人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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番外編3

聖なる夜の贈り物(2)

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「ユリア?」

 見上げたユリアは、どこか決意めいた眼差しをしている。

「まずは、僕のプレゼントを受け取ってください」

「お、おう」

 なんだよ。
 そんなにマジになるような贈り物なのか?

 オレなんてほぼほぼシェフに手伝って貰ったっていうのに。

 彼は神聖な儀式を執り行うかのように、
 ポケットから赤いリボンを取り出した。

「バンさん」

 なんだろう、と思って見ていれば、
 ユリアはそれを自身の首に巻き付け、リボン結びをする。

 それからニコリと微笑んだ。

「どうぞ、受け取ってください」

「どうぞって……何をだよ」

「プレゼントですよ!
 つまり、その、だからっ……ぼ、僕を」

 消え入りそうな声で告げられた内容に、
 一瞬、思考が停止した。

「…………」

「どうして黙るんですか!?」

 顔を真っ赤にして、ユリアがあたふたする。
 オレはこめかみを押さえ、言葉を探しつつ口を開いた。

「いや、だってさ……
 こんな四六時中一緒にいてイチャついてんのに、
 僕をプレゼント、って言われても。
 お前、もうオレのもんだし」

 オレのもんをプレゼントされてもなあ。
 いや、まあ、嬉しいけれども。

 ハラハラした分、微妙な気持ちになってしまった。

「バンさん……!!」

 一方、ユリアはなんだか感動した様子で、
 オレに、めちゃくちゃキスをしてきた。

「んっ、ちょ、待っ……んん、ん……っ」

 舌が忍び込んできて、息が上がる。

 部屋に流れていた静かなクラシックが、
 盛り上げるようなテンションに変調した。

 余計なことすんな。
 ってか、なんでもうユリアはこんな出来上がってんだよ!

「ステイ!」
 
 声を上げると、びくりとしてユリアが唇を離す。

「ステイって……僕、犬ですか」

「同じようなもんだろ。
 ってか、盛るな。オレのプレゼント渡してねぇ」

 オレは肩で息をつきつつ乱されそうになったシャツを整え、
 モミの木の下に準備していたプレゼントを手に戻った。

「今日は特別な日だろ。
 どーせヤるんだから、少しは落ち着けよ」

「ちょっ、バンさん!
 もう少し慎ましく……」

「ん? ヤらねぇの?」

「しますけど!」と、即答してから、
 ユリアはボソボソと続けた。

「……でも、ほら、やっぱりロマンチックにいきましょうよ。
 だって、今日は聖なる夜なんですよ?」

「どう言ったって、ヤるはヤるだっつの」

 そもそも『僕をプレゼント♡』の時点で、
 ロマンチックもへったくれもないと思う。

 誰だ、こんなしょーもないこと教えたのは。

 オレは内心、大仰に溜息をついた。

「バンさんの意地悪……」

「拗ねるなよ」

 ひとまず、きちんとステイ出来たユリアの頭を撫でてから、
 オレは贈り物を手渡した。

「ほら、オレからのプレゼント。開けてみ?」

「ありがとうございます」

 コロリと表情を変えて、ユリアが丁寧に包装を剥がしにかかる。
 続いて彼の唇から、わあっと感嘆の声が漏れた。

「ガトーショコラじゃないですか!
 もしかして、バンさんが作ってくれたの?」

「まあ……一応?
 シェフに教えて貰ったから、味はそこまで悪くはねぇと思う」

 意外とうまくいったと思っていたケーキは、
 冷静になって見ると、飾りの粉砂糖が偏っていて、
 ちょっと不格好だった。
 
「バンさんは何でも出来るんですね。凄いなあ」

 ユリアは皿の上にケーキを移動すると、
 下から覗き込んだり、左右から見たりと感心したように眺める。

「は、早く食べろって」

 オレはユリアの手からケーキの乗った皿を取り上げた。

 本当にシェフの言う通り作っただけなのだ。
 カカオをチョコレートにする行程は任せてしまったし……

 だから、1から100まで褒めるようなユリアの言い草に、
 いたたまれなくなってしまう。

 そんな気持ちを隠すようにして、
 オレは皿にフォークを添えると、ユリアに突き返した。

 すると、ユリアは意味深な笑みでもって、
 皿を持つオレの手に手を重ねた。

「せっかくですし、食べさせてくださいよ」

「……言うと思ったよ」

 オレはこそばゆい笑みと一緒に、肩をすくめた。
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