人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード14

忍び寄る「黒」と赤い過去(1)

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 壁掛けの灯りに映し出されて、廊下に黒い影が伸びている。
 足音に加えて、物々しい装備類の音が反響していた。

 ふと窓の外へと目を向ければ、うっすらと東の空が白み始めている。
 ボクは後ろを歩くヴィンセントを振り返った。

「……ずっと思ってたんだけどさ。
 なんで、屋敷の中だっていうのに武器を持ち歩いてるわけ」

「何があるか分からないからな」

 短い答えに、ボクは肺の中が空っぽになるような溜息をつく。

「変に疑われなかったから良かったものの……
 普通だったら取り上げられてるから。
 っていうか、そも、屋敷にすら入れて貰えなかったからね」

「そうなったら、その時に考えていた」

 目的の部屋の前に辿り着くと、
 ボクは深呼吸してから、扉をノックした。

「どうぞ」

 柔らかな声が応える。
 ボクはヴィンセントと視線を交わしてから、扉を押し開いた。

「……あれ? セシル?」

「ごめんなさい、お休み間際に。
 その……もう少しだけ、ユリアさんとお話したくて」

「気にしないで。まだ起きていますから」

 ちょっと待っていてください、と言い置いてユリアは窓辺に歩み寄った。
 それから、カーテンを閉めてくれる。

 暗くなった部屋で、灯火が揺れた。

「今、お茶を用意しますから。そちらで、くつろいでいてください」

 ユリアが無防備に背を向けて、呼び鈴に手を伸ばす。
 彼に背後から近付いたボクは、その手を掴んだ。

「お茶はいりません」

「え?」

 振り返ったユリアの眼前に指輪をかざす。
 キラリとそれが輝くと、ユリアの大きな体が揺れた。

「……っ」

 ガクリと膝を折った彼が、咄嗟にテーブルに手をついて体を支える。
 その耳朶に、ボクはそっと唇を寄せた。

「眠いでしょう、ユリア。
 ゆっくり、ゆっくり、落ちていくんだ。深い夢の底に……」

「あ……」

 支える力も失い、ゆっくりとユリアは崩れ落ちていく。
 ボクはそれを確認すると、ヴィンセントを振り返った。

「ヴィンセント。彼をベッドに運んで。
 それから衣服を脱がせて。もちろん下着も全部」

「本当にやるのか?」

「決まってるでしょ。
 既成事実さえ作っちゃえば、彼はもうボクに逆らえないんだから」

「……うまくいくといいがな」

ヴィンセントが、肩をすくめる。

「いくに決まってるでしょ。ほら、早くやって」

「……分かった」

 ヴィンセントがユリアに歩み寄ろうとした――その時だった。

「……セシル、伏せろッ!!」

 ヴィンセントが声を出すと同時に大剣の柄に手をかける。
 咄嗟に伏せたその瞬間、ボクの頭上を鋭い風が横切った。
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