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エピソード14
忍び寄る「黒」と赤い過去(4)
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* * *
大剣を構える男を睨め付けながら、俺は小さく鼻を鳴らす。
「一方的に嬲られる趣味でもあるのか」
男は剣の陰に半身を隠すような奇妙な構えをとったまま、じっとこちらを見ている。
その瞳には、「一瞬でも隙を見せればその瞬間斬り裂いてくれる」とでも言わんばかりの殺気を込めながら。
……気に食わん。
俺は歯を剥いて、唸る。
幾度となく奴には鉤爪を振るってやった。
だが、その度に致命傷を避け、こちらへと攻撃を仕掛けてくる。
そのどれもが俺には届かぬ程度の攻撃であったが、徐々に、しかし着実にその距離を縮め続けていた。
──次の一撃は俺の首を撥ねるかもしれない。
そんな想いがこの膠着状態を作り出している。
「鬱陶しい……」
いっそ腕の一本でもくれてやり、その釣りに喉笛を噛み千切ってやれば話は早い。
だが、男の性質がそれを許さない。
『第一級処刑官』
ユリアが読んだ本の情報が正しければ、
この男は呪いによって穢れている。
処刑官の中でも、桁違いに夜の眷属を屠ってきただろうコイツは、
その身体の内に殺した者の怨念を溜め込んでいるのだ。
俺が男を殺した瞬間、その呪いは自動的に発動し、
俺に襲いかかってくるだろう。
自らの死を以て標的を確殺する、怪異の天敵だ。
やはり、あのガキを逃がしたのは失敗だった。
指輪を取り上げ、その力で男を眠らせる。
その後は、メイドにでも殺させればいい。
それから、俺の心臓を持つあの忌々しい使用人を
屋敷の奥深くに閉じ込め……
……これで何もかもがうまくいったというのに。
判断を誤った。と、思う。
俺は鼻から息を逃すと、改めて男を見る。
体中に浅くない傷を負っているにも拘わらず、
集中力は途切れるどころか鋭さを増している。
……ああ、面倒だ。
殺したい。
僅かにでも踏み出せば、そこには死線が待っている。
殺さないように奴を黙らせることができるか。いや、やるしかあるまい。
空間の温度が次第に下がっていく。
タイミングを計る。
奴の両足を狩り取るその時の。
……すると、微かに音がした。
足音だ。
それはどんどんこの部屋へと近付いてくる。
メイドのような大人しい音ではない。これは……この2人分の足音は……
「……俺の勝ちだ」
口の中で呟く。
それから間もなく、ドアノブが回りガキが顔を見せる。
――俺は、標的をそちらに変更した。
大剣を構える男を睨め付けながら、俺は小さく鼻を鳴らす。
「一方的に嬲られる趣味でもあるのか」
男は剣の陰に半身を隠すような奇妙な構えをとったまま、じっとこちらを見ている。
その瞳には、「一瞬でも隙を見せればその瞬間斬り裂いてくれる」とでも言わんばかりの殺気を込めながら。
……気に食わん。
俺は歯を剥いて、唸る。
幾度となく奴には鉤爪を振るってやった。
だが、その度に致命傷を避け、こちらへと攻撃を仕掛けてくる。
そのどれもが俺には届かぬ程度の攻撃であったが、徐々に、しかし着実にその距離を縮め続けていた。
──次の一撃は俺の首を撥ねるかもしれない。
そんな想いがこの膠着状態を作り出している。
「鬱陶しい……」
いっそ腕の一本でもくれてやり、その釣りに喉笛を噛み千切ってやれば話は早い。
だが、男の性質がそれを許さない。
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この男は呪いによって穢れている。
処刑官の中でも、桁違いに夜の眷属を屠ってきただろうコイツは、
その身体の内に殺した者の怨念を溜め込んでいるのだ。
俺が男を殺した瞬間、その呪いは自動的に発動し、
俺に襲いかかってくるだろう。
自らの死を以て標的を確殺する、怪異の天敵だ。
やはり、あのガキを逃がしたのは失敗だった。
指輪を取り上げ、その力で男を眠らせる。
その後は、メイドにでも殺させればいい。
それから、俺の心臓を持つあの忌々しい使用人を
屋敷の奥深くに閉じ込め……
……これで何もかもがうまくいったというのに。
判断を誤った。と、思う。
俺は鼻から息を逃すと、改めて男を見る。
体中に浅くない傷を負っているにも拘わらず、
集中力は途切れるどころか鋭さを増している。
……ああ、面倒だ。
殺したい。
僅かにでも踏み出せば、そこには死線が待っている。
殺さないように奴を黙らせることができるか。いや、やるしかあるまい。
空間の温度が次第に下がっていく。
タイミングを計る。
奴の両足を狩り取るその時の。
……すると、微かに音がした。
足音だ。
それはどんどんこの部屋へと近付いてくる。
メイドのような大人しい音ではない。これは……この2人分の足音は……
「……俺の勝ちだ」
口の中で呟く。
それから間もなく、ドアノブが回りガキが顔を見せる。
――俺は、標的をそちらに変更した。
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