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エピソード27
螺旋回廊(4)
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オレの唇を、シロのザラついた舌が舐める。
半開きにすると、それは中へと深く侵入してきて、口中を這い回った。
「ん、んむっ、んん……」
紅の瞳に射られ、身体の芯に火が灯る。
オレは陶然としながらユリアを思った。
拗れたままの彼を、受け入れる。
ユリアの嘘の上に新しい幸せを描く。
それが……試して、試して、結局、導き出した答えだった。
ユリアの両親は病気で死んだ。
オレたちは旅先のメティスで祭りを楽しんだ。
今は悠々自適な山小屋生活を送っている。
ユリアは誰も傷付けていないし、オレとケンカもしていない。
彼が家族に愛されていた記憶はなくなるけれど、
その寂しさは、オレが埋めれば良い。
そして、これからは彼を狙う『敵』を徹底的に排除し、穏やかな生活を心掛ける。
ほら。
こうすれば、万事解決――
「んぐっ……!」
そんなことを考えていると、まだ閉じた後孔に長大な灼熱が突き立てられた。
「て、めっ……少しは解してからっ……」
「……やっと俺を見た」
生理的に散った涙を舐め取ってから、
シロはオレの腰を高く抱え上げ、動き始める。
「ぅあっ、ぁ……あっ、あっ、は、ぅあっ……っ」
「……やる気がないのは、口だけだったようだな」
「はっ……何、言って……っ」
「奥を突く度に、中が嬉しそうにうねる……
相変わらず、素直じゃないやつめ」
「あ、ぁっ、く、そ……激しくするな、っつの……
ベッド、壊れるだろーが……っ」
「フン。好きに啼いていろ」
オレはシロの腰に足を絡みつける。
それから胸元の毛を引っ張ると、顔を寄せた。
「止めろっつってんだよ……
ってか、本当、お前って……出し入れするしか脳がねえな……
チャームに頼り過ぎなんじゃねぇか……?」
ピクリとシロの耳が揺れる。
「オレのこと、好きだっつーなら……
しっかり満足させろよ」
ユリアの敵を完全に排除することが不可能だとしても、
コイツが……シロが、いる。
コイツがユリアを守ってくれる。
「……満足させてくれ」
お前が、ユリアの記憶を持ってる限り、
ユリアの身体を守ってくれる限り、
オレはウソをつく。つき続けるから。
「誰に物を言っている」
繋がったまま、身体を起こされる。
向き合い、抱きしめ合うような体勢で、
オレたちは睨み合った。
「っつって、俺の方が経験豊富だからな」
肩に手を置き、自ら身体を上下に揺すれば、
我が物顔で中を蹂躙していた楔が、ビクリと震えた。
「……っ」
オレはたぶん、ユリアの嘘に乗っかることが怖かった。
いつかオレたちの関係も嘘になりそうで。
……いつかオレも切り捨てられる気がして。
要するに、ユリアの人生の通過点になるのが怖かったわけだ。
思い上がりも甚だしいと思う。
「精々、利用させてくれよ。シロ」
浅い呼吸を繰り返して、オレは笑った。
シロは苛立たしげに目を細めて、
オレの左の肩口に噛みついてきた。
「あぐっ……」
牙が皮膚に突き刺さる。
鮮烈な、火傷のような痛みに顔が歪む。
「なに、噛んでんだよっ……」
「明日には綺麗サッパリ消えている。
俺とのことも、何もかもな」
「それがさ……てめぇが毎晩噛むから、痕になってんだわ……」
言うと、シロは目を見開いた。
それからクッと喉奥で笑う。
「……そうか」
「嬉しそうにすんじゃねえ……」
「嬉しいのだから仕方ない」
……オレたちは、たぶん似ている。
何かを残そうと必死になっている。
「単純なヤツ……
御しやすいケダモノで……本当、良かったわ」
永遠の中で、笑顔が磨り切れるまで。
ユリアに優しい夢を見せることが出来たのなら、
それだけで、オレには彼に仕えた価値がある。
そう、思った。
* * *
寝入るバンを置いて、俺は小屋の外へ出た。
ヤツと共に小屋周りに張り巡らせた罠の確認をするためだ。
「異常はなし、か」
罠は半径5キロほどのところを起点に、転々と配置している。
半年ほど経ったが、幸い誰かが接触するけはいはない。
心配と言えば、小屋の所有者だが……
俺は何個目かの罠の前で、ふと足を止めた。
異常は無い。しかし、鼻腔をくすぐる香りに、
明らかにいつもとは違うものが混じっている。
「……足跡」
罠の向こう側に、うっすらと人の足跡が見えた。
それは仕掛けの直前で踵を返していた。……罠に気付いている行動だ。
もしかしたら今日の昼間、別のルートからバンたちの様子を見られたかもしれない。
「……アイツの記憶が見えないというのも、不便なものだな」
誰にともなく吐き捨てると、
俺はすぐさま小屋に戻り、間抜け顔で寝入るバンを叩き起こした。
「起きろ、バン。山での生活も、今夜でおしまいだ」
一見、変化がなくとも、時は進んでいる。
どれほど願おうと、
誰も、変わることを止められはしない。
半開きにすると、それは中へと深く侵入してきて、口中を這い回った。
「ん、んむっ、んん……」
紅の瞳に射られ、身体の芯に火が灯る。
オレは陶然としながらユリアを思った。
拗れたままの彼を、受け入れる。
ユリアの嘘の上に新しい幸せを描く。
それが……試して、試して、結局、導き出した答えだった。
ユリアの両親は病気で死んだ。
オレたちは旅先のメティスで祭りを楽しんだ。
今は悠々自適な山小屋生活を送っている。
ユリアは誰も傷付けていないし、オレとケンカもしていない。
彼が家族に愛されていた記憶はなくなるけれど、
その寂しさは、オレが埋めれば良い。
そして、これからは彼を狙う『敵』を徹底的に排除し、穏やかな生活を心掛ける。
ほら。
こうすれば、万事解決――
「んぐっ……!」
そんなことを考えていると、まだ閉じた後孔に長大な灼熱が突き立てられた。
「て、めっ……少しは解してからっ……」
「……やっと俺を見た」
生理的に散った涙を舐め取ってから、
シロはオレの腰を高く抱え上げ、動き始める。
「ぅあっ、ぁ……あっ、あっ、は、ぅあっ……っ」
「……やる気がないのは、口だけだったようだな」
「はっ……何、言って……っ」
「奥を突く度に、中が嬉しそうにうねる……
相変わらず、素直じゃないやつめ」
「あ、ぁっ、く、そ……激しくするな、っつの……
ベッド、壊れるだろーが……っ」
「フン。好きに啼いていろ」
オレはシロの腰に足を絡みつける。
それから胸元の毛を引っ張ると、顔を寄せた。
「止めろっつってんだよ……
ってか、本当、お前って……出し入れするしか脳がねえな……
チャームに頼り過ぎなんじゃねぇか……?」
ピクリとシロの耳が揺れる。
「オレのこと、好きだっつーなら……
しっかり満足させろよ」
ユリアの敵を完全に排除することが不可能だとしても、
コイツが……シロが、いる。
コイツがユリアを守ってくれる。
「……満足させてくれ」
お前が、ユリアの記憶を持ってる限り、
ユリアの身体を守ってくれる限り、
オレはウソをつく。つき続けるから。
「誰に物を言っている」
繋がったまま、身体を起こされる。
向き合い、抱きしめ合うような体勢で、
オレたちは睨み合った。
「っつって、俺の方が経験豊富だからな」
肩に手を置き、自ら身体を上下に揺すれば、
我が物顔で中を蹂躙していた楔が、ビクリと震えた。
「……っ」
オレはたぶん、ユリアの嘘に乗っかることが怖かった。
いつかオレたちの関係も嘘になりそうで。
……いつかオレも切り捨てられる気がして。
要するに、ユリアの人生の通過点になるのが怖かったわけだ。
思い上がりも甚だしいと思う。
「精々、利用させてくれよ。シロ」
浅い呼吸を繰り返して、オレは笑った。
シロは苛立たしげに目を細めて、
オレの左の肩口に噛みついてきた。
「あぐっ……」
牙が皮膚に突き刺さる。
鮮烈な、火傷のような痛みに顔が歪む。
「なに、噛んでんだよっ……」
「明日には綺麗サッパリ消えている。
俺とのことも、何もかもな」
「それがさ……てめぇが毎晩噛むから、痕になってんだわ……」
言うと、シロは目を見開いた。
それからクッと喉奥で笑う。
「……そうか」
「嬉しそうにすんじゃねえ……」
「嬉しいのだから仕方ない」
……オレたちは、たぶん似ている。
何かを残そうと必死になっている。
「単純なヤツ……
御しやすいケダモノで……本当、良かったわ」
永遠の中で、笑顔が磨り切れるまで。
ユリアに優しい夢を見せることが出来たのなら、
それだけで、オレには彼に仕えた価値がある。
そう、思った。
* * *
寝入るバンを置いて、俺は小屋の外へ出た。
ヤツと共に小屋周りに張り巡らせた罠の確認をするためだ。
「異常はなし、か」
罠は半径5キロほどのところを起点に、転々と配置している。
半年ほど経ったが、幸い誰かが接触するけはいはない。
心配と言えば、小屋の所有者だが……
俺は何個目かの罠の前で、ふと足を止めた。
異常は無い。しかし、鼻腔をくすぐる香りに、
明らかにいつもとは違うものが混じっている。
「……足跡」
罠の向こう側に、うっすらと人の足跡が見えた。
それは仕掛けの直前で踵を返していた。……罠に気付いている行動だ。
もしかしたら今日の昼間、別のルートからバンたちの様子を見られたかもしれない。
「……アイツの記憶が見えないというのも、不便なものだな」
誰にともなく吐き捨てると、
俺はすぐさま小屋に戻り、間抜け顔で寝入るバンを叩き起こした。
「起きろ、バン。山での生活も、今夜でおしまいだ」
一見、変化がなくとも、時は進んでいる。
どれほど願おうと、
誰も、変わることを止められはしない。
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