人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード22

キャラメル・ショコラ(3)

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 問いにオレは目を見開いた。

「は? 退屈なわけねぇだろ」

「……そうですか。だったら、いいんですけど」

 そうは言っても、全然納得している様子ではない。
 オレは頭をかくと、苦笑を洩らした。

「お前って…………時々、メンドいな」

「う……す、すみません……」
 
 ボソボソと謝って、ユリアはますますデカい図体を縮こまらせた。

 オレはユリアに一歩近づいた。
 それから両頬を抓み上げると、思いきり引っ張った。

「はひっ……バンさっ……!?」

「なんか言いたいことあんなら、言えっての」

「へ……? 言いたいことなんて……」

「最近、お前ちょっと変だぞ。
 何か言いかけて止めたりとか、
 今みたいに、ハッキリしなかったりさ。
 ウダウダされても分かんねぇって」

 ユリアが小さく目を見開く。

「言えよ。なんかあるんだろ」

「な、何もないよ」

「ウソつけ」

「いっ、いひゃい! いひゃいってば……!」

 グイグイと頬を引っ張る。
 意外とユリアの頬は柔らかくて、よく伸びた。

「分かった、言います、言いますからっ……」

「おう」

 手を離す。
 ユリアは両手で顔をさすりながら、視線を逸らした。

「……不安なんですよ」

 ややあってから、彼はポツリと言った。

「うん……?」

「あなたは、外を知ってる。広い世界を知ってる。
 だから、いつか屋敷から……
 僕から離れて、外に戻っちゃうんじゃないかって、不安なんです」

「側にいるって約束したろ。
 それに、外に行く時はお前も一緒だ。だから今があるんじゃねぇの」

「そ、そうだけど、でも……
 僕は何も知らないから、
 あなたに呆れられちゃうと思うと、怖くて……」
 
 肩を落として、ユリアがそんなことを言う。

「何も知らないって。
 お前の方がめちゃくちゃ、いろんなこと知ってるじゃねぇか」

「僕の『知ってる』は本に書かれていることだけですよ。
 ……そんな知識、生きていませんから」

「そうは思わねぇけどな。
 まあ、でも、心配だっつーなら、これから知ってけばいいだけだろ」

 オレは、きょとんとするユリアの顔を覗き込んだ。

「いいか。知らないってことは、知っていけるってことだ。
 これからはオレと一緒に、色んなもの観て、触って、
 食べて、ってするんだよ。今日みたいにさ。
 楽しかったろ?」

「バンさん……僕は……」

「怖いなら、オレの手を離すな。
 大丈夫、ちゃんとエスコートしてやる。
 オレはお前の世話係なんだから」

 手を引けば、ユリアは一瞬、躊躇った。
 オレは強い意志を込めて、無理やり、その手を引いた。

 引かなければならないと思った。

 彼は、オレが離れていくのを恐れているわけじゃない。
 『生きる』ことを恐れているのだと、分かってしまったから。
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