人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

文字の大きさ
上 下
35 / 224
エピソード12

来訪者(1)

しおりを挟む
「嫌だ……嫌だよ……止まってよ…………っ!」

 手を当てた傷口から、みるみるうちに命が、赤が、抜けていってしまう。

 優しい母がいて、優しい父がいて、ワガママな妹がいて。
 そんな自分にとっての普通は一瞬で崩れ去ってしまった。

 1匹の悪魔が全部壊してしまった。

「やだ、やだやだ、やだっ……」

 家の中は血の匂いで満ちている。

 足音が耳に届いた。
 ゆっくりとした、重い足取りだ。

 振り返れば、鎧で身をまとった男がボクを見下ろしていた。
 ーー大地に突き立てられた、聖なる槍。
 その周りで2匹のヤモリが互いの尻尾を噛み合う、紋様が鎧に刻まれている。

「……ボクも、殺すの」

 男は物言わず、血で濡れた剣をこちらに向けた。

「どうして」

 切っ先から滴り落ちる、赤。

 赤、
 赤、
 赤。

 ねえ。
 どうして。



* * *

 ある日の夜。
 月が空の真上を横切る頃、ユリアがふと窓の外に目を向けた。

「どうした?」

 ベッドを整えていたオレは問いを口にする。
 すると彼は戸惑ったように肩をすくめた。

「誰か来たみたいですね」

「誰かって……結界は……っ?」

 教会の奴らか。そう続けようとしたその時、
 扉がノックされて、音もなくメイド長が部屋を訪れた。

「ユリア様。お客様がおみえです」

 オレはユリアと顔を見合わせる。

 二人で客間に移動すれば、やがて現れたのは、なんともちぐはぐな二人組だった。

 一人は年の頃、13、4の少年だ。
 長い桃色の髪を2つに縛り、
 惜しみなくレースが使われたセビアな色合いの衣装を身にまとっている。
 ペチコートで膨らんだスカートから伸びる足はスラリと細い。
 一見、少女と見紛うばかりだが、骨張った華奢な体は男のそれで、
 衣裳とのミスマッチが不思議な魅力をかもしている。

 もう一人は少年とは対照的な、いかつく、背の高い男だった。
 年の頃は40から45くらいだろうか。
 精悍な顔つきで、旅装の上からでも鍛え抜かれた筋肉が見てとれた。
 特に目を引くのは、その鋭い眼光と、背負った男の身長ほどもある大剣だろう。
 彼はオレたちを見ると、荷物を床に置いた。

「こんばんは、ユリアさん。ボクはセシル」

 彼はアーモンド型の目を鋭く細めると、続ける。

「ヴァンパイアのセシル・ハーベストと言います」

 ついで中年の男がユリアから視線を外さぬまま軽く会釈した。

「俺はヴィンセント。……人間だ」

 ユリアもつられて頭を下げる。

「ハルさんに言われたんです。
 ユリアさんのお友達になって欲しいって」

「叔父さんの……?」
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか

佐藤醤油
ファンタジー
 主人公を神様が転生させたが上手くいかない。  最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。 「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」  そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。  さあ、この転生は成功するのか?  注:ギャグ小説ではありません。 最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。 なんで?  坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

生涯の伴侶

希紫瑠音
BL
■古強者は恋慕う 騎士×騎士(二人ともおっさん) ・宗とクレイグは五十近いベテランの騎士。ある日、クレイグが宗へ伴侶になって欲しいと婚姻を申し込む。 ■王子は船乗りに恋をする 第三王子(家事が得意/世話好き/意外と一途)と船長(口が悪い/つれない) ■騎士隊長×第六王子 はじめは第六王子を嫌っていたが、のちに溺愛していく。

処理中です...