人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード16

ユリアと獣(4)

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* * *

 黒い化け物はーーいや、ユリアだったものは、
 吹っ飛ばしたバンには目もくれず、
 再び俺へと腕を振るった。

 剣を構えて、重い衝撃を受ける。
 ビリビリと握りしめる手に振動が伝う。

 バンが何を言おうと、ここは退くしかない。
 セシルへ向かって、彼を連れて逃げろと言おうとした刹那、
 バッと目の前で黒が散った。

 それは、ユリアの右腕から溢れた黒い血液だった。

 どれほど攻撃をしてもかすり傷一つ負わせることができなかったというのに、
 一体、何が起こったのか理解が追いつかない。

 ユリアは俺と距離を開けるように飛び退ると、首を傾げ自分の傷口を眺めている。
 セシルの声が聞こえたのは、その時だ。

「ヴィンセント! バンが怪我を……!!」

「余計なこと言うな。大したことねぇよ」

 バンの掠れた声が耳に届く。
 咄嗟に振り返った俺の目に、右腕を抑えて顔をしかめるバンの姿が映った。

 ユリアと同じ、右腕の傷。
 こちらの攻撃を一つとして受けていないにも関わらず、傷を負ったユリア。

 ーー刹那、俺の中で1つの光が見えた。

 バンの怪我が原因で、ユリアが傷ついたのだとすれば。
 彼らの肉体は、繋がっているのではないか?

 バンの人知を超えた回復力の高さは、その繋がりによるもの。
 だとすれば──

『ヴィンセント、彼らの治癒能力がどこから来ているのか分かりますか?』

 ふいに、20年前の同僚の声が脳裏に去来した。

『それは、心臓です。いえ、核と言ってもいいかもしれません。
 彼らはそれによって、あの恐るべき治癒能力を得ているのです』

『しかし、それは同時に弱点足りえる。だからこそ、我々は彼らの心臓を狙う』

『では、問題です。彼らはその弱点をそのままにしておくでしょうか?』

『要である心臓を、わざわざ分かりきっている場所に置いたままにするのは、
 ただの傲慢というものですよ』

 あの1月のヴァンパイアは、そうだった。
 心臓を別の場所で保管していたせいで、
 処刑官たちは何度も彼を追い詰めながら、トドメを刺せなかった。

 そして、ユリアは何らかの理由で、
 バンの中に自らの心臓を入れたのだろう。

 つまり、俺がユリアに致命傷を与えてしまったとしても、
 バンが生き続ける限り、殺すことは不可能だということだ。

 それならば、暴走した彼を止めることはできる。
 俺の中には、『呪い』があるのだから。
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