人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード30

別れの詩(5)

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* * *

 月が真上に昇る頃、
 ハルさんはボクを抱きかかえて古城の外に出た。

「セシル。もうちょっと、こっち。
 ……そうそう、そこに立って。頭はこっちだ。……うん、ちゃんと見える?」

「は、はあ……」

 彼はボクを、古城を一眸できる場所に《設置》すると、
 改めて城を仰ぎ見た。

 星空の下、聳える城は真っ黒で、何処かおどろおどろしい。

「祖父はいい場所に城を建てたと思うよ」

 夜風にローブを揺らして、ハルさんは言った。

「そこそこ発展している街からも近いし、
 かといって、力を持ってる教会の支部も見当たらない。
 城を取り囲む森には聖なる者が住まうと信じられていて、
 人がうろつくこともないし……
 隠れ住むにはもってこいだ」

 言葉を切り、ハルさんがボクに目を向ける。
 その黒曜石の瞳はボクをすり抜けて、
 もっと遠くにいるヤツを見つめていた。

「……ねえ、そう思うでしょ? 君も」

 ゾッと背中が粟立つ。
 彼のまとう空気は、氷よりもなお冷たい。

 知れず、足元がフラつき、彼から退こうとすれば、
 ハルさんの白い手がボクの首を掴んだ。

「ぐっ……」

 息を飲むボクには構わず、
 ハルさんはゆっくりと小首を傾げる。
 それから、こちらを覗き込むようにして口の端を持ち上げた。

「ここで待ってるから。
 もう一度、僕と――遊ぼう」

* * *

 遊ぼうだ?
 アイツ、バカなの??

 俺は苛立たしげに鼻を鳴らした。
 人狼青年を探すべく、あの使えない駒の頭を覗いていると、
 7月からメッセージを受け取ったのだ。

 わざわざ、今いる場所を示すようにして、
 彼は、にこやかに俺を誘った。

 俺は歯が欠けるほど奥歯を噛みしめた。

 どーーーせ、めちゃくちゃ準備して待ってンだろ。
 お前らの考えなんて、丸っとお見通しなんだよ。

 …でもさァ、ちょっと俺のことを舐め過ぎだと思うんだよね。

 たった5人のキミらとは違って、
 俺ってば100人近い第一級処刑官たちを集めちゃってるわけ。
 この差をどうやって埋めつもりなのかなー。
 ちゃんと数、数えられる? 大丈夫?

 ま。チャレンジ精神は大事だとは思うけどね?

 ーーそういうわけで俺は、7月に遊ぼうと誘われた1週間後、
 例の古城の前に立っていた。

「招待しといて出迎えもなしって、マジかい。
 舐めすぎでは?
 ――舐めすぎではァァァァァアアアアッ!?!?」

 舌打ちをして、唾を吐き捨てる。

 あくまで彼らは罠だらけの内部に俺を呼び込みたいらしい。。
 
 うーん。いっそ、外部から城を破壊するとか?

「あ、それはムリっぽい」

 城の周りをうっすらと複雑な術式が覆っているのが見える。
 外部から物理的干渉を受けないよう、結界でも張っているのだろう。
 まったく面倒なことこの上ない。

 とはいえ、そんなもんがなかったとしても、
 城を破壊するというアイディアは却下だ。

「なぜなら! これから、この城は俺の物になるからでーーーす!」

 ちょこっとジルベールと違うことをしたせいで、
 教会の中に、ちらほらと俺を訝しむヤツらが現れた。
 意外とバカじゃなかったらしい。
 このままでは、バレるのも時間の問題だ。

 そこで、このお城ですよ。

 カモがネギ背負ってくるって、こういうことなんだと思う。

 強固さはお墨付き。
 ロケーションも悪くない。

「ありがとねー、7月。大切に使わせて貰うよん♪」

 お礼と言ってはなんだけど、滅多刺しにしてあげる。
 ついでに目玉をくり抜いて、火で炙って、薬漬けにして……
 ああ、そういうこと全部、彼の大好きな甥っ子の姿でやってあげたら、
 めちゃくちゃ喜ぶかも?

「え、俺っていい人過ぎじゃね? あは、人じゃないけど」

 俺は気を取り直して、背後を振り返った。

「みなさーん、ちゃんと来てますかー?」

 陰に潜んでいた仲間たちが、暗闇に姿を現す。

「それじゃ、冒険を始めようか!」

 俺はそれを確認すると、嬉々として古城攻略に乗り出した。
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