人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード13

パーティナイト(2)

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 ピクリとも表情を動かさないヴィンセントとは対照的に、
 セシルは嘘が得意ではないらしい。

「じ、じゃあ、ゲームを始めましょう!」

 みんなが初めのカードを捨て終わると、
 ぎこちない笑みを浮かべて、セシルが手札をユリアに向けた。

「どうぞ、ユリアさん」

「はい。では……これを」

 ユリアは間髪入れずに1枚を引く。

「良かった。当たりだ」

 ニコリと笑うと、彼は1組のペアを場に捨てる。

「運がいいんですね」

「ええ、ラッキーでした」

 笑みを引き攣らせたセシルに嫌味なく答えると、
 ユリアは続いてオレに手札を差し出す。

「はい、バンさんの番ですよ」

「ああ」

 1枚を引く。残念ながら、ペアを作ることは出来なかった。
 次はヴィンセントがオレから1枚を引き、その彼からセシルが引き……
 グルグルと互いにカードを引いていくと、
 あっという間にユリアの手札がなくなった。

「ふふ、ラスト1枚です」

「早いな」

 押し黙っていたヴィンセントが、楽しげに口の端を持ち上げる。
 その横で、セシルはプルプルと震えていた。

 ……ジョーカーは一度も彼の元から動いていない。

「ら、ラス1がなかなか合わないんですよね~!」

 そう言いながら、セシルが手の内でカードを思い切りシャッフルする。
 それから、彼は1枚だけ高さを変えてユリアに差し出した。

 ユリアはどう動くだろう?

 セシルの手札はあと6枚。

「それじゃあ、これで」

 ユリアはやはり臆することなく、端から1枚を引いた。そして……

「わっ、やったあ! おしまいです!」

 満面の笑みで、場に2枚のカードを捨てた。

「嘘……」

 愕然としたのは、セシルだけじゃない。
 オレも、喜ぶユリアをまじまじと見つめた。

 彼は全てのターンでペアを作り、ラスト1枚すらまごつくことはなかった。
 これを驚異的と言わずして、何と言うだろう?

『次はお前の番だよ、使用人』

 ハッと顔を上げると、
 ギリギリとセシルが歯軋りしながらオレに手札を差し出していた。

「ああ、失礼しました」

 なんでわざわざ念話……と思いつつ、
 素直にカードを引こうとしたオレは手を止める。

 真ん中の頭一個高く持たれたカードに指を向ければ、
 セシルの口の端が持ち上がった。
 つい、と横にズラせば、鼻に皺を寄せたセシルから
 ギリギリと歯軋りする音が聞こえてくる。

「……」

 ……これは賭け事ではない。ゲームだ。
 使用人が主人の友人に勝つのは御法度だろう。

 オレは一つ溜息を落とすと、悩んだ風を装ってジョーカーを引き受けた。

「……!」

 セシルの目がキラリと輝く。

「はっ、ははっ! バーカ! ジョーカー引いてやんの!!」

 にんまりと笑ってセシルが指を突きつけてくる。
 次の瞬間、ユリアの視線に気付いたのか彼はハッと口元をカードで覆った。

「す、すみません、ボク……あなたの恋人に酷いことを……!」

「謝らないでください。ゲーム中なんです、盛り上がって悪いコトはないですよ」

 フォローを入れる。するとユリアも頷いた。

「バンさんもこう言っていますし、遠慮しないでセシル」

「はい……」

 しおらしくセシルが席に着く。
 オレはヴィンセントに手札を向けた。

「どうぞ。お好きなカードを」

 ……それからも緊張した空気の中、
 順調にジョーカーはオレの下に居座り続けた。
 問題が起こったのは、オレのターン――カード枚数はオレが2、ヴィンセントが1、セシルが2枚の時だった。

 ヴィンセントが、オレの手からジョーカーを引き抜いたのだ。
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