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番外編3
聖なる夜の贈り物(6)
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* * *
ただの使用人が屋敷の金に関わろうとするだなんて言語道断だ。
けれど、資産の一部が自分の衣装代に費やされていると知りながら、
無視することは、オレには出来なかった。
実は領民から徴収した税金が使われてました、なんてことになったら、
それこそ取り返しがつかない。
そういうわけで、オレはメイド長に相談し、
帳簿を見せて貰った。
何の疑いもなく見せてくれたのはどうかとも思うが、
それだけ信頼されたのだと前向きに考えることにする。
「まずは資産の確認、次に収入源、
それから最近の支出を確認して……」
書斎のデスクで、オレはペラペラと帳簿をめくり、くまなく目を通していた。
「この辺りから急に支出が増えたな……って、あの日か」
オレが人狼に殺された日だ。
例の部屋には近づいたことはなかったが、
中は一新されているらしい。
当たり前か。
それからオレの衣装代、半壊した屋敷の修繕費が続く。
「う……」
自分の足を折った燭台がウン千万もしたと知って吐きそうになった頃、
「バンさん、ずっと仕事してる……」
近くのソファで横になって拗ねていたユリアの呟きが聞こえて、
オレは椅子を蹴って立ちあがった。
「お前の仕事だからな、これ!?」
「えっ……!?」
正確には、ユリアの仕事ではないが、
使用人が彼の浪費を止めないのだから彼がやるべきコトだろう。
「とりあえず、自分がどうやって生かされてるか、
何に生かされてるのかくらいは知っておけよ」
オレはユリアを隣の椅子に座らせると、
なけなしの知識で、帳簿の見方を教えた。
地がいいお陰で、彼はすぐに理解してくれた。
帳簿から分かったことは3つ。
1つ。収入らしい収入はなく、両親が残した莫大な資産で生活していること。
2つ。無駄遣いしなければ、500年は何の苦労もなく生活出来ること。
3つ。この浪費を続けると、100年もつかどうか危ういこと。
「か、確認して良かったあ……」
今後の運用目処を立て、浪費を抑えるようにと
キツくユリアに言い聞かせたオレは、長い吐息を吐き出した。
衣装分はオレの給金で少しずつ補填していけばいいとして、
とりあえずは数百年は大丈夫だろう。
と言っても、減る一方なので何かしらの対策はすべきだろうが。
そんなことを考えながら、なんとなしに隣を見れば、
興味深そうに帳簿を見下ろしていたユリアが、
嬉しそうに口元を綻ばせた。
「どうした? 楽しそうな顔して」
「えっ? ああ、その……
僕はちゃんと外の世界と繋がっていたんだなぁって思ったら、
嬉しくなってしまって」
ユリアが食べている食事も、服も、
屋敷の外から手に入れたものだ。
その事実は、少しだけ彼の孤独を癒したのかもしれない。
「そうか」
「いつか……」
誰にともなく呟いて、ユリアはそっと帳簿を閉じた。
「……いつか屋敷の外に出られたら。
僕でも、誰かの役に立てるんでしょうか?」
「当たり前だろ」
頷くと、振り返ったユリアがくしゃりと笑った。
「ありがとう、バンさん」
抱きしめられる。
柔らかな髪を撫でれば、彼は心地良さそうに頬を寄せてきた。
束の間、甘やかな空気が流れる。
突然、ユリアがハッと窓の外を見たのはその時だ。
「ああっ、もうこんなに暗く……!
バンさんのこと、たくさん甘やかそうと思ってたのに」
そう言って、ユリアが肩を落とす。
外はとうに真っ暗で、しんしんと雪が降っていた。
「まだ、1日は終わってねーよ」
「でも……」
「お前、大切なこと忘れてるな?」
小首を傾げるユリアに、オレは苦笑した。
「オレ、風呂に入れるんじゃねーの?」
言葉と同時に、彼はパッと表情を輝かせる。
「そうでした! すぐに準備します!!」
踵を返すや否や、ユリアは部屋を飛び出した。
オレはメイド長に帳簿を返すと、
肩の筋肉を解すように腕を回した。
頭を使ったご褒美に、
広々とした風呂で温まるなんて最高だ。
「今日だけ、今日だけ」
喜びの滲む声で自分に言い聞かせ、
オレも書斎を後にした。
* * *
「すっげーーーーーー!!!!
めちゃくちゃ広えええええええ!!!!!」
物凄い速さで服を脱ぎ捨てたオレは、
浴室に足を踏み入れて思わず叫んでしまった。
いや、週に2度は風呂の掃除を担当しているから、
もちろん広さは知っている。
知っているのだが、ワクワクが止まらない。
甘い香りがするのは何故だろう?
湯に浮かぶ、小さな巾着が香りの元だろうか?
指を湯に浸けてみれば、
ちょうど良い温度だ。
オレは桶に湯を汲み、洗い場まで移動した。
洗い場には、大きな姿見があった。
その鏡の中の少年みたいに嬉しそうにしていた男と目が合い、
慌てて唇を引き締める。
オレは風呂椅子に座ると、頭からかぶった。
はしゃぎ過ぎなのは分かっているけれど。
だって、このお湯は、今日はオレのもんなんだ。
ゆっくり浸かって、逆上せそうになったら出て休んで、
水を浴びて、それからまた、浸かって……
考えるだけで、胸がときめく。これは、仕方ない。
タオルに、バラの香りがする石鹸を擦り付けた。
自分から香るのはちょっとどうかと思う匂いだけれど、
石鹸を付けずに洗った体で入れるような風呂ではない。
オレは鼻歌混じりに体を洗い始める。
すると――
ガラリと、浴室の扉が開いた。
「っ……!?」
ギョッとして、股間にタオルを押し当て振り返る。
「バンさん! お背中流しますよ~!」
入ってきたのは、もちろんユリアだ。
彼はシャツの袖を腕まくりして、
スキップする勢いでオレの下にやってきた。
ただの使用人が屋敷の金に関わろうとするだなんて言語道断だ。
けれど、資産の一部が自分の衣装代に費やされていると知りながら、
無視することは、オレには出来なかった。
実は領民から徴収した税金が使われてました、なんてことになったら、
それこそ取り返しがつかない。
そういうわけで、オレはメイド長に相談し、
帳簿を見せて貰った。
何の疑いもなく見せてくれたのはどうかとも思うが、
それだけ信頼されたのだと前向きに考えることにする。
「まずは資産の確認、次に収入源、
それから最近の支出を確認して……」
書斎のデスクで、オレはペラペラと帳簿をめくり、くまなく目を通していた。
「この辺りから急に支出が増えたな……って、あの日か」
オレが人狼に殺された日だ。
例の部屋には近づいたことはなかったが、
中は一新されているらしい。
当たり前か。
それからオレの衣装代、半壊した屋敷の修繕費が続く。
「う……」
自分の足を折った燭台がウン千万もしたと知って吐きそうになった頃、
「バンさん、ずっと仕事してる……」
近くのソファで横になって拗ねていたユリアの呟きが聞こえて、
オレは椅子を蹴って立ちあがった。
「お前の仕事だからな、これ!?」
「えっ……!?」
正確には、ユリアの仕事ではないが、
使用人が彼の浪費を止めないのだから彼がやるべきコトだろう。
「とりあえず、自分がどうやって生かされてるか、
何に生かされてるのかくらいは知っておけよ」
オレはユリアを隣の椅子に座らせると、
なけなしの知識で、帳簿の見方を教えた。
地がいいお陰で、彼はすぐに理解してくれた。
帳簿から分かったことは3つ。
1つ。収入らしい収入はなく、両親が残した莫大な資産で生活していること。
2つ。無駄遣いしなければ、500年は何の苦労もなく生活出来ること。
3つ。この浪費を続けると、100年もつかどうか危ういこと。
「か、確認して良かったあ……」
今後の運用目処を立て、浪費を抑えるようにと
キツくユリアに言い聞かせたオレは、長い吐息を吐き出した。
衣装分はオレの給金で少しずつ補填していけばいいとして、
とりあえずは数百年は大丈夫だろう。
と言っても、減る一方なので何かしらの対策はすべきだろうが。
そんなことを考えながら、なんとなしに隣を見れば、
興味深そうに帳簿を見下ろしていたユリアが、
嬉しそうに口元を綻ばせた。
「どうした? 楽しそうな顔して」
「えっ? ああ、その……
僕はちゃんと外の世界と繋がっていたんだなぁって思ったら、
嬉しくなってしまって」
ユリアが食べている食事も、服も、
屋敷の外から手に入れたものだ。
その事実は、少しだけ彼の孤独を癒したのかもしれない。
「そうか」
「いつか……」
誰にともなく呟いて、ユリアはそっと帳簿を閉じた。
「……いつか屋敷の外に出られたら。
僕でも、誰かの役に立てるんでしょうか?」
「当たり前だろ」
頷くと、振り返ったユリアがくしゃりと笑った。
「ありがとう、バンさん」
抱きしめられる。
柔らかな髪を撫でれば、彼は心地良さそうに頬を寄せてきた。
束の間、甘やかな空気が流れる。
突然、ユリアがハッと窓の外を見たのはその時だ。
「ああっ、もうこんなに暗く……!
バンさんのこと、たくさん甘やかそうと思ってたのに」
そう言って、ユリアが肩を落とす。
外はとうに真っ暗で、しんしんと雪が降っていた。
「まだ、1日は終わってねーよ」
「でも……」
「お前、大切なこと忘れてるな?」
小首を傾げるユリアに、オレは苦笑した。
「オレ、風呂に入れるんじゃねーの?」
言葉と同時に、彼はパッと表情を輝かせる。
「そうでした! すぐに準備します!!」
踵を返すや否や、ユリアは部屋を飛び出した。
オレはメイド長に帳簿を返すと、
肩の筋肉を解すように腕を回した。
頭を使ったご褒美に、
広々とした風呂で温まるなんて最高だ。
「今日だけ、今日だけ」
喜びの滲む声で自分に言い聞かせ、
オレも書斎を後にした。
* * *
「すっげーーーーーー!!!!
めちゃくちゃ広えええええええ!!!!!」
物凄い速さで服を脱ぎ捨てたオレは、
浴室に足を踏み入れて思わず叫んでしまった。
いや、週に2度は風呂の掃除を担当しているから、
もちろん広さは知っている。
知っているのだが、ワクワクが止まらない。
甘い香りがするのは何故だろう?
湯に浮かぶ、小さな巾着が香りの元だろうか?
指を湯に浸けてみれば、
ちょうど良い温度だ。
オレは桶に湯を汲み、洗い場まで移動した。
洗い場には、大きな姿見があった。
その鏡の中の少年みたいに嬉しそうにしていた男と目が合い、
慌てて唇を引き締める。
オレは風呂椅子に座ると、頭からかぶった。
はしゃぎ過ぎなのは分かっているけれど。
だって、このお湯は、今日はオレのもんなんだ。
ゆっくり浸かって、逆上せそうになったら出て休んで、
水を浴びて、それからまた、浸かって……
考えるだけで、胸がときめく。これは、仕方ない。
タオルに、バラの香りがする石鹸を擦り付けた。
自分から香るのはちょっとどうかと思う匂いだけれど、
石鹸を付けずに洗った体で入れるような風呂ではない。
オレは鼻歌混じりに体を洗い始める。
すると――
ガラリと、浴室の扉が開いた。
「っ……!?」
ギョッとして、股間にタオルを押し当て振り返る。
「バンさん! お背中流しますよ~!」
入ってきたのは、もちろんユリアだ。
彼はシャツの袖を腕まくりして、
スキップする勢いでオレの下にやってきた。
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