120 / 224
エピソード21
麗しき僧服の男(7)
しおりを挟む
よくよく話を聞けば、オレがユリアに教わった言語は、
現在では古典文学でしか見掛けることがないものらしい。
「あー……そういうことか」
オレは1人、納得した。
話し言葉と読み言葉がここまで違うのかと何度も挫折しかけたが、
そもそも口語ではなかったのだ。
ユリアも気付いていなかったらしく、
スヴェンの話を聞いて、目を丸くしている。
そんな話をしていると、受付の男が戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらになりますね」
差し出されたのは、見覚えのある革張りの本だった。
「良かったですね、バンさん」
「ああ、うん……」
嬉しそうにするユリアに、オレは曖昧に頷いた。と――
「それでは、一等市民以上の住民票を確認させてください」
受付の男の言葉にスヴェンがえっと声を上げた。
「滞在許可証ではダメなんですか?」
「街外の方ですか?
それでしたら、所属する支部名を教えてください」
オレたちは顔を見合わせた。
「支部名?」
「洗礼を受けた教会の名前が必要なんですよ」
「あー……」
言葉を探して口籠もると、察してくれたのかスヴェンが続けてくれた。
「すみません、彼らは教会の人間ではなくて……」
「でしたら、こちらの本はお貸しすることは出来ません。
貴重本ですから」
「館内で読むのもダメですか?」
「申し訳ございません」
「そこをなんとか……」
「スヴェン、もういいって。ありがとな」
更に食い下がろうとしてくれたスヴェンを、オレは止めた。
「ですが……せっかくここまで来たのに」
「まあ、仕方ねぇよ」
500年も前の本ならば、残っている冊数も少ないだろう。
身分の保障か出来ない相手に貸し出しを断るのは、
紛失や盗難のことを考えると当たり前だった。
「……そうですか。本当にすみません。お役に立てず。
僕の名義で借りられたら良かったんですけど……僕は二等市民だから……」
「ここまで案内してくれただけで十分だって」
そもそも読み終えるまでこの街に滞在は出来ないだろう。
それに、本が無かったとなれば、
この街を早めに出て行く理由になる。
「縁があれば、どっかでまた読めるだろ」
肩を落とすスヴェンに笑ってみせる。
するとユリアが目を輝かせて口を開いた。
「あの、それじゃあ、街の案内をお願いしてもいいですか?」
「ユリア?」
「お祭りなんでしょう?
せっかくここまで来たんです。楽しんでから帰りましょうよ」
「……それもそうだな」
一瞬、不安が過ったが、
明日、朝一で街を出るなら問題ないだろうと考え直す。
「案内なら任せてください! 得意ですから!」
スヴェンが小声で頷いた。
ーーその時だ。
「どうかしたんですか?」
凜とした美しい声が耳に届いて、オレたちは振り返った。
見れば、白い僧服をまとった美しい男がこちらへ向かって歩いてくる。
白銀の髪をなびかせるその姿は、
どんな賞賛も色褪せてしまうほど、神々しい。
「ジルベール様!」
今にも跪く勢いで、スヴェンが声を上げた。
現在では古典文学でしか見掛けることがないものらしい。
「あー……そういうことか」
オレは1人、納得した。
話し言葉と読み言葉がここまで違うのかと何度も挫折しかけたが、
そもそも口語ではなかったのだ。
ユリアも気付いていなかったらしく、
スヴェンの話を聞いて、目を丸くしている。
そんな話をしていると、受付の男が戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらになりますね」
差し出されたのは、見覚えのある革張りの本だった。
「良かったですね、バンさん」
「ああ、うん……」
嬉しそうにするユリアに、オレは曖昧に頷いた。と――
「それでは、一等市民以上の住民票を確認させてください」
受付の男の言葉にスヴェンがえっと声を上げた。
「滞在許可証ではダメなんですか?」
「街外の方ですか?
それでしたら、所属する支部名を教えてください」
オレたちは顔を見合わせた。
「支部名?」
「洗礼を受けた教会の名前が必要なんですよ」
「あー……」
言葉を探して口籠もると、察してくれたのかスヴェンが続けてくれた。
「すみません、彼らは教会の人間ではなくて……」
「でしたら、こちらの本はお貸しすることは出来ません。
貴重本ですから」
「館内で読むのもダメですか?」
「申し訳ございません」
「そこをなんとか……」
「スヴェン、もういいって。ありがとな」
更に食い下がろうとしてくれたスヴェンを、オレは止めた。
「ですが……せっかくここまで来たのに」
「まあ、仕方ねぇよ」
500年も前の本ならば、残っている冊数も少ないだろう。
身分の保障か出来ない相手に貸し出しを断るのは、
紛失や盗難のことを考えると当たり前だった。
「……そうですか。本当にすみません。お役に立てず。
僕の名義で借りられたら良かったんですけど……僕は二等市民だから……」
「ここまで案内してくれただけで十分だって」
そもそも読み終えるまでこの街に滞在は出来ないだろう。
それに、本が無かったとなれば、
この街を早めに出て行く理由になる。
「縁があれば、どっかでまた読めるだろ」
肩を落とすスヴェンに笑ってみせる。
するとユリアが目を輝かせて口を開いた。
「あの、それじゃあ、街の案内をお願いしてもいいですか?」
「ユリア?」
「お祭りなんでしょう?
せっかくここまで来たんです。楽しんでから帰りましょうよ」
「……それもそうだな」
一瞬、不安が過ったが、
明日、朝一で街を出るなら問題ないだろうと考え直す。
「案内なら任せてください! 得意ですから!」
スヴェンが小声で頷いた。
ーーその時だ。
「どうかしたんですか?」
凜とした美しい声が耳に届いて、オレたちは振り返った。
見れば、白い僧服をまとった美しい男がこちらへ向かって歩いてくる。
白銀の髪をなびかせるその姿は、
どんな賞賛も色褪せてしまうほど、神々しい。
「ジルベール様!」
今にも跪く勢いで、スヴェンが声を上げた。
0
お気に入りに追加
1,050
あなたにおすすめの小説
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ファミリア・ラプソディア エバーアフター
Tsubaki aquo
BL
「5人で恋人同士」なカップルの日常話+リクエスト頂いたお話をこちらでまとめています。
●ファミリア・ラプソディア本編完結済み●
本編→https://www.alphapolis.co.jp/novel/807616543/930403429
本編では悲喜交々ありましたが、こちらの日常回では大きな事件は起こらない(たぶん)です。
前書きに、お話の雰囲気のタグを記載しています。
イチャイチャ、まったり、コメディ、アダルトシーン多めの予定。
不定期更新です。
もしもリクエストなどございましたら、
マシュマロ(https://marshmallow-qa.com/aumizakuro)
または、
twitter(https://twitter.com/aumizakuro)
にて、お気軽にドウゾ!
落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~
志麻友紀
BL
学園のプリンス(19)×落ちこぼれガイドのメガネ君(18)
卵から男しか産まれず、センチネルという魔法の力がある世界。
ここはそのセンチネルとガイドの才能ある若者達が世界中から集められるフリューゲル学園。
新入生ガイドのフェリックスははっきり言って落ちこぼれだ。ガイドの力を現すアニマルのペンギンのチィオはいつまでたっての灰色の雛のまま。
そのチィオがペアを組むセンチネルを全部拒絶するせいで、マッチングがうまく行かず学園の演習ではいつも失敗ばかり。クラスメイト達からも“落ちこぼれ”と笑われていた。
落ちこぼれのフェリックスの対極にあるような存在が、プリンスの称号を持つセンチネルのウォーダンだ。幻想獣サラマンダーのアニマル、ロンユンを有する彼は、最強の氷と炎の魔法を操る。だが、その強すぎる力ゆえに、ウォーダンはいまだ生涯のパートナーとなるガイドを得られないでいた。
学園のすべてのセンチネルとガイドが集まっての大演習で想定外のSS級魔獣が現れる。追い詰められるウォーダン。フェリックスが彼を助けたいと願ったとき、チィオの身体が黄金に輝く。2人はパーフェクトマッチングの奇跡を起こし、その力でSS級の魔獣を共に倒す。
その後、精神だけでなく魂も重なり合った二人は、我を忘れて抱き合う。フェリックスはウォーダンの運命のボンドとなり、同時にプリンセスの称号もあたえられる。
ところが初めてペアを組んで挑んだ演習でウォーダンは何者かの策略にはまって魔力暴走を起こしてしまう。フェリックスはウォーダンを救うために彼の精神にダイブする。そこで強いと思っていた彼の心の弱さ知り、それでも自分が一緒にいるよ……と彼を救い出す。
2人の絆はますます強くなるが、演習で最下位をとってしまったことで、2人のプリンスとプリンセスの地位を狙う生徒達の挑戦を受けることになり。
運命の絆(ボンド)が試される、ファンタジー・センチネルバース!
悩ましき騎士団長のひとりごと
きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。
ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。
『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。
ムーンライト様にも掲載しております。
よろしくお願いします。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる