味を感じる町だった。

「バンさん。こっちですよ」

「ああ」

 ユリアが地図を片手に、案内をしてくれる。
 デコボコした石畳を歩きながら、オレは複雑な気持ちで彼の後に続いた。

 家族に会いたい、とは思う。
 しかし、オレの存在は、昔の生活を思い出させてしまうんじゃないかと不安だった。
 弟たちにとって、昔の生活は決していいものではなかったはずだから。

 追い返されたのなら、それでいい。
 だが、気を遣わせてしまったらと思うと尻込みする。

「バンさん! 着きましたよ!」

「あ、ああ」

「……あんまり、気が乗りませんでした?」

「いや、そうじゃなくて……」

 顔を上げたオレは、目の前にそびえ立つ立派な屋敷に目を剥いた。

「い……いやいやいやいや、家凄過ぎだろ!?」

 陽の光を照り返す、銀の門。
 その向こうには、緑豊かな柴が広がり、
 その向こうに物語に出てきそうな屋敷が建っている。
 ユリアの屋敷と比べてしまえば小さいが、
 それにしたって、まさか、こんな豪邸に……

「奉公先、とかじゃねぇの……」

 どう考えても、前払いの金額や月々の仕送りじゃムリだと思う。

「もしかして、金使い切っちまったとか……」

 不安が胸に去来した。
 しかし、理知的な弟がそんな馬鹿なマネをするとも思えない。

 その時、庭仕事をしていた男がコチラに気付き、
 品の良さそうな壮年の男が門へとやって来た。
 
「何かご用ですかな」

「キャンベンディッシュの者です。
 お手紙で伝えたように、ダニエルさんに会いに来たんですが…」

 ユリアの言葉に、紳士が目を見開く。

「……っ! 少々お待ち下さい!」

 彼は慌ただしく踵を返した。
 やがて、すぐに1人の背の高い青年を連れて戻ってきた。
 
 ダニエル――1番上の、弟だ。

「兄さん!? バン兄さん!」
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...