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エピソード28
シロとユリア(4)
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* * *
ハルに案内された館に辿り付くと、
屋敷に置いてきていた召使いたちが総出でオレたちを出迎えた。
オレはと言えば、彼らに挨拶する間もなく、部屋に連れていかれ、
ベッドに横になると、すぐに足の手当をされた。
「……安静にしていろ。すぐに、くっつく」
包帯を巻き終えると、シロが言った。
「助かるよ」
気まずい沈黙が落ちる。
ひとまず危機は去った。が、オレたちの間の問題は山積みだ。
ユリアにバレたことを思うと、頭が真っ白になる。
「……」
「……」
「ねえ」
静寂を破ったのは、シロの後ろにいたハルだった。
「君、ちゃんとユリアのこと愛してるの?」
「え……」
問いにオレは目を瞬かせる。
「僕にはそうは見えないんだけど」
気怠げに小首を傾げて、
ハルは黒曜石の瞳でじっとオレを見つめる。
「そ、れは……」
ハルの想定した愛し方なんて知りようもない。
それでも、前ならオレは胸を張って「愛している」と言えただろう。
いや、今だって愛していることに変わりは無い。が……
ハルの目がスッと細くなる。
部屋の気温が下がる気配と同時に、全身から冷や汗が噴き出した。
オレは即答できない自分に衝撃を受けていた。
自分の言動を顧みると、果たして『愛せている』のか、不安になのだ。
そもそも、愛するってどういうことだった?
大事にして、傷つけないようにして、
……なのに、オレはユリアに何をした?
何をしてやれた?
「ハル。心配するな」
押し黙ったオレの代わりに答えたのはシロだった。
「コイツは貴様との約束を守っている。
ちゃんと……ユリアを愛している」
「……そう。ならいいんだけど」
ハルは何か問いかけたそうにシロとオレを見てから、黒いローブを翻した。
「バン。僕は数日の間は此処にいる。
その間に……」
メイドが扉を開くと、彼はオレをチラリと振り返った。
「君の口から、今の質問の答えを聞けることを祈っているよ」
そう告げて、今度こそ部屋を後にする。
部屋にいたメイドたちも、オレたちに気を利かせてくれたのか出て行き、
部屋にはオレとシロだけが残された。
オレは意味もなく髪を掻き上げ、後ろ髪を引っ張る。それから嘆息する。
「ありがとな」
「すまなかった」
口を開いたのは同時だった。
再びの沈黙。オレはシロを見た。
「……何のことだよ?」
「ユリアの記憶についてだ。
アイツは俺の記憶を見えないと言ったのに、見られた」
「どういうことだよ?」
「俺にも分からん。
これまで、アイツが俺の記憶を見たことはなかったというのに」
「なら仕方ないだろ。不測の事態だ。
それとも、何か気付いてたのか」
問うというより、それは確認だった。
シロはオレの横になるベッドに腰掛けると、手を組んで口を開いた。
「俺にはユリアの記憶もあった。
しかし、それが数日前から見えなくなっていた」
「それって……」
表裏一体の関係にある2つの人格には上下があり、シロの方が上だと予想していたが、
逆になったとでも言うのだろうか?
ジルベールとの会話で刺激されーー全ての記憶を取り戻したから?
「今度はユリアがお前の記憶を見ているってことか?」
「……おそらく」
ユリアは今度こそ記憶を手放さないと、不思議と確信した。
それと同時に心が凪いでいく。
「……ユリア」
オレはシロを通して、ユリアに声をかけた。
「聞こえてるか?
……話したいことが、ある」
たぶんオレは、シロを受け入れたあの夜から、
ユリアに全て知られるだろうことを予感していた気がする。
シロの耳がピクリと震えた。
彼は立ち上がると、前を向いたままオレを目だけで一瞥した。
「……オレはお払い箱だな」
そう一言呟くと、シロも出ていった。
扉の閉まる音が部屋に虚しく響いた。
ハルに案内された館に辿り付くと、
屋敷に置いてきていた召使いたちが総出でオレたちを出迎えた。
オレはと言えば、彼らに挨拶する間もなく、部屋に連れていかれ、
ベッドに横になると、すぐに足の手当をされた。
「……安静にしていろ。すぐに、くっつく」
包帯を巻き終えると、シロが言った。
「助かるよ」
気まずい沈黙が落ちる。
ひとまず危機は去った。が、オレたちの間の問題は山積みだ。
ユリアにバレたことを思うと、頭が真っ白になる。
「……」
「……」
「ねえ」
静寂を破ったのは、シロの後ろにいたハルだった。
「君、ちゃんとユリアのこと愛してるの?」
「え……」
問いにオレは目を瞬かせる。
「僕にはそうは見えないんだけど」
気怠げに小首を傾げて、
ハルは黒曜石の瞳でじっとオレを見つめる。
「そ、れは……」
ハルの想定した愛し方なんて知りようもない。
それでも、前ならオレは胸を張って「愛している」と言えただろう。
いや、今だって愛していることに変わりは無い。が……
ハルの目がスッと細くなる。
部屋の気温が下がる気配と同時に、全身から冷や汗が噴き出した。
オレは即答できない自分に衝撃を受けていた。
自分の言動を顧みると、果たして『愛せている』のか、不安になのだ。
そもそも、愛するってどういうことだった?
大事にして、傷つけないようにして、
……なのに、オレはユリアに何をした?
何をしてやれた?
「ハル。心配するな」
押し黙ったオレの代わりに答えたのはシロだった。
「コイツは貴様との約束を守っている。
ちゃんと……ユリアを愛している」
「……そう。ならいいんだけど」
ハルは何か問いかけたそうにシロとオレを見てから、黒いローブを翻した。
「バン。僕は数日の間は此処にいる。
その間に……」
メイドが扉を開くと、彼はオレをチラリと振り返った。
「君の口から、今の質問の答えを聞けることを祈っているよ」
そう告げて、今度こそ部屋を後にする。
部屋にいたメイドたちも、オレたちに気を利かせてくれたのか出て行き、
部屋にはオレとシロだけが残された。
オレは意味もなく髪を掻き上げ、後ろ髪を引っ張る。それから嘆息する。
「ありがとな」
「すまなかった」
口を開いたのは同時だった。
再びの沈黙。オレはシロを見た。
「……何のことだよ?」
「ユリアの記憶についてだ。
アイツは俺の記憶を見えないと言ったのに、見られた」
「どういうことだよ?」
「俺にも分からん。
これまで、アイツが俺の記憶を見たことはなかったというのに」
「なら仕方ないだろ。不測の事態だ。
それとも、何か気付いてたのか」
問うというより、それは確認だった。
シロはオレの横になるベッドに腰掛けると、手を組んで口を開いた。
「俺にはユリアの記憶もあった。
しかし、それが数日前から見えなくなっていた」
「それって……」
表裏一体の関係にある2つの人格には上下があり、シロの方が上だと予想していたが、
逆になったとでも言うのだろうか?
ジルベールとの会話で刺激されーー全ての記憶を取り戻したから?
「今度はユリアがお前の記憶を見ているってことか?」
「……おそらく」
ユリアは今度こそ記憶を手放さないと、不思議と確信した。
それと同時に心が凪いでいく。
「……ユリア」
オレはシロを通して、ユリアに声をかけた。
「聞こえてるか?
……話したいことが、ある」
たぶんオレは、シロを受け入れたあの夜から、
ユリアに全て知られるだろうことを予感していた気がする。
シロの耳がピクリと震えた。
彼は立ち上がると、前を向いたままオレを目だけで一瞥した。
「……オレはお払い箱だな」
そう一言呟くと、シロも出ていった。
扉の閉まる音が部屋に虚しく響いた。
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