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エピソード17
終わりなき行く末(5)
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* * *
オレはユリアに連れられて、
渋々ながらヴィンセントとセシルの見送りに出ていた。
屋敷の前には、ずらりとメイドたちが居並んでいる。
星の降るような夜だった。
「今度こそ、本当に行っちゃうんですね。
寂しくなります」
呼びつけた馬車の前で、ユリアはセシルの手を握りしめた。
「色々とありがとう、ユリア。
それと……本当にごめんね」
「謝らないで、って言ったでしょう?」
「うん……
あの、さ。……手を出して」
そう言って、セシルはあの指輪を外すと、
ユリアの手の上に乗せた。
「これは……」
驚いたように指輪を見下ろすユリアに、
セシルは続ける。
「君に持ってて欲しいんだ」
「大事なものなんじゃないんですか?」
「うん……でも、これがボクなりのケジメ。
指輪を手放しても、根本的な解決にはならないって思うけど、
ボクは心が弱いから」
「……分かりました。では、大切に保管しておきますね」
ユリアはニコリと微笑むと、指輪を握りしめた。
「保管?」
「ええ。いつか、大丈夫になったら取りに戻って来てください」
セシルが目を見開く。
それから、彼はユリアに飛びついた。
「……君って、本当、お人好し過ぎるよ」
「お人好しなわけじゃないですよ。
あなたは友達だから」
ユリアは小さな背を抱きしめ返す。
「また、トランプしましょうね」
「……うん。ありがとう」
別れの挨拶を済ませると、セシルは腕を解いた。
続いて、無言でユリアの後ろに控えていたオレに目を向ける。
「……バンも。
たくさん、ごめん」
「……」
セシルはしばらくオレの応えを待ってから、踵を返した。
その背に、オレは言った。
「約束は守れよ」
「え……」
バッとセシルがこちらを振り返る。
オレは肩を竦めた。
「何だよ、その顔。
ユリアは取りに戻れって言ったんだ。そんで、お前は頷いた。
2度と、うちの坊ちゃんを裏切るな。……次はねぇぞ」
セシルは何か言おうと口をもごもごさせる。
すると、その大きな目からボロッと涙がこぼれ落ちた。
その肩をヴィンセントが促した。
「セシル。行くぞ」
「うん……」
凹凸2つの影が馬車に吸い込まれていく。
闇の中、星のきらめきを頼りに馬が走り出し、
その背をオレとユリア、何人ものメイドが無言で見送った。
「バンさん。ありがとう」
やがて、馬車の影が見えなくなると、
ポツリとユリアが言った。
「……何が」
「いえ」
ユリアがオレを振り返る。
その柔らかな微笑みが、ふいに翳った。
……彼はオレと2人きりになるのを恐れていたのかもしれない。
セシルたちがいる間は、なんとなく避けていられた話題を、
オレが口にすると気付いていたから。
「なあ、ユリア」
「はい?」
「……話したいことがある。後で、部屋に行ってもいいか」
ユリアの唇から短い溜息が落ちる。
「もちろんですよ」
オレは知れず、自身の胸元を押さえていた。
オレはユリアに連れられて、
渋々ながらヴィンセントとセシルの見送りに出ていた。
屋敷の前には、ずらりとメイドたちが居並んでいる。
星の降るような夜だった。
「今度こそ、本当に行っちゃうんですね。
寂しくなります」
呼びつけた馬車の前で、ユリアはセシルの手を握りしめた。
「色々とありがとう、ユリア。
それと……本当にごめんね」
「謝らないで、って言ったでしょう?」
「うん……
あの、さ。……手を出して」
そう言って、セシルはあの指輪を外すと、
ユリアの手の上に乗せた。
「これは……」
驚いたように指輪を見下ろすユリアに、
セシルは続ける。
「君に持ってて欲しいんだ」
「大事なものなんじゃないんですか?」
「うん……でも、これがボクなりのケジメ。
指輪を手放しても、根本的な解決にはならないって思うけど、
ボクは心が弱いから」
「……分かりました。では、大切に保管しておきますね」
ユリアはニコリと微笑むと、指輪を握りしめた。
「保管?」
「ええ。いつか、大丈夫になったら取りに戻って来てください」
セシルが目を見開く。
それから、彼はユリアに飛びついた。
「……君って、本当、お人好し過ぎるよ」
「お人好しなわけじゃないですよ。
あなたは友達だから」
ユリアは小さな背を抱きしめ返す。
「また、トランプしましょうね」
「……うん。ありがとう」
別れの挨拶を済ませると、セシルは腕を解いた。
続いて、無言でユリアの後ろに控えていたオレに目を向ける。
「……バンも。
たくさん、ごめん」
「……」
セシルはしばらくオレの応えを待ってから、踵を返した。
その背に、オレは言った。
「約束は守れよ」
「え……」
バッとセシルがこちらを振り返る。
オレは肩を竦めた。
「何だよ、その顔。
ユリアは取りに戻れって言ったんだ。そんで、お前は頷いた。
2度と、うちの坊ちゃんを裏切るな。……次はねぇぞ」
セシルは何か言おうと口をもごもごさせる。
すると、その大きな目からボロッと涙がこぼれ落ちた。
その肩をヴィンセントが促した。
「セシル。行くぞ」
「うん……」
凹凸2つの影が馬車に吸い込まれていく。
闇の中、星のきらめきを頼りに馬が走り出し、
その背をオレとユリア、何人ものメイドが無言で見送った。
「バンさん。ありがとう」
やがて、馬車の影が見えなくなると、
ポツリとユリアが言った。
「……何が」
「いえ」
ユリアがオレを振り返る。
その柔らかな微笑みが、ふいに翳った。
……彼はオレと2人きりになるのを恐れていたのかもしれない。
セシルたちがいる間は、なんとなく避けていられた話題を、
オレが口にすると気付いていたから。
「なあ、ユリア」
「はい?」
「……話したいことがある。後で、部屋に行ってもいいか」
ユリアの唇から短い溜息が落ちる。
「もちろんですよ」
オレは知れず、自身の胸元を押さえていた。
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