人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード12

来訪者(3)

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 ポカンとセシルが口を開ける。

「は……? 恋人……?」

「そういうわけで、その、友達になって頂けるのはとても嬉しいのですが、
 恋人は無理です……! ごめんなさい!」

 セシルの体から手を離すと、ユリアは勢い良く頭を下げる。
 チラリとオレに視線を投げた彼の目は『言っても大丈夫でした?』と問うていた。

 ……ああ、恋人。恋人か。確かに、この関係性は恋人だ。

 ユリアの頬の赤味が電波したように顔に熱が集まって、
 オレはそんな自分の反応に内心苦笑をこぼす。

「恋人って、お前が……?」

 セシルが疑わしげにコチラに目を向ける。
 オレは軽く肩をすくめて見せた。

「は? はあぁぁぁぁぁあっ!?」

 裏返った声を上げて、彼はオレに人差し指を突きつける。

「コイツ!? コイツがユリアさんの恋人なの!?
 この、目つきのわっ……いや、ええと、か、格好いい感じの彼が!?」

 悪かったな。目つき悪くて。

 盛大に舌打ちしたかったが、主人の友人候補にそれは出来ない。
 オレは努めて、困ったような微笑みを返した。

「そんな……理解できない……」

 やがてセシルはせせら笑うように鼻から息を吐き出した。

「あー……もしかして、床上手とかそういう?」

「そ、それは……す、凄く、その、お上手ですよ……!」

 認めるんかい。

「え……」

 予想外の反応だったのだろう、セシルは再び口の端を引きつらせた。

 あれっぽっちで奉仕もクソもねぇけど。などと思いつつ、
 オレは引き続き困った表情を浮かべる。

「……で、でもさっ」

 セシルは今にも砂を吐きそうなレベルで不機嫌になると、拳を震わせた。

「……ユリアさんってこの屋敷から出たことないんだよね?
 ってことは、この人が初めてだったんでしょ?
 つまり、下手か上手かなんて分からないよね?
 なんか丸め込まれてない? ボク、心配だな」

「……でしたら、お試しになります?」

「「えっ……」」

 小首を傾げれば、ユリアとセシルの声が重なった。

「ばっ……! バカなの!?
 ボクはお前のコトなんてこれっぽちも興味ないし。
 汚らわしい目で見ないでくれない!?」

「ですが、心配なんでしょう? 目で体で確認して貰った方が懸念は晴れるかと……
 心配でしたら、坊ちゃんも一緒に――」

「ダメです!」

 わなわなと肩を震わせていたユリアが、声を絞り出す。

「え、なんで?」

 相手が変わればオレの愚息も反応を示し、
 それがきっかけで問題解決……なんてこともあるかと思ったのだが。

「バンさんは僕の恋人なんですよ。
 他の人と、あっ、あんなことをするだなんて、容認できません!」

 痛いほど肩を掴まれ、ガクガクと揺らされた。
 必死の形相のユリアに、オレは目を瞬かせる。

 するとセシルは先ほどまでの調子を取り戻したようで、
 短かく溜息をついた。

「……はぁ。振られちゃったなら、仕方ないか。
 でも、ユリアさん。お友達としてなら、僕と仲良くしてくれる?」

「もちろんですよ」

「良かったあ」

 とろける笑みを浮かべて、セシルが胸をなでおろす。
 ついで、彼はオレに歩み寄ると耳朶に唇を寄せた。

「――恋人の座に踏ん反り返っていられるのも、今の内だけだから。
 お前はユリアさんに相応しくない」

 直接頭に語りかけるような声で告げると、パッと体を離す。

「それじゃあ、遠慮せずに客間の方を使わせて貰いますね。
 あっ、部屋までの案内は、あそこのメイドにお願いしますので。
 今日から、よろしくお願いします」

 踵を返したセシルに、彼の連れのヴィンセントは床に置いてあった荷物を
 ひょいと持ち上げると、軽く顎を引いてから背を向ける。

「……あの、バンさん。彼はさっきなんて?」

「うん?」

「念話を使ってたでしょう?
 もしかして、部屋に呼ばれたなんてこと……」

「それは、マジでない」

 心配そうなユリアに、オレは苦笑した。

「フツーによろしくって言われたよ」

「本当に?」

「ホント、ホント」

「だったら声に出して会話すればいいのに」

「照れ屋なんだろ」

 オレはセシルたちの消えた扉をチラリと見やる。
 ハルに言われて来たとはいえ、セシルには何か裏がありそうな感じがした。

 面倒なことにならなければいいけど。

 心の中でぼやくと、
 オレは未だ不安げにするユリアの髪をくしゃりと撫でた。
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