115 / 224
エピソード21
麗しき僧服の男(2)
しおりを挟む
「ああ。旅の途中でさ」
オレは何処にでもある当たり障りのない食事を頼んでから、
上階を指した。
「宿に空きはあるか?
一晩、泊まりたいんだが」
「2部屋かい?」
「いえ、1部屋で大丈夫です」
オレが答える前に、こちらの会話に気付いたユリアが口を挟む。
「今、オレが話してるだろ」
「でも、2部屋って決まっちゃったら嫌ですから」
「お前なあ……」
「なんだい、2人でお忍びかい」
「えっ、いや、そうじゃなくて……」
店主が意味ありげな笑みを浮かべる。
オレはすかさず否定をしようとして……止めた。
概ね合っている。
「1部屋なら、すぐに用意出来るよ」
「ありがとうございます」
「礼を言うのは、こっちの方さ。
こんなちんけな村の宿に泊まる客なんて、
数年見たことがないからね。商売あがったりだったところさ」
肩を竦めて、店主が踵を返す。
オレはその背に声をかけた。
「ああ、そうだ……ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「ん? なんだい?」
オレは袖でテーブルの上を拭うと、地図を広げた。
「この地図なんだけどさ、間違って……る、よな?」
「え? 間違ってるんですか!?」
ユリアが驚くのに、「たぶん」と頷く。
するとカウンター越しに、店主が地図を覗き込んで来た。
「これは……
間違ってるっていうより、古いんじゃないかね」
彼女は少しの間、小首を傾げてから、
常連客の一人に声を張り上げた。
「スヴェン! ちょっと、こっちに来とくれよ。
アンタ、頭いいだろう?」
「なんですか、頭いいって。
また肯定も否定もしづらいことを……」
ブツブツと文句を言いながら、
スヴェンと呼ばれた青年が、コチラに歩いてくる。
寝癖だらけの赤髪の男だ。
顔の中心にはそばかすが浮き、丸眼鏡の奥の目は糸のように細い。
「で、なにさ?」
「この人たちの持ってる地図、ちょいと見てあげてよ。
随分と古いみたいなんだ」
店主はそう言い置くと、今度こそ厨房の奥に引っ込んだ。
代わりに、スヴェンがオレの隣に座って地図に目を向ける。
「どれどれ……」
彼は鼻に乗せていた丸眼鏡を持ち上げたかと思うと、
顎に手をやり、おぉっと声を漏らした。
「……本当だ。もの凄く古い地図だね。
ほら、見てご覧。この右上にある紋章」
顔を上げて、スヴェンが地図の端を指で差す。
そこには、双つの斧が交差した紋章の印が押されていた。
「これ、リーヴ男爵のものだ」
「リーヴ?」
「そう。この大陸を教会が治めるずっと前の男爵だよ」
スヴェンは深々と頷くと、続けた。
「地図というのはね、一般人には作ることが禁じられた時代の権威の象徴なんだ。
つまり、公式に存在する地図の全ては時の為政者にチェックされている。
逆に言うと、紋章の記載がない地図はモグリだから、
正確性に欠けているってわけ」
「へえ……」
「それにしても、こんな地図で旅をしているなんて面白いね」
そう言って、彼はオレとユリアの顔を交互に見た。
目が細すぎて微笑んでいるように見えるが、正確な感情は読めない。
「君たち……まさか、時を超えて来たの?」
オレは何処にでもある当たり障りのない食事を頼んでから、
上階を指した。
「宿に空きはあるか?
一晩、泊まりたいんだが」
「2部屋かい?」
「いえ、1部屋で大丈夫です」
オレが答える前に、こちらの会話に気付いたユリアが口を挟む。
「今、オレが話してるだろ」
「でも、2部屋って決まっちゃったら嫌ですから」
「お前なあ……」
「なんだい、2人でお忍びかい」
「えっ、いや、そうじゃなくて……」
店主が意味ありげな笑みを浮かべる。
オレはすかさず否定をしようとして……止めた。
概ね合っている。
「1部屋なら、すぐに用意出来るよ」
「ありがとうございます」
「礼を言うのは、こっちの方さ。
こんなちんけな村の宿に泊まる客なんて、
数年見たことがないからね。商売あがったりだったところさ」
肩を竦めて、店主が踵を返す。
オレはその背に声をかけた。
「ああ、そうだ……ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「ん? なんだい?」
オレは袖でテーブルの上を拭うと、地図を広げた。
「この地図なんだけどさ、間違って……る、よな?」
「え? 間違ってるんですか!?」
ユリアが驚くのに、「たぶん」と頷く。
するとカウンター越しに、店主が地図を覗き込んで来た。
「これは……
間違ってるっていうより、古いんじゃないかね」
彼女は少しの間、小首を傾げてから、
常連客の一人に声を張り上げた。
「スヴェン! ちょっと、こっちに来とくれよ。
アンタ、頭いいだろう?」
「なんですか、頭いいって。
また肯定も否定もしづらいことを……」
ブツブツと文句を言いながら、
スヴェンと呼ばれた青年が、コチラに歩いてくる。
寝癖だらけの赤髪の男だ。
顔の中心にはそばかすが浮き、丸眼鏡の奥の目は糸のように細い。
「で、なにさ?」
「この人たちの持ってる地図、ちょいと見てあげてよ。
随分と古いみたいなんだ」
店主はそう言い置くと、今度こそ厨房の奥に引っ込んだ。
代わりに、スヴェンがオレの隣に座って地図に目を向ける。
「どれどれ……」
彼は鼻に乗せていた丸眼鏡を持ち上げたかと思うと、
顎に手をやり、おぉっと声を漏らした。
「……本当だ。もの凄く古い地図だね。
ほら、見てご覧。この右上にある紋章」
顔を上げて、スヴェンが地図の端を指で差す。
そこには、双つの斧が交差した紋章の印が押されていた。
「これ、リーヴ男爵のものだ」
「リーヴ?」
「そう。この大陸を教会が治めるずっと前の男爵だよ」
スヴェンは深々と頷くと、続けた。
「地図というのはね、一般人には作ることが禁じられた時代の権威の象徴なんだ。
つまり、公式に存在する地図の全ては時の為政者にチェックされている。
逆に言うと、紋章の記載がない地図はモグリだから、
正確性に欠けているってわけ」
「へえ……」
「それにしても、こんな地図で旅をしているなんて面白いね」
そう言って、彼はオレとユリアの顔を交互に見た。
目が細すぎて微笑んでいるように見えるが、正確な感情は読めない。
「君たち……まさか、時を超えて来たの?」
0
お気に入りに追加
1,050
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ファミリア・ラプソディア エバーアフター
Tsubaki aquo
BL
「5人で恋人同士」なカップルの日常話+リクエスト頂いたお話をこちらでまとめています。
●ファミリア・ラプソディア本編完結済み●
本編→https://www.alphapolis.co.jp/novel/807616543/930403429
本編では悲喜交々ありましたが、こちらの日常回では大きな事件は起こらない(たぶん)です。
前書きに、お話の雰囲気のタグを記載しています。
イチャイチャ、まったり、コメディ、アダルトシーン多めの予定。
不定期更新です。
もしもリクエストなどございましたら、
マシュマロ(https://marshmallow-qa.com/aumizakuro)
または、
twitter(https://twitter.com/aumizakuro)
にて、お気軽にドウゾ!
悩ましき騎士団長のひとりごと
きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。
ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。
『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。
ムーンライト様にも掲載しております。
よろしくお願いします。
落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~
志麻友紀
BL
学園のプリンス(19)×落ちこぼれガイドのメガネ君(18)
卵から男しか産まれず、センチネルという魔法の力がある世界。
ここはそのセンチネルとガイドの才能ある若者達が世界中から集められるフリューゲル学園。
新入生ガイドのフェリックスははっきり言って落ちこぼれだ。ガイドの力を現すアニマルのペンギンのチィオはいつまでたっての灰色の雛のまま。
そのチィオがペアを組むセンチネルを全部拒絶するせいで、マッチングがうまく行かず学園の演習ではいつも失敗ばかり。クラスメイト達からも“落ちこぼれ”と笑われていた。
落ちこぼれのフェリックスの対極にあるような存在が、プリンスの称号を持つセンチネルのウォーダンだ。幻想獣サラマンダーのアニマル、ロンユンを有する彼は、最強の氷と炎の魔法を操る。だが、その強すぎる力ゆえに、ウォーダンはいまだ生涯のパートナーとなるガイドを得られないでいた。
学園のすべてのセンチネルとガイドが集まっての大演習で想定外のSS級魔獣が現れる。追い詰められるウォーダン。フェリックスが彼を助けたいと願ったとき、チィオの身体が黄金に輝く。2人はパーフェクトマッチングの奇跡を起こし、その力でSS級の魔獣を共に倒す。
その後、精神だけでなく魂も重なり合った二人は、我を忘れて抱き合う。フェリックスはウォーダンの運命のボンドとなり、同時にプリンセスの称号もあたえられる。
ところが初めてペアを組んで挑んだ演習でウォーダンは何者かの策略にはまって魔力暴走を起こしてしまう。フェリックスはウォーダンを救うために彼の精神にダイブする。そこで強いと思っていた彼の心の弱さ知り、それでも自分が一緒にいるよ……と彼を救い出す。
2人の絆はますます強くなるが、演習で最下位をとってしまったことで、2人のプリンスとプリンセスの地位を狙う生徒達の挑戦を受けることになり。
運命の絆(ボンド)が試される、ファンタジー・センチネルバース!
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる