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エピソード30
別れの詩(8)
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ソイツはヴィンセントの知り合いのようだった。
そして、ヤツこそが――
ボクを殺した、ボクの家族を皆殺しにした、張本人。
1月のヴァンパイアだ。
「ぅあ……」
気が付けば、ボクは血溜まりのできた床に尻餅をついていた。
音が立つほど全身が震えている。
「はっ、はっ、はぁっ……」
呼吸がうまく出来ない。
怖い。
怖い。怖い。怖い。怖い。
今すぐここから逃げ出してしまいたい。
「……ジルベール。何故、お前がここにいる」
ヴィンセントの呟きが落ちる。
『ソイツが1月だよ!』
そんな叫びは、ガチガチと鳴る歯が噛み潰してしまった。
「何があった? お前ほどの男が……何故……」
「何故、ですか。
まるであなたは、彼のことを何もかも
知っているかのように話すんですね」
「……独り言だ。
お前に言ったわけではない」
肩を怒らせて、ヴィンセントが吐き捨てる。
それに1月は優雅に口の端を持ち上げた。
「随分と大きな独り言だ。
もしかして、構ってちゃんですか?」
「黙れ」
「あなたのことは知っていますよ。
ジルベールの親友のヴィンセント……
あなたと彼は、ふたりで数え切れない夜を語り明かしましたね」
1月は瞼を閉じると、
懐かしむように吐息をこぼす。
「……そう。彼とあなたは同士だった。
ヴァンパイアを滅殺し、人が安心して暮らせる世界を作る、
あなたから家族を奪った化け物どもを皆殺しにすると誓い合った。
ーーなのに、あなたは彼に何も言わずに教会を去ってしまった」
「……そいつの記憶を覗くな」
「信じていたのに。
あんなに長く一緒にいたのに。
信じられませんでしたよ。《私》を捨てて出て行くなんて。
……ねえ、ヴィンセント?」
「黙れ!!」
ヴィンセントが激高する。
こんな風に感情的になった彼を、ボクは初めて見た。
「後悔しているんですか?
それなら、私の悲願の邪魔をしないでください。
私はこの奥にいる、人狼少年に用があるんです」
「……それはお前の願いだろう。
ジルベールのものではない」
「いいえ、確かに私の……いえ、ジルベールの願いです」
1月はゆるやかに首を振った。
絹のような髪が揺れる。
鎧を濡らしていた血がぽたりと床に落ちる。
「ジルベールは人狼青年を調べたいんですよ。
この世に、真の平等を打ち立てるために、
あの青年を研究することが不可欠でしたから」
「真の平等……?」
「そもそも《私》が教会に入ったのは、
あなたのようにヴァンパイアに復讐するためじゃありません。
この世から、争いや裏切りをなくすため、
ヴァンパイアを調べたかったからだ。
不死である存在を研究し、人間の命の限界を取り外すために」
1月はそっと胸元に手を当てた。
それから、両手を広げると舞台役者のように朗々と告げる。
「そして、私は人狼の血を引く青年と出会った……!
弱点の存在しないヴァンパイア……彼は私の理想そのものだった!」
「適当なことを言うな。
人間から死を取り上げたって、争いはなくならない。
ジルベールがそんな馬鹿げたことを考えるわけが……」
「相変わらず、察しが悪いですね。
つまり――
壊れちゃってたんだよォォォォオオッ!!」
歪んだ笑みを浮かべて、1月が吠える。
「コイツは! お前のせいで!!
壊れちゃったの!」
ヴィンセントの肩が揺れた。
1月は先ほどの雅さなど欠片も見えない下卑た笑みを浮かべる。
「ねえねえ、お前はジルベールの何を見てきたわけ?
跡継ぎ問題で揉めて、家族同士で殺し合って、
何もかもに絶望した可哀想なお貴族様……
それがジルベールじゃないか!」
身振り手振りをつけて、1月は語った。
ロウソクに照らされ、
床に落ちた黒い影が蠢き、何かの生き物みたいだ。
「すっかりいじけてた彼に、お前は優しくした。
心を開かせて、信頼させて……
確か、ジルベールはお前の境遇にいたく同情して、
協力するって言ったんだっけ?
あれ、ウソだから。
本人は気付いてなかったかもしれないけど、
自分だけが生き残ってしまった理由を、
お前の復讐に求めてただけだから。
ジルベールはバカだね。
そんな風に他人を利用しようとするから、
裏切られちゃったわけ!」
つ、と白磁の頬を涙が伝う。
1月は大袈裟に頭を振ると、片手を顔に当てた。
「ああっ! 可哀想なジルベール!
家族に殺されかけて、大好きな親友に裏切られて……
僕が出会った彼は、誰よりも純粋に狂っていた。
人の醜さを、その命の短さに求めたかったんだね。
永遠の命を手に入れたって、
自分の家族も、親友も戻っては来ないのにさぁ……」
ヴィンセントは何も言わなかったが、
その剣を握り締めた手は小刻みに震えていた。
思ったよりヴィンセントを動揺させられず不満だったのか、
1月は鼻を鳴らすと、雰囲気を元に戻し口を開いた。
「……ヴィンセント。さあ、道をあけてください。
あなただって元とは言え処刑官なんです。
人狼とヴァンパイアの血を引く化け物を放っておけば、
大変なことになるのは分かるでしょう?」
「……話を逸らすな」
「あは。話を逸らしてるのはお前の方だろ。
都合が悪いからって、
ジルベールが被った苦しみを無視するわけ?」
「違う。
俺が謝罪すべきなのはジルベールであって、
お前ではない」
ヴィンセントは話を切り上げるように剣を構えた。
1月はゲラゲラ笑ってから、
同じく脇構えの体勢を取る。
「……やっぱり、ジルベールは可哀想だ。
お前は前を向いていえて、
コイツは最後まで過去に囚われていた。大違いだね」
言葉が終わると同時に、1月が間合いに踏み込んだ。
間髪入れずにしならせた剣を、
ヴィンセントは微動だにせず受け止め、弾き返す。
1月は返す手で剣先を引き、再び腕を振るった。
激しい剣戟の音が繰り返し部屋に響き渡る。
ボクは呼吸も忘れて、ヴィンセントを見守るしかできない。
薙ぎ払われる大剣。
宙を破く重い音。
1月の胸元の鎧が凹み、唇から血が溢れ出た。
ヤツが不機嫌そうに眉根を寄せたのも一瞬のことで、
すぐに面白そうに口元を歪ませる。
一方、1月の振るった剣先に切り裂かれたヴィンセントの頬の傷は、
もちろん塞がる気配はなかった。
赤い線が顎を伝い、動く度に床に転々と赤い円を描く。
ボクはグッと拳を握り締めた。
いくつも同時に進行している計画は、順調だ。
その中で、ボクにとって最も好ましいのは、
ヴィンセントが1月を倒すこと。
しかし時間をかければかけるほど、彼は不利になってしまう。
だから、ボクは震える膝を叱咤して立ち上がった。
指輪の光で1月の動きを止めるために。
「くっ……!」
けれど、力を行使することは叶わなかった。
下手をするとヴィンセントの視界に入ってしまうのだ。
1月はそれを見越して、動いている。
悔しかった。手も足も出ないことが。
いつだってお荷物な自分が。
ヴィンセントを助けたいのに。
ヴィンセントを助けるためなら、何だってするのに。
「ぐっ……!」
「ヴィンセントッ!?」
鋭い切っ先が、彼の脇腹を貫く。
1月が剣を引くと、先程までとは比べようもない量の赤が咲いた。
「現役時代よりも弱くなったんじゃない?
ジルベールがお前の腕を随分と買っていたから期待してたけど、
思ったほどじゃないし、終わりにしよっか」
「……」
ヴィンセントの動きが止まる。
じりじりと間合いを計るように動けば、
床に掠れた赤い足跡がついた。
「あと、チョロチョロ動いてるそこのガキ。
お前もついでに死ねよ」
「……ッ!?」
1月の眼差しがボクを射る。
伸びた剣先がビュンッと空気を切り裂いて、
こちらに真っ直ぐ向かってくる。
「セシル!!」
ヴィンセントの声に、ボクは奥歯を噛み締めた。
そうだ。『そのまま、こっちを向いていろ』。
その刹那、空気が振動した。
ギンッ! と、剣と剣がぶつかり合う音が弾ける。
鼻先まで伸びていた剣先が引いた。
1月が蹈鞴を踏んで、背後に飛び退ったのだ。
その右肘の辺り――鎧のつなぎ目からは、血が噴き上がっている。
「お、おおおっ!?――っと、今のは危なかった!」
咄嗟に聞き手を庇って切り裂かれた右肘を見下ろしてから、
ヤツは間合いの直ぐ外で剣を構え直したユリアを睨めつけた。
「ってか、何なの。不意打ちは卑怯だって、
お母さんに教わらなかったんですかーーーっ!?」
こめかみに青筋を浮かべる1月から視線を外さず、
ユリアはヴィンセントへ向けて口を開いた。
「……すみません、ヴィンセントさん。
せっかく隙を作って貰ったのに」
「いい動きだった。
予想よりも相手の反応が良かっただけだ」
「ちょっとちょっとちょっと無視しないでくれる!?
頭くるんだけど! ねえ!!
聞けよ! このゴミどもがよォッ!」
地団駄を踏んで1月が吠える。
ユリアの二重の目が、スッと細くなった。
「……あなたを倒して、僕は過去と決別する」
その瞳の奥では、静かな決意の炎が揺れている。
「前と同じままだと思うなら、
すぐに後悔することになりますよ」
そして、ヤツこそが――
ボクを殺した、ボクの家族を皆殺しにした、張本人。
1月のヴァンパイアだ。
「ぅあ……」
気が付けば、ボクは血溜まりのできた床に尻餅をついていた。
音が立つほど全身が震えている。
「はっ、はっ、はぁっ……」
呼吸がうまく出来ない。
怖い。
怖い。怖い。怖い。怖い。
今すぐここから逃げ出してしまいたい。
「……ジルベール。何故、お前がここにいる」
ヴィンセントの呟きが落ちる。
『ソイツが1月だよ!』
そんな叫びは、ガチガチと鳴る歯が噛み潰してしまった。
「何があった? お前ほどの男が……何故……」
「何故、ですか。
まるであなたは、彼のことを何もかも
知っているかのように話すんですね」
「……独り言だ。
お前に言ったわけではない」
肩を怒らせて、ヴィンセントが吐き捨てる。
それに1月は優雅に口の端を持ち上げた。
「随分と大きな独り言だ。
もしかして、構ってちゃんですか?」
「黙れ」
「あなたのことは知っていますよ。
ジルベールの親友のヴィンセント……
あなたと彼は、ふたりで数え切れない夜を語り明かしましたね」
1月は瞼を閉じると、
懐かしむように吐息をこぼす。
「……そう。彼とあなたは同士だった。
ヴァンパイアを滅殺し、人が安心して暮らせる世界を作る、
あなたから家族を奪った化け物どもを皆殺しにすると誓い合った。
ーーなのに、あなたは彼に何も言わずに教会を去ってしまった」
「……そいつの記憶を覗くな」
「信じていたのに。
あんなに長く一緒にいたのに。
信じられませんでしたよ。《私》を捨てて出て行くなんて。
……ねえ、ヴィンセント?」
「黙れ!!」
ヴィンセントが激高する。
こんな風に感情的になった彼を、ボクは初めて見た。
「後悔しているんですか?
それなら、私の悲願の邪魔をしないでください。
私はこの奥にいる、人狼少年に用があるんです」
「……それはお前の願いだろう。
ジルベールのものではない」
「いいえ、確かに私の……いえ、ジルベールの願いです」
1月はゆるやかに首を振った。
絹のような髪が揺れる。
鎧を濡らしていた血がぽたりと床に落ちる。
「ジルベールは人狼青年を調べたいんですよ。
この世に、真の平等を打ち立てるために、
あの青年を研究することが不可欠でしたから」
「真の平等……?」
「そもそも《私》が教会に入ったのは、
あなたのようにヴァンパイアに復讐するためじゃありません。
この世から、争いや裏切りをなくすため、
ヴァンパイアを調べたかったからだ。
不死である存在を研究し、人間の命の限界を取り外すために」
1月はそっと胸元に手を当てた。
それから、両手を広げると舞台役者のように朗々と告げる。
「そして、私は人狼の血を引く青年と出会った……!
弱点の存在しないヴァンパイア……彼は私の理想そのものだった!」
「適当なことを言うな。
人間から死を取り上げたって、争いはなくならない。
ジルベールがそんな馬鹿げたことを考えるわけが……」
「相変わらず、察しが悪いですね。
つまり――
壊れちゃってたんだよォォォォオオッ!!」
歪んだ笑みを浮かべて、1月が吠える。
「コイツは! お前のせいで!!
壊れちゃったの!」
ヴィンセントの肩が揺れた。
1月は先ほどの雅さなど欠片も見えない下卑た笑みを浮かべる。
「ねえねえ、お前はジルベールの何を見てきたわけ?
跡継ぎ問題で揉めて、家族同士で殺し合って、
何もかもに絶望した可哀想なお貴族様……
それがジルベールじゃないか!」
身振り手振りをつけて、1月は語った。
ロウソクに照らされ、
床に落ちた黒い影が蠢き、何かの生き物みたいだ。
「すっかりいじけてた彼に、お前は優しくした。
心を開かせて、信頼させて……
確か、ジルベールはお前の境遇にいたく同情して、
協力するって言ったんだっけ?
あれ、ウソだから。
本人は気付いてなかったかもしれないけど、
自分だけが生き残ってしまった理由を、
お前の復讐に求めてただけだから。
ジルベールはバカだね。
そんな風に他人を利用しようとするから、
裏切られちゃったわけ!」
つ、と白磁の頬を涙が伝う。
1月は大袈裟に頭を振ると、片手を顔に当てた。
「ああっ! 可哀想なジルベール!
家族に殺されかけて、大好きな親友に裏切られて……
僕が出会った彼は、誰よりも純粋に狂っていた。
人の醜さを、その命の短さに求めたかったんだね。
永遠の命を手に入れたって、
自分の家族も、親友も戻っては来ないのにさぁ……」
ヴィンセントは何も言わなかったが、
その剣を握り締めた手は小刻みに震えていた。
思ったよりヴィンセントを動揺させられず不満だったのか、
1月は鼻を鳴らすと、雰囲気を元に戻し口を開いた。
「……ヴィンセント。さあ、道をあけてください。
あなただって元とは言え処刑官なんです。
人狼とヴァンパイアの血を引く化け物を放っておけば、
大変なことになるのは分かるでしょう?」
「……話を逸らすな」
「あは。話を逸らしてるのはお前の方だろ。
都合が悪いからって、
ジルベールが被った苦しみを無視するわけ?」
「違う。
俺が謝罪すべきなのはジルベールであって、
お前ではない」
ヴィンセントは話を切り上げるように剣を構えた。
1月はゲラゲラ笑ってから、
同じく脇構えの体勢を取る。
「……やっぱり、ジルベールは可哀想だ。
お前は前を向いていえて、
コイツは最後まで過去に囚われていた。大違いだね」
言葉が終わると同時に、1月が間合いに踏み込んだ。
間髪入れずにしならせた剣を、
ヴィンセントは微動だにせず受け止め、弾き返す。
1月は返す手で剣先を引き、再び腕を振るった。
激しい剣戟の音が繰り返し部屋に響き渡る。
ボクは呼吸も忘れて、ヴィンセントを見守るしかできない。
薙ぎ払われる大剣。
宙を破く重い音。
1月の胸元の鎧が凹み、唇から血が溢れ出た。
ヤツが不機嫌そうに眉根を寄せたのも一瞬のことで、
すぐに面白そうに口元を歪ませる。
一方、1月の振るった剣先に切り裂かれたヴィンセントの頬の傷は、
もちろん塞がる気配はなかった。
赤い線が顎を伝い、動く度に床に転々と赤い円を描く。
ボクはグッと拳を握り締めた。
いくつも同時に進行している計画は、順調だ。
その中で、ボクにとって最も好ましいのは、
ヴィンセントが1月を倒すこと。
しかし時間をかければかけるほど、彼は不利になってしまう。
だから、ボクは震える膝を叱咤して立ち上がった。
指輪の光で1月の動きを止めるために。
「くっ……!」
けれど、力を行使することは叶わなかった。
下手をするとヴィンセントの視界に入ってしまうのだ。
1月はそれを見越して、動いている。
悔しかった。手も足も出ないことが。
いつだってお荷物な自分が。
ヴィンセントを助けたいのに。
ヴィンセントを助けるためなら、何だってするのに。
「ぐっ……!」
「ヴィンセントッ!?」
鋭い切っ先が、彼の脇腹を貫く。
1月が剣を引くと、先程までとは比べようもない量の赤が咲いた。
「現役時代よりも弱くなったんじゃない?
ジルベールがお前の腕を随分と買っていたから期待してたけど、
思ったほどじゃないし、終わりにしよっか」
「……」
ヴィンセントの動きが止まる。
じりじりと間合いを計るように動けば、
床に掠れた赤い足跡がついた。
「あと、チョロチョロ動いてるそこのガキ。
お前もついでに死ねよ」
「……ッ!?」
1月の眼差しがボクを射る。
伸びた剣先がビュンッと空気を切り裂いて、
こちらに真っ直ぐ向かってくる。
「セシル!!」
ヴィンセントの声に、ボクは奥歯を噛み締めた。
そうだ。『そのまま、こっちを向いていろ』。
その刹那、空気が振動した。
ギンッ! と、剣と剣がぶつかり合う音が弾ける。
鼻先まで伸びていた剣先が引いた。
1月が蹈鞴を踏んで、背後に飛び退ったのだ。
その右肘の辺り――鎧のつなぎ目からは、血が噴き上がっている。
「お、おおおっ!?――っと、今のは危なかった!」
咄嗟に聞き手を庇って切り裂かれた右肘を見下ろしてから、
ヤツは間合いの直ぐ外で剣を構え直したユリアを睨めつけた。
「ってか、何なの。不意打ちは卑怯だって、
お母さんに教わらなかったんですかーーーっ!?」
こめかみに青筋を浮かべる1月から視線を外さず、
ユリアはヴィンセントへ向けて口を開いた。
「……すみません、ヴィンセントさん。
せっかく隙を作って貰ったのに」
「いい動きだった。
予想よりも相手の反応が良かっただけだ」
「ちょっとちょっとちょっと無視しないでくれる!?
頭くるんだけど! ねえ!!
聞けよ! このゴミどもがよォッ!」
地団駄を踏んで1月が吠える。
ユリアの二重の目が、スッと細くなった。
「……あなたを倒して、僕は過去と決別する」
その瞳の奥では、静かな決意の炎が揺れている。
「前と同じままだと思うなら、
すぐに後悔することになりますよ」
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