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エピソード28
シロとユリア(6)
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* * *
数日待っても、オレの部屋にユリアが姿を現すことはなかった。
当たり前と言えば当たり前だ。
オレは彼を裏切った。愛想を尽かされても不思議はない。
「……にしても、これは酷くねぇか」
ベッドの傍に立つメイドの一人に、恨めしい眼差しを向けた。
オレはと言えば、数日前から縄でベッドに縛り付けられていた。
無理をして起き上がろうとしたせいだと分かっているが、
首だけしか動かせないこの状態はつらいものがある。
「なあ。もうケガは治ったって言ってるだろ」
「絶対安静と申しつかっておりますので」
メイドは抑揚のない声で言った。
オレは溜息と共に、瞼を閉じる。
もうずっと寝ている。
ぼんやり以外にすることもなく、天井の豪勢な模様も見飽きた。
ユリアはどうしているんだろう。
もう謝ることすら出来ないのだろうか……
しばらくするとメイドが部屋を出て行く気配がした。
仕事に戻ったのだろう。
ますます暇になってしまった。
今まで生きてきて、ゆっくりしたことのなかったオレにとっては地獄のような時間だ。
そんなことを思っていると、部屋の扉が開く音がした。
目を向ければ思わぬ人物が立っている。
「何してんの。そういうプレイ?」
開口一番、彼は――セシルはそう言った。
「おまっ……セシル!? 何でここにっ……!?」
「ユリア、困ってるんでしょ?
ハルさんから頼まれたんだ。1月を倒す協力をして欲しいって。
まあ、アイツが絡んでるなら他人事じゃないし」
セシルは軽い足取りでやってくると、ベッドの淵に腰掛けた。
かと思うと、ノックをするように包帯の巻かれた足を無遠慮に叩いてくる。
「いっ……」
痛くはないが、ヒヤッとした。
「吹っ飛ばされたの、こっちの足?」
「叩くなよ」
「確認だよ」
「なんのだよ!」
声を荒げると、セシルはニッと口の端を持ち上げる。
「絶対安静って聞いてたけど、全然元気じゃん」
「だからって労らなくていい理由にはなんねーだろ」
「労って欲しいなら、労られる存在にならないとねー」
そんなことを言って、ケラケラ笑う。
しかし、その横顔はどこか血の気がない。
いや、死徒に血の気なんてそもそもないのだが、
なんとなくそんな風に感じてオレは戸惑った。
「……セシル。お前の方こそ、元気にしてたのか?」
「なに? ボクのこと気遣ってくれるの?
あんなことしたボクのことを?」
前に、セシルのせいでユリアが危ない目に遭った。
謝られたものの容易には許すことが出来ず、
しばらく彼に怒っていたが……
こんな状態だと、セシルでもいてくれるだけで助かる。
我ながら現金だ。
「昔のことはもう忘れた」
セシルはつまらなそうに肩をすくめると、ベッドを飛び降りた。
それから、彼は窓を開け放った。
部屋に吹き込んできた夜風に、
わだかまっていた鬱々とした気が薄まったように感じる。
「なんでそんな風に言うのか分からないけど、ボクは元気だよ」
窓を背に、セシルは言った。
「……なあ。お前、ハルから何を頼まれた? もしかして――」
その時だ。
「何の音だ……?」
剣と剣がぶつかる激しい音が外から聞こえてきて、オレはギクリとする。
また敵が来たのかもしれない。
今の音は誰かが戦っている音だろうか。
「……セシル! すぐに縄を解いてくれ!」
この状態では、戦うことはもとより逃げることすら出来ない。
縄を解くように頼めば、セシルはのんきに窓から階下を見下ろしながら言った。
「そんなに心配しなくて平気だよ。敵ってわけじゃないから」
「だけど、今の音は……」
「ヴィンセントが、ユリアに剣の稽古を付けてるんだ」
「は……?」
数日待っても、オレの部屋にユリアが姿を現すことはなかった。
当たり前と言えば当たり前だ。
オレは彼を裏切った。愛想を尽かされても不思議はない。
「……にしても、これは酷くねぇか」
ベッドの傍に立つメイドの一人に、恨めしい眼差しを向けた。
オレはと言えば、数日前から縄でベッドに縛り付けられていた。
無理をして起き上がろうとしたせいだと分かっているが、
首だけしか動かせないこの状態はつらいものがある。
「なあ。もうケガは治ったって言ってるだろ」
「絶対安静と申しつかっておりますので」
メイドは抑揚のない声で言った。
オレは溜息と共に、瞼を閉じる。
もうずっと寝ている。
ぼんやり以外にすることもなく、天井の豪勢な模様も見飽きた。
ユリアはどうしているんだろう。
もう謝ることすら出来ないのだろうか……
しばらくするとメイドが部屋を出て行く気配がした。
仕事に戻ったのだろう。
ますます暇になってしまった。
今まで生きてきて、ゆっくりしたことのなかったオレにとっては地獄のような時間だ。
そんなことを思っていると、部屋の扉が開く音がした。
目を向ければ思わぬ人物が立っている。
「何してんの。そういうプレイ?」
開口一番、彼は――セシルはそう言った。
「おまっ……セシル!? 何でここにっ……!?」
「ユリア、困ってるんでしょ?
ハルさんから頼まれたんだ。1月を倒す協力をして欲しいって。
まあ、アイツが絡んでるなら他人事じゃないし」
セシルは軽い足取りでやってくると、ベッドの淵に腰掛けた。
かと思うと、ノックをするように包帯の巻かれた足を無遠慮に叩いてくる。
「いっ……」
痛くはないが、ヒヤッとした。
「吹っ飛ばされたの、こっちの足?」
「叩くなよ」
「確認だよ」
「なんのだよ!」
声を荒げると、セシルはニッと口の端を持ち上げる。
「絶対安静って聞いてたけど、全然元気じゃん」
「だからって労らなくていい理由にはなんねーだろ」
「労って欲しいなら、労られる存在にならないとねー」
そんなことを言って、ケラケラ笑う。
しかし、その横顔はどこか血の気がない。
いや、死徒に血の気なんてそもそもないのだが、
なんとなくそんな風に感じてオレは戸惑った。
「……セシル。お前の方こそ、元気にしてたのか?」
「なに? ボクのこと気遣ってくれるの?
あんなことしたボクのことを?」
前に、セシルのせいでユリアが危ない目に遭った。
謝られたものの容易には許すことが出来ず、
しばらく彼に怒っていたが……
こんな状態だと、セシルでもいてくれるだけで助かる。
我ながら現金だ。
「昔のことはもう忘れた」
セシルはつまらなそうに肩をすくめると、ベッドを飛び降りた。
それから、彼は窓を開け放った。
部屋に吹き込んできた夜風に、
わだかまっていた鬱々とした気が薄まったように感じる。
「なんでそんな風に言うのか分からないけど、ボクは元気だよ」
窓を背に、セシルは言った。
「……なあ。お前、ハルから何を頼まれた? もしかして――」
その時だ。
「何の音だ……?」
剣と剣がぶつかる激しい音が外から聞こえてきて、オレはギクリとする。
また敵が来たのかもしれない。
今の音は誰かが戦っている音だろうか。
「……セシル! すぐに縄を解いてくれ!」
この状態では、戦うことはもとより逃げることすら出来ない。
縄を解くように頼めば、セシルはのんきに窓から階下を見下ろしながら言った。
「そんなに心配しなくて平気だよ。敵ってわけじゃないから」
「だけど、今の音は……」
「ヴィンセントが、ユリアに剣の稽古を付けてるんだ」
「は……?」
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