人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード26

虚飾の檻(3)

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 覆い被さるようにして、シロが言う。
 オレは真っ直ぐ見つめ返すと、頷いた。

「ああ。変わらねぇよ。変わるわけねぇだろ」

 ユリアが弱いのは、屋敷に来た頃から気付いていたし、
 むしろ原因がハッキリしただけ、ありがたい。

「ユリアを愛してるよ。
 だから、オレは……やっぱ、向き合って欲しいと思う」

「向き合う?」

「両親の死にさ。後、お前とも」

 ユリアが抱く苦しさは、たぶん記憶の欠如に起因している。
 まだ幼かったアイツが、心を壊さないためにすがったウソ……
 それが、今も彼を蝕んでいるのだろう。

 だけど、もう彼は子供じゃない。

 弱いながらも、ちゃんと受け止める強さを持っているし、
 ひとりで苦しむ必要もないのだ。
 オレが全力で支える。

 だから、苦しくても、つらくても、何度くじけたって、
 一歩でも前へ踏み出して欲しい。

「お前が怒る理由だって今のユリアなら理解できる。受け入れられる。
 アイツはまだ頼りない部分もあるけど、バカじゃない」

「……貴様は何か勘違いをしているようだ。
 俺は、ヤツに受け入れて欲しいだなどとは思っていない」

「素直になれよ。お前はなんだかんだ言ってユリアを守ってるじゃねぇか。
 心も体も」

 オレはそっとシロの頬に手を添えた。
 それから、ぐい、と口元の皮膚を引っ張れば、
 鋭い犬歯が覗いた。

「……オレを殺したのも、ユリアを守るためだった。合ってるだろ?」

「……」

「オレがユリアを傷付けるかもしれなかったから。
 でも、オレはアイツを見捨てない。
 命が尽きるまで、オレはユリアの側にいる。
 この気持ちは……あの時から、ちっとも変わってない」

「貴様の言うことは合っている。
 だが、半分だけだ」

「へえ。その間違ってる半分を教えてくれよ」

「……俺の記憶に欠けはない。
 だから――忌々しいが、アイツも俺だと理解していた。
 アイツは俺の弱さだ。だからそこへ踏み込んでこようとした貴様を殺した。
 が、それも……ここまでの話だ」

 一度言葉を切ると、シロは俺の手を握り締めた。

「俺たちの関係は決定的に変わった。
 貴様をきっかけにして」

「オレ?」

 つ、と眼差しが細くなる。

「そうだ。貴様は……俺に名を付けた。
 あの時から、俺には諦め切れないものが出来た」

 シロはオレの手を離すと、爪先で首筋に触れた。
 それからオレの首の付け根を甘噛みする。

「おい……? 何して――」

「貴様だ」

「……なに?」

「貴様が欲しい」
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