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エピソード13
パーティナイト(1)
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翌日の夜。
バラ園で、客人をもてなすティーパーティが催された。
煌煌と輝くたくさんの灯りに照らし出された青いバラの庭は、
とても幻想的だった。
気温もちょうど良く、風も凪いでいる。
見上げた空には数多の星がきらめいていた。
「ステキな庭ですね」
ティーテーブルに腰かけたセシルが、辺りを見渡し、ほうと甘い吐息をこぼした。
昨晩の彼の衣装も華やかだったが、今夜の彼もなかなか気合が入っている。
対して、ヴィンセントは剣を担いだままの無骨な格好のままだ。
「ありがとうございます。セシルたちは、昨日はよく眠れましたか?」
「お陰様で。ベッドもふかふかで感動しました」
オレはといえば、メイドとともに紅茶を入れたり、
ケーキの用意をしたりと忙しく動いていた。
ユリアには、一緒にお茶を、と誘われたが、
オレは彼の恋人の前に一世話係だ。
それで給金を貰っているというのに、職務を蔑ろにはできない。
「……もっと気が利いた話が出来たら良いのですが、
僕はその、あまり、人付き合いをしたことがなくて。
退屈させてしまったら、ごめんなさい……」
「そんな……っ、気を使わなくても良いんですよ。
ボクたち、友達でしょう?」
テーブルに身を乗り出して、セシルがユリアの手を握りしめる。
「……あっ、そうだ! ボク、いいこと思いつきましたよ。
ユリアさん、トランプしましょう」
そう言うなり、彼は肩掛けの小さなカバンから古びた箱を取り出した。
「ゲームって良いものですよ。
適度にお互いの緊張をほぐしてくれますし、
それほど話さなくても、相手の人となりがなんとなく分かりますし……
いかがです?」
「では、是非」
ユリアが頷くと、セシルは早速、箱からトランプを出した。
「ババ抜きって知ってます?」
手慣れた様子で、トランプをシャッフルしながら問う。
ユリアは小首を傾げた。
「ババ抜き?」
「知りません?
こっちだと、確か……オールドメイドって呼ばれてるんでしたっけ?」
「ああ、オールドメイド。本で名前だけは……」
記憶を紐解こうとするユリアに、ヴィンセントが軽く説明してくれる。
「同じ数字のペアを捨てていき、
最後までペアにならなかったカードを持っていた人が負け、というゲームだ」
「ババ抜きはペアを作れないカードとして、ジョーカーが入ってます。
つまり、最後までジョーカーを持っていた人が負けってコトですね」
セシルの補足が終わったタイミングを見計らって、
オレは紅茶とケーキを運んだ。
「お楽しみのところ、失礼します」
「バンさん。トランプをやるんですが、一緒にどうですか?」
ユリアがすがるような眼差しをオレに向けてくる。
「いや、オレは……」
主人の友人と椅子を並べてゲームに興じるのは、いかがなものか。
躊躇っていると、セシルに服の裾を引かれた。
「3人だと盛り上がりにかけるし、人数が増えると助かるんだけど」
想わぬ援護射撃に、パッとユリアが顔を輝かせた。
「セシルさんもこう言ってるわけですし……」
「……かしこまりました」
オレは苦笑をこぼすと、ユリアの隣の席に着いた。
「ルール説明はいる?」
「いえ。やったことがありますので」
答えれば、セシルはカードを配り始めた。
「それじゃ、まずは手札の中で同じ数字があったら場に捨ててくださいね」
オレは手の内のカードを見下ろした。
ジョーカーはない。
ついで、オレはメンバーに目を向けた。
手札を引く順番は、セシル←ユリア←オレ←ヴィンセント←セシルだ。
さすがに表情を見ただけでは、誰がジョーカーを持っているかどうかは分からな……
いや、分かった。
「……っ」
セシルだ。
彼は怒ったような、悲しそうな、
それを隠そうと必死になっているような、物凄く微妙な表情をしていた。
額にはうっすらと汗までかいている……
バラ園で、客人をもてなすティーパーティが催された。
煌煌と輝くたくさんの灯りに照らし出された青いバラの庭は、
とても幻想的だった。
気温もちょうど良く、風も凪いでいる。
見上げた空には数多の星がきらめいていた。
「ステキな庭ですね」
ティーテーブルに腰かけたセシルが、辺りを見渡し、ほうと甘い吐息をこぼした。
昨晩の彼の衣装も華やかだったが、今夜の彼もなかなか気合が入っている。
対して、ヴィンセントは剣を担いだままの無骨な格好のままだ。
「ありがとうございます。セシルたちは、昨日はよく眠れましたか?」
「お陰様で。ベッドもふかふかで感動しました」
オレはといえば、メイドとともに紅茶を入れたり、
ケーキの用意をしたりと忙しく動いていた。
ユリアには、一緒にお茶を、と誘われたが、
オレは彼の恋人の前に一世話係だ。
それで給金を貰っているというのに、職務を蔑ろにはできない。
「……もっと気が利いた話が出来たら良いのですが、
僕はその、あまり、人付き合いをしたことがなくて。
退屈させてしまったら、ごめんなさい……」
「そんな……っ、気を使わなくても良いんですよ。
ボクたち、友達でしょう?」
テーブルに身を乗り出して、セシルがユリアの手を握りしめる。
「……あっ、そうだ! ボク、いいこと思いつきましたよ。
ユリアさん、トランプしましょう」
そう言うなり、彼は肩掛けの小さなカバンから古びた箱を取り出した。
「ゲームって良いものですよ。
適度にお互いの緊張をほぐしてくれますし、
それほど話さなくても、相手の人となりがなんとなく分かりますし……
いかがです?」
「では、是非」
ユリアが頷くと、セシルは早速、箱からトランプを出した。
「ババ抜きって知ってます?」
手慣れた様子で、トランプをシャッフルしながら問う。
ユリアは小首を傾げた。
「ババ抜き?」
「知りません?
こっちだと、確か……オールドメイドって呼ばれてるんでしたっけ?」
「ああ、オールドメイド。本で名前だけは……」
記憶を紐解こうとするユリアに、ヴィンセントが軽く説明してくれる。
「同じ数字のペアを捨てていき、
最後までペアにならなかったカードを持っていた人が負け、というゲームだ」
「ババ抜きはペアを作れないカードとして、ジョーカーが入ってます。
つまり、最後までジョーカーを持っていた人が負けってコトですね」
セシルの補足が終わったタイミングを見計らって、
オレは紅茶とケーキを運んだ。
「お楽しみのところ、失礼します」
「バンさん。トランプをやるんですが、一緒にどうですか?」
ユリアがすがるような眼差しをオレに向けてくる。
「いや、オレは……」
主人の友人と椅子を並べてゲームに興じるのは、いかがなものか。
躊躇っていると、セシルに服の裾を引かれた。
「3人だと盛り上がりにかけるし、人数が増えると助かるんだけど」
想わぬ援護射撃に、パッとユリアが顔を輝かせた。
「セシルさんもこう言ってるわけですし……」
「……かしこまりました」
オレは苦笑をこぼすと、ユリアの隣の席に着いた。
「ルール説明はいる?」
「いえ。やったことがありますので」
答えれば、セシルはカードを配り始めた。
「それじゃ、まずは手札の中で同じ数字があったら場に捨ててくださいね」
オレは手の内のカードを見下ろした。
ジョーカーはない。
ついで、オレはメンバーに目を向けた。
手札を引く順番は、セシル←ユリア←オレ←ヴィンセント←セシルだ。
さすがに表情を見ただけでは、誰がジョーカーを持っているかどうかは分からな……
いや、分かった。
「……っ」
セシルだ。
彼は怒ったような、悲しそうな、
それを隠そうと必死になっているような、物凄く微妙な表情をしていた。
額にはうっすらと汗までかいている……
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